枝打ちとはどんな作業?適した時期や道具、やり方と注意点
枝打ちとは、木の成長段階で余分な枝を切り落とす作業で、木材の価値を高めるために欠かせないものです。自身での枝打ちを検討している森林所有者や、林業関連企業の担当者もいるのではないでしょうか。この記事では、枝打ちの目的や枝払い・剪定との違い、時期、必要な道具を解説します。枝打ちのやり方と注意点も紹介していますので、参考にしてみてください。
Contents
枝打ちとは、木の商品価値向上を目的に行う作業
枝打ちとは、林業における作業の一つ。鉈(ナタ)・斧・鎌・ノコギリなどを使用して、余分な枝を切って落とします。それにより森林内に光が入り草や低木が育つようになる効果もあり、土壌の流出を抑えて土砂災害を防止するためにも欠かせない作業です。枝打ちを始めるタイミングは樹種や木の成長度合いなどによりますが、多くは植林から10年前後で最初の枝打ちを行い、木が目標の高さに達するまで数年おきに繰り返します。
枝打ちの主な目的は、木材を「無節(表面に節がない状態)にする」「真っすぐな木を造る」など、木材の商品価値を高めることです。
勢いよく成長している木は、多くの枝がつき、そのままにしておくと節のある木材になってしまいます。そこで、一定の高さまでの枝を打って落とし、節のない木材の生産を目指します。また、枝葉の量を調整して木の成長をコントロールするのも、枝打ちを行う目的の一つです。
枝打ちの時期・道具・やり方・注意点などは、後半で解説します。
枝打ちと枝払い、剪定の違い
枝打ちと混同しやすい作業に、「枝払い」「剪定」があります。枝を切るという点では共通していますが、それぞれの目的や作業内容が異なります。どのような違いがあるのか、見ていきましょう。
枝打ち | 枝払い | 剪定 | |
目的 | 高品質の木材を生産する | 伐採した木を木材に加工しやすくする | 花・実のつき方を良くする。樹形を整える |
時期 | 春先・晩秋 | 伐採後 | 樹種による |
対象 | 成長過程の木 | 伐採した木 | 庭木、果樹 |
作業内容 | 幹から生えている枝のうち、余分な枝や枯れた枝などを打って落とす | 伐採した木から、枝を切り落とす | 枯れた枝、交差している枝、病気の枝などを除去する。全体の形を整える |
枝払いとの違い
枝払いとは、伐採した木を材木に加工するために、木の枝を切り落とす作業です。伐採後の造材作業という点で、生きている木の手入れをする枝打ちと異なります。
剪定との違い
剪定とは、生木の枝を切って短くする(減らす)作業ですが、枝打ちとは目的が異なります。剪定は庭木や果樹に行う作業で、日当たりや風通しを良くして健康状態を維持し、花つき・実つきを促進するものです。また、伸びすぎた枝や交差している枝葉などを切り落として、樹形を美しく整える目的もあります。
剪定を行うのは、主に果樹農家や造園業者、植木を趣味とする個人ですが、例えば神社にある御神木のような高木を、林業事業者(木こり)が剪定する場合もあります。
枝打ちに適した時期
枝打ちに適した時期は年に2回あり、木の生育期と厳寒期を避けるのが一般的です。
時期1:早春〜新芽が吹き出す前の春先
木の新芽が出る前の、早春が枝打ちに適しています。地域や森林環境などにもよりますが、4月~9月頃は木の生育期で、この時期の前後に枝打ちを行います。生育期は新たな組織が未熟で樹液流動(水揚げ)も盛んなため、幹が傷つきやすく、傷が付くと修復されずに拡大する恐れもあるためです。
時期2:秋の始まり頃から雪が降る前
木の生育が落ち着いて、傷もつきにくくなる秋〜初冬も適期です。厳寒期は木の生育は停止していますが、寒さで作業効率が低下する、枝が固くなりすぎて道具が傷むなどの理由から、枝打ちに適していません。
※キクイムシ(ナラ枯れ)の被害が懸念される森林では、成虫が活動する5月~9月の枝打ちは避け、秋~冬に実施しましょう。枝打ち跡の匂いに、虫が誘引されるためです。
枝打ちに用いる道具
枝打ちに必要なものは、木を切るための道具と、木に登るための道具(装備)に大別できます。
<木を切る道具>
枝打ちは、枝を切るためにさまざまな刃物を使い分けます。同じ工具でも、地域によって形状が異なる場合があります。
- 細い枝の切断:鉈、斧(手斧)、鎌
- 太い枝の切断:枝打ち用ノコギリ、枝打ち用チェーンソー など
鉈・斧は熟練が必要で、慣れないと幹に傷をつけやすいため、ノコギリが安全と考えられます。高い場所の枝を切るための「高枝ノコギリ」や、片手で扱える「電動ノコギリ」などもあるので、使いやすいものを選びましょう。刃物類を安全に扱うために、刃物を収納するケースを用意しておくのもおすすめです。
チェーンソーを使用する場合は、保護帽(ヘルメット)・バイザー・防振手袋・耳栓(イヤーマフ)・呼子(笛)・保護メガネなどが不可欠です。厚生労働省が定める「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」により、「下肢の切創防止用保護衣」の使用が業種を問わず義務化されているため、防護ズボンまたはチャップスも必要です。
<木に登る道具・装備>
高所での枝打ち作業は、木に登る必要があるため、専用の道具・装備を使用します。高さに関係なく、安全確保のために落下を防ぐベルトやハーネス、万が一の転落に備えてヘルメットを着用しましょう。
高さ2m以上の場所は「高所作業」となるため、「ムカデばしご」「枝打ちはしご」などと呼ばれる専用のはしごを確実に据え付け、保護帽のほかに墜落制止用器具(ハーネス型または胴ベルト型一本つり)も必要です。
自分が木に登らなくても、自動で登って枝打ちをする「自動枝打ち機(枝打ちロボット)」でも高所作業が可能です。昔は機体が重く作業効率も良くなかったためあまり普及しませんでしたが、研究開発が進み、山中で持ち運びしやすい商品が登場しています。
枝打ちのやり方
これから枝打ちを実施する方のために、事前の準備と、基本的な作業を解説します。
<準備>
生産の目的に添って作業を行うために、枝打ちを実施する木を決定します。初回の枝打ちは、その後の作業(除伐、間伐など)をしやすくするために、全ての木について枝打ちを行います。2回目以降は、木の成長具合や生産目標とするサイズなどに合わせて、数年おきに実施します。
枝打ちは、枝が細いうちに実施して、作業の効率化と高品質の木材生産を両立します。病気・虫害を受けている、枯れている、曲がってしまい木材生産に適さないなど、明らかに間伐・除伐の対象となる木については、作業効率化のために枝打ちを行いません。
<基本作業>
枝打ちは、「枝座(しざ)」と呼ばれる、枝が幹についている膨らんだ部分を残します。切り口が大きすぎて修復に時間がかかる、枝の下部分の樹皮が剥がれると、傷から菌が入り、木が変色して木材としての価値が下がるためです。切り落とす際は、幹に傷をつけないように、切る場所を見極めて正確に切りましょう。
枝が太い場合は、①枝先を1度落とす、②付け根に切り込みを入れる、③枝座を残して付け根から落とすという手順で枝打ちをします。
枝打ちをする際の注意点
枝打ちは個人でもできますが、いくつか注意点があります。
安全を確保した上で作業する
作業する人の安全確保が重要です。夏場でも長袖・長ズボンが基本で、袖や裾が絞れるものが、作業中に引っかからず安全です。保護帽(ヘルメット)、手袋・防塵ゴーグル・滑りにくい作業靴など、林業に適した服装で作業にあたりましょう。
はしごに登って作業する場合は、ハーネスなど落下防止対策も必要です。緊急時の連絡方法も重要で、現地でトランシーバーなどの無線機や携帯電話・スマートフォンによる通信が可能か、事前に確認しておきましょう。
森林には、人にとっては危険な動植物が生息している場合もあります。例えば、ウルシ・イラクサのような有毒植物や、クマ・ハチ・マムシ・ヒルなどがいることもあるため、十分な注意が必要です。また山間は天候が変わりやすいため、天気予報をよく調べておき、天候によっては作業日を変更しましょう。
道具の手入れや担当者の体調管理をしっかりしておくことも、作業の安全確保につながります。
作業に不安を感じる場合は業者に依頼する
枝打ちは個人でもできますが、道具を揃える手間や時間がかかります。また、打って落とした枝の処分も必要です。不慣れな刃物を使う作業で、想定外の事故につながるリスクもあるので、少しでも不安を感じる場合は、専門業者に依頼しましょう。
費用負担が気になる場合は、枝打ちを含む林内の作業に補助金が交付される自治体があるので、補助対象となる条件を調べてみるのもおすすめです。
枝打ちのやり方を理解し、安全に配慮して作業しよう
枝打ちの目的は、高品質な木材を生産することです。やり方や使う道具などはさまざまで、樹種や木の成長度合などによって異なり、適切な時期は地域差もあります。費用とリスクの両面から慎重に判断し、きちんと計画を立てた上で、安全面に十分注意しながら枝打ちを実施しましょう。