林業とはどのような産業?暮らしに不可欠な森林との関係や将来性、やりがいなど
第一次産業の一つである林業は、日本の森林を整備することにより、環境保全や人の暮らしを支える重要な産業です。林業についてその仕事の内容や魅力を詳しく知りたいと考える人もいるでしょう。
今回の記事では、林業とはどのような産業なのか、主な仕事内容やその現状などを紹介します。厳しい中にも、多くの魅力ややりがいのある仕事であることを、改めて認識できるのではないでしょうか。
Contents
林業とは?暮らしに欠かせない産業
「林業」と言うと、「木を育てて木材を作る」ことをイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし、木材の生産は林業の一側面にすぎません。まずは、人の暮らしを支える林業について、多岐にわたる仕事内容や、暮らしの中で担う役割をみていきましょう。
林業の主な仕事内容
林業は、木が育ち伐採期を迎えるというライフサイクルを守ることで、森林の恩恵を人の暮らしに与える仕事です。その中には、「伐採」「植林」「活用」という3つの側面があります。
伐採
「伐採」とは木を切ること。伐採期を迎えた木を切り倒す仕事の他にも、「間伐」や「除伐」と言われる、木や森林全体の状態をよりよく保つための伐採も含まれます。
植林
「植林」は木を植え、育てること。1本の木が収穫できるようになるまでには、50~60年が必要と言われています。木が育つ間、森林の循環を保つために適切な頻度やタイミングで木を植え、育てていくのが植林です。また、苗木を植えるための土壌作りも行います。
活用
「活用」は、森林資源を活用するにあたって必要な加工などの工程を指します。伐採した木を木材として活用できるようにするまでの、重機を使った造材や運搬などが含まれます。
●林業の主な仕事
(参考:『日本の森林・林業の今:林野庁』)
林業が担う役割
林業は多面的に人の暮らしを支えています。例えば、「植栽」「保育」「間伐」「伐採」といった林業における生産活動は、「森林火災や土砂災害の防止」「水源の涵(かん)養」「憩いの場の提供」など、さまざまな公益をもたらしています。
また、木材はその製造過程で大気中の二酸化炭素を吸収して光合成を行います。これにより、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制するといった役割も担っています。
このように、林業により森林を適切な状態に保つことが、地球環境の保全や、ひいては人々の暮らしを守ることにもつながっているのです。
森林白書でみる、「森林」の現状とその役割
林業にとって欠かせない資源である森林は、人の暮らしにも多大な恩恵をもたらしています。日本における森林の今とその役割をみていきましょう。
森林の現状
日本には国土全体の3分の2に相当する約2,500万ヘクタール(以下ha)の森林があり、そのうち約4割に相当する約1,000万haを人工林が占めています。これらの人工林は、戦中に荒廃した森林の復旧造林や、戦後復興や高度経済成長期を支えるための木材供給を目的に拡大したもの。これらの人工林は、先人たちの手によって、植林、下刈り、間伐といった膨大な手間や時間をかけて造成されてきました。
現在人工林の半数は、一般的な主伐期である「50年生」を超え、本格的な利用期を迎えています。その蓄積量は約33億m3と森林全体の約6割を占めており、1966年からの50年間で、約6倍に増加。森林資源はかつてなく充実した状態といえます。
しかし、2016年における木材の国内生産量は約2,800万m3にとどまり、人工林の年間蓄積増加量が約5,300万m3であることを踏まえると、十分に活用されていないのが現状です。
(参考:林野庁『1 森林の現状と課題』、『日本の森林・林業の今:林野庁』)
人の暮らしおける、森林の役割
森林は、地球温暖化防止や生物多様性の保全など、さまざまな側面から人の生活の安定や経済発展に寄与しています。「樹木の根による土砂崩れや岩石崩落などの抑制」「森林による水質浄化作用」などがその一例です。
これらは「森林の有する多面的機能」とされ、暮らしに欠かせない役割を担っています。一部の機能については、貨幣価値に換算され、例えば「地球環境保全」は年間1兆4652億円もの価値を生んでいると言われています。
●暮らしに役立つ森林の働き
(参考:『日本の森林・林業の今:林野庁』)
林業が抱える課題とは
林業は、森林を適切に育む重要な役割を持つ産業です。しかし、林業を巡っては多くの課題も浮き彫りとなっています。林業が抱える課題の一部をみていきましょう。
林業産出額の減少
日本の林業産出額は、戦後の大量伐採に伴う国産材の生産量減少や、木材価格の低下などを要因として、1980年の約1.2兆円をピークに減少傾向が続いています。農林水産省が公表した「令和元年林業産出額」によると、2019年の林業産出額は前年比で44億円減少(対前年増減率▲0.9%)の、4,976億円となりました。
木材価格の下落
木材価格は、高度経済成長に伴う需要の増大などにより、1980年にピークを迎えました。しかしその後、木材需要の低迷や輸入材との競合により長期的に下落。木材の種類別では、ヒノキ中丸太はピーク時の約4分の1、スギ中丸太はピーク時の約3分の1の価格に落ちています。
一方で、昨今のコロナ禍においてアメリカでは新築住宅需要が急増。北米などから輸入される木材の価格高騰が続いています。この動きに連動し、国内の丸太や製材価格も上昇。現在起こっている木材価格の高騰は「ウッドショック」と呼ばれ、輸入製材に頼る日本国内の家具製造や住宅建設などの業界にも影響が及んでいます。
生産性の低さ
日本の林業は外国に比べ生産性が低いことも課題の一つです。2008年におけるスギ中丸太の価格は「12,200円/㎥」だったのに対し、素材生産費・運材費といったコストの合計は、主伐で「7,699円/㎥」、間伐で「10,659円/㎥」でした。これによる粗収入は、主伐で「約4,500円/㎥」、間伐で「約1,500円/㎥」にすぎません。
このように日本の林業は、植林から伐採までの長期にわたる投資に見合った収入を得ることが困難な状況といえるでしょう。この結果、採算が合わないという経済的な理由から伐採が手控えられる現状にあります。
林業従事者の高齢化
第一次産業の多くがそうであるように、林業もまた高齢化が進み、後継者問題に直面しています。総務省の国勢調査によると、林業従事者の数は長期的に減少傾向で推移しており、2015年には45,000人となっています。林業の高齢化率(65歳以上の割合)をみると、2015年は25%で、全産業平均の13%に比べても高い水準にあります。
林業の課題に対する解決策や取り組み
林業における課題を解決するために、現在さまざまな取り組みが行われています。
国産木材の活用推進
木材の利用促進に向けて、これまで木材が使われてこなかった分野で、新たに需要を拡大する取り組みを推進。「公共建築物などの木造化・木質化」「木質バイオマスのエネルギー利用」「木材輸出の促進」などが行われています。
2010年10月に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に基づき、木材を使った公共建築物が各地で建築されています。最近では、CTL(直交集成板)を利用した、中高層や中大規模の木造建築も国内外で増加しています。
また、未活用であった間伐材等を再生可能エネルギーである「木質バイオマス」として活用する取り組みも進められています。木材の再生可能エネルギーへの活用は、「二酸化炭素の排出抑制と地球温暖化の防止」「廃棄物発生を抑制」「リスクの分散」などといった効果も期待されています。
サプライチェーンの再構築
生産から加工といった、木材流通全体の効率化を図るために、事業者同士の連携による「サプライチェーンの再構築」も、林業を活性化させる取り組みの一つです。コーディネーターによるICTを活用した情報共有など、先端技術を活用した「スマート林業」の実践的取り組みにより、木材流通コストの削減や木材需要の拡大が期待されています。
(参考:林野庁『新たな森林管理システムの構築に向けた川上と川下の連携』)
管理されていない森林の所有者と林業経営者のマッチング
「管理されていない森林の所有者」と「林業経営者」をつなぐ取り組みも進められています。2019年4月、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立のため、森林所有者が経営・管理できない森林について市町村が仲介役となり、森林所有者と林業経営者をつなぐ「森林経営管理制度」が施行されました。
同制度では、適切な経営管理が行われていない森林の経営管理を林業経営者に集積・集約化します。また、それができない森林の経営管理を市町村が行うことで、森林の経営管理を確保。従来は森林保有者自らが行ってきた事業委託業務に市町村が介入し、未管理となっている森林の管理が進むことが期待されています。
(参考:林野庁『森林経営管理制度(森林経営管理法)について』)
施業の集約化や路網整備・機械化による生産性の向上
各地に分散していた森林所有者が共同で設業を実施するため、施業の集約化が行われています。この中では、木材輸送などに重要な幹線となる路網(森林内にある公道、林道、作業道の総称)の整備も推進されています。これにより、作業現場へのアクセスや機械の導入が行いやすくなり、効率面の向上が期待できます。
さらに、林業の主に伐採から加工の工程では、重機を活用した機械化も進められています。機械を有効活用することで、林業の生産性向上が期待できます。
新規就業者の確保・育成
新規就業者を確保し、現場技能者として段階的・体系的に育成するため、林野庁が主体となり、「緑の雇用」事業に取り組んでいます。同事業では、林業志望者と林業事業者のマッチングのほか、未経験者でも林業に就業し必要な技術を学べるように、講習や研修を行い、キャリアアップを支援しています。
林業の成長産業化、資源活用による産業創出
都市部に居住する人の地方への移住ニーズと、林業資源の活用をマッチングさせることで、林業においても新たな価値を生む成長産業化が期待されています。山村経済の発展に向けて、森林空間を活用する「森林サービス産業」、林業と他産業との「複合経営」や「林福連携」などへの取り組みが推進されています。
林業への携わり方 〜林業に就業するまで〜
林業に携わるには、さまざまな手段があります。林業や森林に関わる仕事に就くために知っておきたい情報をみていきましょう。
林業従事者になる方法
林業に従事するには、主に以下のような方法があります。
(1)林業を営む民間企業に就職する (2)森林組合に就職し、現場作業員として従事する (3)林業を営む第三セクターの職員になる
林業を営む事業体には、民間の林業会社のほか、森林所有者が組合を作って運営する「森林組合」、地方自治体や森林組合が共同出資して設立する「第三セクター」などがあります。
このうち、民間企業では「保有林で事業を営む会社」と「森林を保有せずに、所有者から業務を受託している」企業があります。民間企業による林業の主な事業は主伐ですが、会社によってさまざまです。まず民間企業で経験を積み、独立を目指す人も少なくないようです。
また、森林組合に就職して現場業務を行うという方法もあります。日本には約700の森林組合があると言われており、森林保有者や自治体からの委託を受けてさまざまな森林作業を実施しています。
林業に関する資格
森林・林業・木材産業に携わる方法として、専門資格を取得する方法があります。例えば、国家資格である「技術士(森林部門)」のほか、民間資格として「林業技士」「森林情報士」といった資格があります。ほかにも、木材産業に関わる資格や森林レクリエーションに関わる資格など、林業に関する資格はさまざまです。これらの資格は、森林・林業・木材産業を支える人材の技術水準を確保するためにも重要な役割を果たします。
(参考:林野庁『日本の森林・林業の今』)
林業で得られる年収は?
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、2017年における林業従事者の平均年収は343万円でした。ただし、この金額はあくまで平均値を示したもので、実態は就業先や事業内容、資格の有無などによってさまざまと言えるでしょう。
また、従来は日給や出来高制を採用する企業等がほとんどだった林業ですが、2019年には月給制を採用する企業が約3割と増加しています。年間の就業日数も210日以上である事業体が約7割となっており、以前と比べて林業収入は安定してきていると言えるでしょう。
(参考:林野庁『一目でわかる林業労働(データ編)』)
林業の新規就業者の推移
林野庁の資料をもとに林業の新規就業者数の推移を見てみると、「緑の雇用」事業実施前の1994年度の新規就業者数は2,111人でしたが、事業実施以降の2003年度は4,334人に倍増。2003年度~2019年度までの年間平均は約3,200人と事業開始前から大きく増加しています。2019年度における新規就業者の全体は2,855人、そのうち「緑の雇用」を通じた就業者が772人でした。
また、同じ資料をもとに新規就業者を「民間事業体」と「森林組合」に分けて見てみましょう。「緑の雇用」開始以前は森林組合への就業に比べると、民間事業体への就業者は少数派でした。しかし同事業開始後は両者の割合が除々に均等化していき、2007年以降は民間事業体への就業者が森林組合への就業者を逆転しています。
緑の雇用事業により、林業への就業ルートが多角化し、また事業者と就業希望者のマッチングが適切に進められていることがうかがえます。
(参考:林野庁『林業労働力の動向』)
林業の求人はどこで確認できる?
林業の求人は、民間の求人サイトのほか公的な機関としてハローワークや「緑の雇用」サイトからも確認できます。緑の雇用サイトでは、「森林(もり)の仕事ガイダンス」として、どのような林業の仕事があるかを紹介するガイダンスを、全国のエリアごとに定期的に開催しています。同ガイダンスに参加後は、実際に林業体験会や講習会への参加やアルバイトなどを経て、林業への就業という段階を踏みながら林業に就業することもできるようです。
林業への就業に興味を持つ場合は、これらのサイトを活用しながらどのような求人があるのかを定期的に調べてみるとよいでしょう。
(参考:林野庁『就業するには | 森林で働く。林業に関心のある学生の皆さんへ』)
(関連記事:『新たな林業の担い手の確保・育成を目的とした「森林(もり)の仕事ガイダンス」を開催。相談者は2,500名に迫る』)
林業の魅力ややりがい
「親が植え、子が育て、孫が伐る」という言葉から想像できるように、林業は親子三世代に渡る、壮大なプロジェクトです。ダイナミックな森林のサイクルとともにある林業にはどのようなやりがいがあるのでしょうか。実際に林業に従事する人の声をご紹介します。
「チームワークで難しい木を倒したときの達成感は、他にはない魅力」(桐生広域森林組合・アーボリスト/鈴木秀典さん)
息子と親子2代で林業に従事する鈴木秀典さんは、高木の樹上で樹木の剪定や伐採をする資格「アーボリスト」を持ち、林業に携わっています。鈴木さんは林業の魅力について、次のように話しています。
「林業では、『この木を倒すのが難しい』という局面に多々遭遇します。これをチームワークで無事に切り終えたときの達成感は、他では味わえないと思っています。アーボリストの資格を活かし、自分にしか伐れない木を倒せるのもやりがいです。別の事業者から、『自分たちでは難しいのでお願いします』と言われるのが嬉しいですね。今は伐れない木がないので、『伐れない木出て来い』という気持ちで働いています」
また、鈴木さんによると、「特殊な仕事だと思われがちな林業だが、技術を磨く術を支援してくれる体制が整備されている。今は一人前になるまで手厚くサポートしてくれる」と言います。アーボリストのように危険を伴う業務に携わる資格も、取得まで手厚いサポートを受けられるため、安心して従事できるのだそうです。
「森林の循環をサポートし自然環境を守る。自分の仕事を次の世代に受け継ぐのが林業」(桐生広域森林組合・フォレストマネージャー/星野智哉さん)
桐生広域森林組合でフォレストマネージャーを務める星野智哉さんは、林業の仕事ややりがいを、次のように話しています。
「林業では、朝現場に直行し暗くなる夕方以降は業務できないため、オンとオフの切替やメリハリを持ちやすいと思います。私たちの仕事は、間伐をして悪い木をなくし森を育てながら何年も先に森を維持していくということ。その中で私が一番大切にしているのは、若手が安全に仕事ができる環境をつくることです。危険予知活動により、どうしたら安全に仕事が行えるのかには、常に配慮しています」
マネージャーとして、後輩が安全に業務を行える環境づくりをしながら、チームで森林を整備し、次の世代に受け継いでいくことに、やりがいを感じているとのことです。昼は仕事、夕方以降はプライベートの時間と、生活にメリハリを持って働けるのも魅力の一つのようです。
星野さんは「林業とは人生。生きがいです」とインタビューの中で話しています。自分の仕事に誇りや自信を持てない人も少なくない中、このように言い切れる魅力が、林業にはあるようです。
林業は100年先の未来を見据えた産業
伐採や植林、間伐などにより森林のライフサイクルを正常に保つことで、暮らしや未来の環境保全を行うのが林業という産業の果たす役割です。日本の林業には生産性の低さや担い手の減少などの多くの課題があるのが現状です。しかし、現在それらの課題を克服するべく、国を挙げた対策が進められています。実際に、林業への就業人口は2000年代以降改善が進み、徐々に担い手が育成されつつあると言えるでしょう。100年先の未来の環境や人の暮らしを守る林業について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。