「森林限界」とは標高何メートルのこと?意味やメカニズムを解説
富士山や日本アルプスを始めとして、高山に存在する「森林限界」。森林限界とは何を意味するのかや、なぜ森林限界ができるのかが気になる方もいるでしょう。この記事では、森林限界の意味や森林限界が発生する要因について解説します。森林限界付近に広がるお花畑などの植生や、地球環境との関連性についても紐解いていきましょう。
Contents
森林限界(英語:forest limit)の意味とは
森林限界(しんりんげんかい)とは、外界からの影響によって高木が育たず、森林が見られなくなる境界線を意味します。将棋の棋士である藤井聡太さんが、2022年2月に史上最年少で5冠という偉業を成し遂げた際、「自身の状況を富士山に例えるとどこに居るか」という質問に対して、「まだ森林限界の手前」と評したことでも話題になりました。森林限界について、詳しく見ていきましょう。
【図解】高山における森林限界
森林限界を図で表すと、次のようになります。
森林限界は、北緯35度付近までは「亜高山帯」と「高山帯」の境界付近に位置していることがわかります。しかし、南北に長い日本では、高緯度になるほど森林限界が低い場所に現れる傾向もあります。例えば、鳥海山や八甲田山、大雪山などが並ぶ北緯40~45度付近では、約1,700~1,000メートル付近まで下がっているのがわかります。
森林限界付近はどんな光景?植生やお花畑の様子
森林限界は、針葉樹林帯から「お花畑」とも言われる高山草原帯に植生が変化する、境界でもあります。
森林限界より下の亜高山帯では、カラマツやシラビソ、コメツガなどの針葉樹林帯が広がっているのが一般的です。一方の森林限界付近では植生が一変し、より厳しい環境でも生育できるハイマツや低木化したダケカンバ、ナナカマドなどが、山肌に沿って広がります。また、高山帯では、「お花畑」とも言われるようにチングルマやコマクサ、ハクサンイチゲ、クロユリなどの高山植物が群生している様子を見ることができます。
森林限界付近の植生を、写真で見ていきましょう。
ハイマツ
ダケカンバ
ナナカマド
チングルマ
コマクサ
ハクサンイチゲ
クロユリ
森林限界は標高何メートルにある?
森林限界は、「標高何メートルにある」と一概に言うことはできません。しかし、日本の本州では、標高2,000~3,000メートルの間に位置していることが多いと言われています。例えば、本州にある富士山は5合目に当たる標高2,500メートル付近、日本アルプスを始めとする中部山岳地域でも同様に2,500メートル付近が森林限界です。一方、北海道の大雪山や日高山脈では標高1,000~1,500メートル付近となっています。このように、日本の山の中でも1,000メートル以上の差があると理解しておくとよいでしょう。
森林限界はなぜ存在するのか。その要因とは
森林を形成するには「樹木が生育できること」が条件となります。樹木の生育には、「日光」「水分(降雨量)」「気温」「土壌」などが影響するため、これらが森林限界を決定する要因と考えられます。日本では、日光の量は緯度や標高で大きく変動しないため、森林限界に大きく影響を与えているのは、「水分(降雨量)や湿度」「気温」などであると言われています。
<要因1>水分(降雨量)と湿度
樹木が生育するには、適度な降雨量と土壌の保湿性が必要です。「降水量が極端に多すぎる/少なすぎる」「火山灰地で土壌の保湿性が低い」などの条件下では、樹木が十分に生育できません。森林限界より上の環境では、十分な雨量がないまたは雨や雪の影響が多く、高木が育ちづらい環境であると考えられます。
<要因2>気温
気温も森林限界に影響を与える因子の一つです。植物の成長には、冬を除く生育期間に一定以上の気温が必要です。しかし、高山では緯度が高いため、夏でも平均気温が10度を下回る場所もあります。このような場所では、高い木が生育できないため、森林限界が形成されるといわれています。
ほかにも、硫黄や超塩基性土壌などの「土壌」や「風」なども、森林限界の分布に局所的に影響する要因として知られています。
地球温暖化の影響で富士山の森林限界が変化している?
新潟大学佐渡自然共生科学センターの崎尾均教授らは2020年12月に、「富士山の森林限界がこの40年の間に上昇し続けている」という研究結果を報告しました。
崎尾教授らは、富士山の亜高山帯から高山帯に位置する地域で、長さ220メートル・幅10メートルの区域を40年間に渡って観察。その区域に分布する1.3メートル以上のすべての樹木の樹種や直径、樹高および、富士山最上部の裸地から森林限界の区間の植被率を測定したということです。その結果、富士山の森林限界は40年間で上昇し続けていることが明らかになりました。
同研究では、森林限界が上昇している要因として、地球温暖化などの気候変動が影響していると指摘。地球温暖化が今後も進行すれば、日本の各地で森林限界のラインが上昇し、その地域における植生が変わってしまうことが予測されます。
(参考:新潟大学『富⼠⼭の森林は登り続ける!』)
森林限界は自然環境を映す鏡
富士山やアルプスなどの高山で見られる森林限界。森林限界は、気温や降水量、湿度、土壌などの影響を受けて変化するため、一概に標高何メートルと定義することはできません。森林限界付近では、植生が森林から「お花畑」とも言われる高山草原に一変する、珍しくも美しい光景を見ることができます。
「富士山の森林限界が上昇を続けている」という研究発表もあるように、地球温暖化の影響を受けて、森林限界の植生は今後変わってしまうかもしれません。森林限界は、地球環境の今を映し出し、わたしたちに伝える鏡のような存在とも言えるのではないでしょうか。