アグロフォレストリーとは?農法の特徴やメリット、日本や海外での具体例

アグロフォレストリーとは?農法の特徴やメリット、日本や海外での具体例

アグロフォレストリーとは、森林農法を指します。近年、環境破壊が深刻化していることから自然保護や生物多様性の保護に配慮した農法として注目を浴びています。しかし、まだ認知度は低く、聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。この記事では、アグロフォレストリーの詳しい概要やメリット、実際に取り組んでいる企業・団体の具体例などをご紹介します。

アグロフォレストリーとは

アグロフォレストリー(Agroforestry)とは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語で、「森林農法」のことです。樹木を植えた土地で、農作物の栽培や畜産を行う農業を指します。

まずは、アグロフォレストリ―の歴史と注目される背景について見ていきましょう。

アグロフォレストリーの歴史

1970年、カナダの国際開発研究センター(IDRC)の研究者ジョン・ベネ(John Bene)氏が提唱したことをきっかけに、アグロフォレストリーという言葉が発祥しました。

1978年、ジョン・ベネ氏の研究を元に国際アグロフォレストリー研究センターを設立。発展途上国を中心に実践したアグロフォレストリーの成果を経て、各地域へと広まりました。現在でもアフリカや南米、南東アジアなどで、持続可能な農業の進め方の一つとして注目を集めています。

注目される背景

アグロフォレストリーが注目される理由として「環境破壊の進行」と「貧困や飢餓の増加」が挙げられます。

環境破壊の進行

近代農法が普及したイギリスの産業革命以降、広い農耕地が必要となったことで世界各地で「森林伐採」が行われました。これにより環境破壊の進行が深刻化しており、特に近年は、以下の理由により急速に森林が失われています。

  • 気候変動による森林火災
  • 畜産業拡大に伴い、飼料を育成するための土地確保
  • 都市開発

森林伐採の進行は、樹木の減少により二酸化炭素が増え、地球温暖化の加速につながります。また、生き物の絶滅や生態系にも悪影響を及ぼす恐れもあり、さらに蚊を原因とするマラリアなどの感染症の拡大も危惧されています。

他にも、樹木の根を失った土地は地力が弱くなり、大雨などで浸水被害や土砂災害を引き起こすリスクも増加します。こうした背景から、森林資源を守りつつ農業に取り組めるアグロフォレストリーに注目が集まっているのです。

貧困・飢餓の増加

貧困や飢餓の増加も、アグロフォレストリーが注目されている背景の一つです。先述したように環境破壊による地球温暖化の影響で、気候変動や異常気象が起こり、発展途上国を中心に「住まい」や「食べ物」が不十分である人々が増加しています。

気候変動に加え、近年の感染症の流行や戦争・紛争による不安定な世界情勢などを理由として世界的に高インフレが続いているのも原因です。世界銀行では、2022年末までに6億8500万人が貧困に陥ると試算しています。

そこで、環境保全をしながら貧困地域の人々の食料と収入源を得る手段として、アグロフォレストリーに関心が集まっているのです。

アグロフォレストリーにおける農法の特徴

他の農法との違いを比較しながら、アグロフォレストリーにおける農法の特徴をご紹介します。

慣行農法との違い

「慣行農法」とは、大規模な機械や農薬、肥料を使用して広い土地で単一栽培をする近代農法です。日本をはじめ、世界でもよく知られた農法の一つです。慣行農法の発達により、一度に多量の収穫ができ、年間を通して野菜を買えるようになりました。

一方、アグロフォレストリーは、農薬・肥料は使用せず、複数品目の栽培をすることが特徴です。そのため、一度に収穫する量は少なく、時期によって収穫できる作物も異なります。

自然農法との違い

農薬や肥料を使わず、生き物や雑草と共生しながら作物を栽培する農法を、「自然農法」といいます。種を植える際に土を耕さない「不耕起」を行うこともあります。長い時間をかけて、最小限の人の力で作物と雑草が共生する環境を作り出すことで、虫や病気に強い栄養豊富な作物を収穫することができます。

アグロフォレストリーも農薬や肥料が不使用な点は同じですが、あわせて樹木の栽培を行うことが自然農法との違いです。

有機栽培との違い

有機栽培は、オーガニック栽培ともいわれ、化学肥料・農薬を使わず、自然や人々の健康に配慮した作物を育てる方法です。アグロフォレストリーと共通する部分もありますが、あくまで主体は農業です。

これに対し、アグロフォレストリーは森林の中で作物を育て、周囲の生態系を整える特徴があります。

アグロフォレストリーのメリット

アグロフォレストリーに期待できる効果として、以下の3つが挙げられます。

森林の恩恵を受けながら生産ができる

アグロフォレストリーは、森林が溜め込んだ炭素や栄養素を活用でき、農薬に頼らない農業が可能です。森林に生えた植物は、家畜の餌となり、小規模な畜産業を営むこともできます。また、背の高い樹木は風よけとなり、家畜や作物が育つ環境をよりよいものにしてくれるほか、樹木の間伐で得た材木も資源として活用できるでしょう。

このように、森林の恩恵を受けて農作物が収穫できることから、収入源や食料確保に期待できます。

地球温暖化の進行を抑えられる

アグロフォレストリーによる森林作りは、地球温暖化の進行を抑える可能性も秘めています。小さな草木に比べ、樹木は地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)削減の効果が高いため、気候変動への対策につながるでしょう。

自然災害のリスクが減る

アグロフォレストリーで植える樹木は、根を強く張ることが特徴です。樹木の根が地面の奥深くまで張ることで、地力が強くなり、土壌の保水力が向上します。これにより、台風や豪雨に耐えることができ、土砂崩れや洪水といった自然災害のリスクを減らすことが期待できます。

アグロフォレストリーのデメリット

アグロフォレストリ―にはメリットがある一方で、デメリットも抱えています。ここでは、2つの課題点について解説します。

大きな敷地と時間が必要になる

アグロフォレストリーにより森林ができるまでには、ある程度の敷地面積と時間が必要です。さらに、樹木から実の収穫に至るまで数年の歳月がかかります。仕組みが安定するまでは、別の農耕地や食料確保の手段が必要であり、従来の農法からアグロフォレストリーへの移行は、綿密な計画が不可欠になるでしょう。

また、時間だけでなく体制が整うまでのコストが、経営資源の乏しい生産者に負担になることもデメリットの一つです。

定期的なメンテナンスが必要になる

アグロフォレストリーは複数品目の栽培を行うため、植物ごとの特性に合わせてバランスを整えるなど定期的なメンテナンスが必要となります。特に、樹木は適切な伐採を行う必要があり、むやみな伐採は「地力の低下」や「生態系バランス」に影響します。知識がない状態では管理が難しく、軌道に乗るまでは専門家の監修も検討する必要があるでしょう。

日本や海外でのアグロフォレストリーの具体例

image by PROJETO CAFÉ GATO-MOURISCO on Unsplash

アグロフォレストリーの取り組みとして、どのようなことが行われているのでしょうか。具体例として、日本や海外での取り組みや育てているものをご紹介します。

【日本】アグロフォレストリーチョコレートの生産

日本の株式会社明治では、アグロフォレストリーによって栽培されたカカオを原料とした「アグロフォレストリーミルクチョコレート」を販売しています。ホームページには、「アグロフォレストリーの説明」や「アグロフォレストリーミルクチョコレートができるまでの過程や役割」の紹介ページを設置。アグロフォレストリー農法を応援することで、農家の安定的な生活を支え、森林再生への貢献に励んでいます。

【ブラジル】森林伐採された土地を利用した農業の実践

ブラジルでは、トメアス総合農業協同組合が、日系移民の開拓により森林伐採された土地を活用してアグロフォレストリーに取り組んでいます。1年目は野菜や胡椒を育て、5年10年経つと植樹したフルーツが実をつけて森が再生され、最後は材木として価値を得る仕組みを作りました。こうして、多様な食料や資源の供給とともに、「環境」「社会」「経済」への貢献を行っています。

【ケニア】サステナブルな農業生産方法を研究

ケニアの国際アグロフォレストリー研究センターは、農業を行うだけでなく、そこに関わる人々も育成している機関です。同研究センターでは、人々の生活や環境へ配慮した持続可能な農業生産方法としてアグロフォレストリーの研究を実施。農家や生産者に向けて、知識やスキルを指導し、地域の人が主体となって管理していける仕組み作りを進めています。

アグロフォレストリーとSDGsの関係性

持続可能な開発目標を意味する「SDGs」とアグロフォレストリーには深い関わりがあります。SDGsの目標の一つである「陸の豊かさも守ろう」では、森林を適切に管理することで豊かな生態系を保持することを掲げており、アグロフォレストリーの応援は自然保護につながるといえます。

アグロフォレストリーのような農業ができなくとも、私たちができる取り組みとして、身近なところに関心を寄せることもアクションの一つです。例えば、日本には里山でアグロフォレストリーを実施する団体や、アグロフォレストリーで生産された食材を使ったカフェもあります。そういったところに協力するのも、アグロフォレストリ―やSDGsの応援になるでしょう。

他にも、長野県にある齋藤木材工業株式会社では、持続可能な森林づくりに貢献した「信州産カラマツ薪」を販売しています。アグロフォレストリーとは直接関わらないものの、長野県SDGs推進企業にも登録しており、「信州産カラマツの薪」を利用することでSDGsの目標達成につながります。この機会にぜひ、購入を検討してみてはいかがでしょうか。

環境保護につながるアグロフォレストリ―を応援しよう

地球温暖化が進み、気候変動の影響が深刻化している今、アグロフォレストリーの重要性が高まってきています。まだ聞き慣れない言葉ではありますが、私たちの暮らしを守るために必要な取り組みです。まずは、アグロフォレストリーを支援している企業の商品を購入するなど、身近にできることから始めてみてはいかがでしょうか。