バイオミミクリーとは?注目される背景や身近な活用事例をご紹介

バイオミミクリーとは?注目される背景や身近な活用事例をご紹介

バイオミミクリーとは、生物や自然界の仕組みを学び、模倣して技術開発に活かすことです。「バイオミミクリーにどのような意味があるのかわからない」「バイオミミクリーは何に活用されているのか」と気になる方もいるかもしれません。今回は、バイオミミクリーの意味や注目されている理由とともに、実際に活用されているバイオミミクリーの事例についてご紹介します。

バイオミミクリーの意味

まず最初に、バイオミミクリーの意味について詳しく見ていきましょう。

バイオミミクリーとは

バイオミミクリーとは、持続可能で実用的なデザインを作り出すために、自然界や生態系から仕組みを学び、模倣することを指します。生命や生物を意味する「Bio(バイオ)」と模倣を意味する「Mimicry(ミミクリー)」を掛け合わせた造語です。1997年に出版された「自然と生体に学ぶバイオミミクリー」の著者であるジャニン・ベニュス氏が名付けました。

バイオミメティクスとの違い

バイオミミクリーと似た用語として、バイオミメティクスという言葉があります。バイオミメティクスは、1950年代後半にアメリカの神経生理学者、オットー・シュミット氏によって提唱された用語です。バイオミミクリーと同じように「生物模倣」と呼ばれており、生き物の形や機能、構造を分析し技術開発に活かすことを意味します。

一方、バイオミミクリーは生物模倣を技術開発に活かしつつ、現代社会の科学技術と経済活動が直面している環境問題解決と生態系の保全への応用が期待されている概念です。

バイオミミクリーが注目されている背景

近年、なぜバイオミミクリーが注目されているのでしょうか。ここでは、注目されている背景について解説します。

気候変動の深刻化

昨今、豪雨の頻発化や台風の巨大化、大規模な干ばつなど異常気象の被害が拡大しており、気候変動の深刻化が問題になっています。これは、人の経済活動による温室効果ガスの増加や森林破壊などの影響で地球温暖化が進んでいるためです。

気候変動は経済活動と密接な関係にあり、異常気象の増加は経済損失につながります。そこで近年では、資源や製品価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止が求められており、気候変動深刻化の解決に向けて、従来と異なる自然界から学ぶアプローチをするバイオミミクリーが注目されているのです。

生物多様性の損失

前述の気候変動の深刻化による影響や資源の乱獲、手入れ不足の里山増加による資源循環の悪化、外来種の増加などによって生物多様性のバランスが崩れています。生物多様性の損失は社会経済活動に大きな悪影響が及ぶため、自然生態系の崩れを食い止める行動が重要とされているのです。バイオミミクリーは、自然の恩恵を理解するきっかけとなり、生物多様性の取り組みを加速することが期待されています。

動植物の生態を活かしたバイオミミクリーの事例

image by Boris Smokrovic on Unsplash

では、バイオミミクリーはどのようなものに活用されているのでしょうか。実際に活用されているバイオミミクリーの事例を7つご紹介します。

カワセミをもとに考えられた「新幹線」

カワセミのくちばしを参考にして開発されたのが、新幹線の先端部分の形です。従来の新幹線は、高速でトンネル入口に入るとトンネル内部の空気が圧縮され、トンネル出口で大きな音が発生する「トルネルドン現象」が問題となっていました。この騒音を減らすためのヒントをカワセミから得たのです。

カワセミは魚を捕るために高速で水中に入ります。そのときにとても大きな空気抵抗が起きているにもかかわらず、水しぶきは極めて少ないことが特徴です。カワセミを模倣してくちばしの形状を新幹線に取り入れることで、走行抵抗が30%減少し、トンネル出口の騒音が解消されました。

ヒトの大腿骨をヒントにした「エッフェル塔」

バイオミミクリーは建築の分野でも活用されており、代表的な例がフランスのパリにあるエッフェル塔です。エッフェル塔は、人間の大腿骨から発想を得て設計されました。設計者は、大腿骨の持つ疲労を散らす補強構造に着目し、暴風に耐えることができるアーチ形状にしたと言われています。

カタツムリの殻をもとに開発された「外壁」

汚れがつきにくいカタツムリの殻をヒントに開発された家の外壁もあります。カタツムリの殻の表面には極めて小さな溝が多数存在しているのが特徴です。この溝に空気中にある水分が保水され、殻の表面に薄い水の膜ができるのです。ここに汚れが触れた場合、殻には付着せず水膜の表面に漂います。水の表面に漂う汚れは、新たな水が加わるときに流れ落ちる仕組みとなっています。

この殻の構造に着目した住宅メーカーが、雨が降ることで汚れが落ちる外壁材を作りました。洗剤や薬品を使わずにメンテナンスができるため、建物の維持費用に加えて環境負荷低減の観点からもメリットがあるといえるでしょう。

フジツボの性能を参考にした「医療用接着剤」

医療用接着剤の開発に応用されたのが、フジツボの強力な接着能力です。フジツボは、水中でも岩肌や船底などに接着することができます。その強い接着力はフジツボが分泌するタンパク質が影響していることがわかりました。このタンパク質に含まれる脂質成分が汚れを洗い流してくれるため、接着し続けることができるのです。この性能を活かして、すぐに止血することができる医療用の接着剤が開発され、医療現場で活用されています。

蓮の葉の性質を応用した「フライパン」

蓮の葉の高い撥水性を参考にしたのがフライパンの表面です。蓮の葉は、表面にある微細な突起物により水の接触面が小さくなり、高い撥水性を維持しています。さらに、蓮の葉には水に溶けにくいワックスのようなものがついており、この成分が水を弾きます。

蓮の葉の表面で撥水する性質をロータス効果と呼び、蓮の葉の上では水滴が丸い形になり、風によって葉っぱから落ちやすくなるのです。フライパンの表面にロータス効果を取り入れることで、撥水性の高さを保つことができます。

ひまわりをモデルにした「ソーラーパネル」

太陽に向かって咲くひまわりの特徴を活用してひまわり型のソーラーパネルが開発されました。ソーラーパネルは四角いものが一般的ですが、エネルギーを作り出すには太陽の光の強さに加えて太陽の向きも影響します。開発者は、太陽の動きに合わせて向きを変えるひまわりの習性を活かせば、エネルギー生成の向上が期待できると考え開発に取り組みました。

このひまわり型のソーラーパネルは、従来のソーラーパネルよりも自然エネルギーの生産向上が期待できるため、環境面に配慮した製品であるといえるでしょう。

ヤモリの足の構造を模倣した「接着テープ」

ヤモリの足の裏に着目して作られたのが接着テープです。ヤモリの足の指先は、足裏に微細で高密度な毛が生えていることがわかりました。さらに先端が100本から1,000本に分かれています。この細かい毛が接着面に触れることで強力な接着ができているのです。この構造を模倣した接着テープは、接着剤を使わず繰り返し剥がすことができるため、エコな商品といえます。

バイオミミクリーとSDGsの関連性

現在、国際的に取り組んでいるSDGsの達成には、環境保全を意識した技術開発が必要不可欠になっています。バイオミミクリーは、SDGsが掲げている環境問題解決の糸口になるかもしれません。

38億年もの歳月の中で自然と調和し生きてきた生物の知恵を模倣するバイオミミクリーは、持続可能で環境に低負荷な製品が生み出される可能性を持っているのです。そのため、バイオミミクリーの概念は、SDGsの達成を加速させることが期待されています。

SDGsの達成には、森林の保護や生態系を守ることも重要です。一つの例として挙げられる、長野県の齋藤木材工業株式会社では、「木を伐り、使い、植え、育て、また使う」という持続的な森の循環を実現。集成材として使うことができない丸太の7割部分の端材を薪として販売し、木の価値の最大化に取り組んでいます。さらに、放置林の減少に努め循環型社会の構築に貢献しています。

このように、自然界の知恵を活用したり、自然と共生する方法を探ったりすることで、環境に負荷がかからない解決策やアイデアが生まれ、SDGsの実現を加速させることが期待できるでしょう。

バイオミミクリーを活用して作られたものに関心を寄せてみよう

気候変動の深刻化や生物多様性の減少が危ぶまれている今、自然界から学び持続可能な技術を活かすバイオミミクリーの重要性が増しています。バイオミミクリーの技術は、接着テープやフライパンなどのように、わたしたちの身近にある製品に活用されているケースもあります。その発想は、これからのライフスタイルを考えるうえでのヒントになるかもしれません。まずは、バイオミミクリーに関心を寄せるところから始めてみてはいかがでしょうか。