【事例あり】サステナビリティ経営とは?メリットや手順・戦略などを詳しく解説
サステナビリティ経営とは、環境と社会の課題解決に取り組みながら企業成長を目指す経営手法のこと。持続可能な開発目標である「SDGs」が策定されて以降、環境問題や社会問題の解決に向けて取り組んでいる企業が増えています。
しかしながら「自社の場合、どのようにサステナビリティ経営を推進すればよいかわからない」という企業担当者も多いのではないでしょうか。今回は、サステナビリティ経営の定義や重要性・メリットなどをわかりやすく解説します。あわせて手順や事例なども紹介しますので、戦略を検討する際の参考にしてください。
Contents
サステナビリティ経営の定義
気候変動や環境問題の深刻化など多様なサステナビリティ課題が顕在化するなか、企業はサステナビリティを中核においた経営が求められています。まずはサステナビリティ経営の概要と、似た用語について見ていきましょう。
サステナビリティ経営とは?
サステナビリティ経営とは、企業が「環境」「社会」「経済」の3つの要素をバランスよく考慮し、長期的な視点で持続可能な成長を目指す経営戦略のことをいいます。日本においても経済産業省を中心に、サステナビリティ経営の推進が図られています。
環境への配慮 | エネルギー効率や資源の持続可能な利用など |
社会的責任 | 従業員の福祉や地域社会への貢献など |
サステナビリティ経営の重要性。注目される理由とは
先述したように、近年の国際社会では気候変動や地球資源の枯渇などの「環境問題」や、貧富の差を始めとする「社会問題」に対する危機意識が高まっています。その解決に向けた目標設定が示されたのが、2015年9月に国連サミットで採択された「SDGs」です。
SDGsが採択されたことで、企業に対して「環境」「社会」「経済」に配慮した事業展開を求める動きが活発になりました。そうした背景から、現在では多くの企業がサステナビリティ経営に取り組んでいます。
日本では2021年5月に経済産業省が「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」を立ち上げました。
研究会の報告書として、サステナビリティによる企業価値向上の重要性の提唱した「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」が取りまとめられました。同時に、経営戦略にサステナビリティを落とし込む手引きの「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンからス2.0(価値協創ガイダンス2.0)」が策定されています。
参考:経済産業省『「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」・「価値協創ガイダンス2.0」を取りまとめました』
サステナビリティ経営と「SDGs」「CSR」「ESG」の違い
サステナビリティと似た用語には、「SDGs」「CSR」「ESG」があります。それぞれの意味は以下のとおりです。
SDGs | 持続可能な開発目標のこと。2030年までの国際目標で、「17のゴール」とそれを実現するための「169のターゲット」から構成されている |
CSR | 企業の社会的責任のこと。企業が社会に好影響をもたらすための活動を指す概念 |
ESG | 環境・社会・企業統治に配慮した経営や事業活動のこと |
SDGsは、具体的な目標と期限があるのに対して、サステナビリティは、長期的な取り組みが求められている概念です。また、CSRは、企業のみに求められる責任であるという点においてサステナビリティと違いがあります。
ESGは、サステナビリティの持続可能な発展を実現するための経営戦略の一つといえるでしょう。
サステナビリティ経営のメリット
サステナビリティ経営を進めることで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。メリットを3つご紹介します。
企業価値や評価が高まる
企業のイメージ向上により、企業価値や社会からの信頼が高まります。特に、一般消費者を顧客として事業を展開している企業では、環境や社会に配慮した商品を提供することで、企業のブランド価値が上がるでしょう。
また、近年の傾向として、サステナブルなビジネスに投資や融資を行う動きが加速しています。サステナビリティ経営は、投資家や金融機関などステークホルダーの信用獲得につながるため、資金調達の面においても有効といえます。
従業員のエンゲージメントが向上する
サステナビリティ経営の取り組みは、働きやすさの実現につながり、従業員のエンゲージメントの向上が期待できます。サステナビリティの指標の一つには、「雇用」や「ダイバーシティと機会均等」などの項目もあり、働きやすい環境の整備が求められます。
企業の努力を従業員に示すことができれば、自社に対して誇りを持つ従業員が増える可能性もあります。それにより、モチベーションが上がり、労働生産性の向上や離職率の改善にもつながるでしょう。
優秀な人材の獲得につながる
優秀な人材確保に有利に働くこともサステナビリティ経営のメリットといえます。近年は人材確保に課題を抱えている企業も多く、採用には時間とコストを要します。
サステナビリティ経営に積極的に取り組む姿勢は、就職活動や転職活動をする人からの認知度が高まり、世の中の変化に対応できる優秀な人材確保につながるほか、採用コストの削減にもなるでしょう。
サステナビリティ経営のデメリット
続いて、サステナビリティ経営のデメリットについても確認しておきましょう。
コストが増加する可能性がある
環境や社会に配慮した取り組みは、既存の業務に加えて、新規計画や作業工程の追加などの業務量増加につながる可能性があります。人件費などのコストが膨らむ可能性があることを知っておきましょう。
また、環境に配慮した原材料に変更することで、原価コストも増加するかもしれません。そのため、自社の財務状況をしっかりと把握したうえで取り組む必要があります。
長期的なプランが必要
国際的な課題となっている社会問題や環境問題は、すぐに解決できないものがほとんどです。サステナビリティ経営を進め、リターンを得るまでには、数年から10年以上の期間がかかるケースもあるでしょう。
サステナビリティ経営を実現するためには、長期的なプラン設計と取り組みが必要となります。
販売機会の損失が懸念される
サステナビリティ経営を進めることで、販売機会の損失や顧客離れのリスクがあります。例えば、商品やサービスなどを環境に配慮した仕様や規格に変えた場合、取引先とのミスマッチが起き、取引の縮小につながるかもしれません。
また、原材料高騰を理由に販売価格設定を高くすれば、顧客が購入を避ける恐れもあります。企業の利益を維持するためには、サステナビリティへの貢献をアピールするなどの対策も大切です。
サステナビリティ経営の国際指標は「GRIスタンダード」
サステナビリティ経営は、国際指標を参考に戦略を立て、取り組むのが一般的です。ここでは、「GRIスタンダード」について詳しく解説します。
GRIスタンダードとは?
サステナビリティの取り組みに関する国際基準として定められているのが「GRIスタンダード」です。Global Reporting Initiativeという国際団体が、2016年に「共通スタンダード」と「項目別スタンダード(経済7、社会17、環境8)」を公表しました。
2021年10月には、「セクター別スタンダード」が追加され、日本語版は「石油・ガス」「 石炭」「農業・養殖業・漁業」が公開されており、他のセクターは英語版のみになります。
サステナビリティの取り組みをステークホルダーに情報開示する場合、多くの企業はGRIスタンダードに準じて報告書を作成しています。
最新のスタンダードは、以下の公式ホームページから確認できます。
『GRIホームページ』
サステナビリティ報告書とは?
サステナビリティ報告書とは、持続可能社会の実現に向けた企業の取り組みをまとめた報告書のことをいいます。一般的には、GRIスタンダードなどのガイドラインに沿って記載します。
サステナビリティ報告書により、社会的責任を果たしているというアピールにつながるほか、企業が目指している未来の方向性を示すことができます。それにより、ステークホルダーからの信頼獲得につながるでしょう。また、サステナビリティ報告書の作成は、自社の振り返りとしても役立ちます。
サステナビリティ経営を実践|基本的な取り組み手順
サステナビリティ経営はどのように進めていくとよいのでしょうか。ここからは、サステナビリティ経営に取り組む手順について見ていきましょう。
<手順1>マテリアリティ(重要課題)を検討する
最初に必要なのは、マテリアリティ(重要課題)を特定することです。その中で、環境・社会・経済の観点から、社会やステークホルダーにとって重要だとされる課題を絞り込みます。課題を考える際には、SDGsやGRIスタンダードなど、サステナビリティに関する国際目標や基準を参考にするのがよいでしょう。
<手順2>将来のありたい姿を決める
次に、将来のありたい姿を設定し、長期ビジョンを策定します。SDGsの目標期限である2030年や、政府がカーボンニュートラルの実現を目標に掲げている2050年を軸に、中長期目標を定めましょう。
<手順3>具体的目標設定と共有を行う
長期ビジョンを策定したら、それを実現するための具体的な目標を設定したり、全従業員へ共有を行ったりしましょう。目標を立てる際には、具体的な行動計画や指標を設定することをおすすめします。
また、サステナビリティ経営は、従業員の理解も必要不可欠です。社内で研修を開催し、目標や取り組み方を共有することが望ましいでしょう。
<手順4>目標に向けて実行する
目標が明確化したら、サステナビリティ経営を実現するための取り組みを実行します。経営層が先頭に立って行動を継続することで、従業員にも一体感が生まれやすくなるでしょう。
また、取り組みを進めながら、目標への進捗を把握し、評価を行う必要もあります。さらに、サステナビリティへの取り組みを発信することも大切です。自社ホームページやSNSなどを通じて社外にアピールしましょう。
サステナビリティ経営の企業事例
既にサステナビリティ経営に取り組んでいる企業もあります。以下で事例を3つご紹介します。
KDDI株式会社
KDDI株式会社は、「KDDI VISION 2030」を掲げて、6つのマテリアリティ(重要課題)の解決に取り組んでいます。
例えば、「通信のチカラにより人と地域の想いをつなぐ」の課題に対しては、「村まるごとデジタル化」の事業を自治体と連携して実施し、スマートフォンの普及によるDX化に貢献しています。
また、サステナビリティ経営の実践に向けて、社員一人ひとりの能動的な行動を促すために、経営層と社員の対話の機会を設けています。これにより、社員エンゲージメントの向上にもつながっているようです。
株式会社GOLDWIN(THE NORTH FACE)
2021年5月に中期5カ年経営計画「PLAY EARTH 2030」を発表した、GOLDWIN(THE NORTH FACE)。従業員の価値観を尊重し、多様な働き方を選択できる環境整備に取り組んでいます。
例えば、働きがい向上を目指す制度の一つに「スポーツエール制度」があります。スポーツ関連のボランティアや指導に励む従業員に対して、金銭補助や特別休暇を付与する取り組みです。こういった制度の導入で従業員のエンゲージメント向上を目指しています。
また、循環型社会の実現に向けた取り組みとして、キッズ服を買い取り、修復して新たな製品として販売する「GREEN BATON」などの事業も行っています。
日本生命株式会社
日本生命は、「人」「地域社会」「地球環境」の3領域をサステナビリティ経営の重要課題とし、取り組みを推進しています。
地域の活性化に向けた取り組みとして、地方自治体との連携協定などを行っています。地域のお客様にがん検診に関するチラシを配布するなど、がん検診受診を促進する活動も一例です。
そのほか、生物多様性の保全活動として、苗木を植える取り組みを行い、森づくりに貢献しています。この活動には従業員も参加しており、環境意識の啓発にもつながっています。
サステナビリティ経営の理解を深めるには、セミナーや講座の受講もおすすめ
サステナビリティ経営に取り組む前に、セミナーや講座に参加して学ぶこともおすすめです。
サステナビリティ経営のセミナーの対象者は、経営者向けやサステナビリティ担当者向けなどさまざまです。近年では、対面型だけでなく、オンライン型で開催されることもあります。さらに、自治体が中小企業向けに開催するケースもあるため、時期や開催方法を調べ、受けやすいものを見つけてみるとよいでしょう。
サステナビリティ経営の必要性を理解して取り組もう
気候変動やニーズの多様化などさまざまな課題を抱えている現代において、持続可能社会に向けた取り組みと企業成長を両立できる経営が求められています。今回紹介した指標や取り組み手順を参考に、サステナビリティ経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。