生物多様性に迫る問題とは。保全のための取り組みについて詳しく解説
地球上には、人間をはじめ、ゾウのような大きな動物から目に見えない細菌まで、約3000万種類もの生き物がいるといわれています。多種多様な生物が共存している地球において生物多様性は、大切な考え方です。今回は、生物多様性とは何か、言葉の意味から生物多様性に迫る危機や問題についてご紹介します。
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生物多様性とは
生物多様性は、「生物的な(biological)」と「多様性(diversity)」を組み合わせた「biodiversity」を訳した言葉です。地球上には、動物をはじめ、植物や微生物など多種多様な生き物が生息しており、互いに影響を与え合いながら生きています。それが生物多様性です。
生物多様性には生態系、種、遺伝子の3つのレベルがあるとされています。森林や海洋、湖沼や草原などさまざまな生態系によって、地域や地球環境は維持されています。またそれらの生態系を構成し、その機能を維持しているのが植物や動物、微生物など多様な生物種です。さらには同じ種でも異なる遺伝子を持っており、形や生態にも個性が見られます。これを遺伝子の多様性としています。
参考:環境省『生物多様性とはなにか』
生物多様性に迫る危機
現在、多くの生き物が絶滅の危機に瀕するなど、生物多様性は世界的に失われつつあります。日本においても、野生動植物の約30%が絶滅の危機に。その背景として、人間活動の影響があります。ここでは、具体的に生物多様性に迫る「4つの危機」についてご紹介します。
第1の危機:開発や乱獲
第1の危機として、人間による開発や乱獲が挙げられます。絶滅危惧種の中には、食用や鑑賞用、所有を目的とした人間の乱獲によって絶対数が減少した生き物も多いです。また森林伐採や埋め立て、開発などを通して生き物の生息地を奪ってきたことも原因の一つとなっています。
第2の危機:自然に対する働きかけの減少
第1の危機とは反対に、自然に対する働きかけの減少もまた生物多様性に迫る危機の一つです。人間と共生してきた自然環境においては、人口減少により人の手が入らなくなることで生態系のバランスが崩れることがあります。
例えば、里山では伐採や下草刈りが行われることで、明るい環境を好む動植物が生息するようになります。しかし、人口減少や担い手不足により、里山の管理が行われなくなると、一帯が暗くなり、その影響で生息する動植物にも変化が起きます。このように、自然に対する働きかけの減少もまた生物多様性の危機の一つの要因です。
第3の危機:外来種などの持ち込み
外来種や化学物質など、人間が他の地域から持ち込んだものも生態系に大きな影響を与えます。外来種とは、本来その地域には生息しない生物で、国外あるいは国内の他の地域から持ち込まれ、定着したもの。持ち込まれた外来種が在来種を捕食、あるいは食べ物や生息場所を奪うといった影響があります。また、殺虫剤や塗料などの化学物質の中には、生物にとって有害なものもあり、生態系に影響を与えています。
第4の危機:地球環境の変化
現在、地球規模で危惧されている地球温暖化といった気候変動もまた、生物多様性に大きな影響を与えています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書によると、世界平均気温の上昇が1.5~2.5℃を超えると、植物及び動物種の約20~30%は絶滅リスクが増加すると予測されています。
生物多様性が失われると生じる問題
生物多様性は、「生態系サービス」として人々の生活にさまざまな恩恵をもたらしています。食料や水といった生物が生きるために必要な資源の供給をする「供給サービス」、気候の調整や局所的な災害の緩和、土壌侵食を防止する「調整サービス」、海水浴や紅葉狩りといった「文化的サービス」、これらのサービスを支える「基盤サービス」の4つからなるのが生態系サービスです。
生物多様性が失われると、生態系サービスという自然からの恩恵が失われます。具体的には農作物の収穫量減少をはじめ、マングローブやサンゴ礁の減少によって津波被害が拡大する可能性などが想定されています。生態系サービスは、生態系が健全に機能していることで発揮されます。そのため、生物多様性を保全することは生態系の健全化につながり、人間を含む生物が、持続的かつ豊かに生きていくためにも必要なことといえます。
生物多様性の問題を解決するための取り組み
失われつつある生物多様性に対し、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは世界的に行われている取り組みと、日本国内で実施されている取り組みについてご紹介します。
世界的に行われている取り組み
生物多様性を守るためには、国際社会全体で取り組む必要があり、そのための条約や目標などが定められています。
生物多様性条約
「生物多様性条約」は、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットにて採択された国際条約です。この条約では、さまざまな要因で生物多様性を保全するための取り組みが困難な開発途上国に対し、先進国が経済的・技術的支援を行うことが言及されています。
条約の締結後は、およそ2年に1度のペースで締約国会議(COP)が開催されています。
2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)においては、「愛知目標」が定められました。愛知目標は、2002年のCOP6で採択された「2010年までに生物多戦略様性の損失速度を顕著に減少させる」という目標が未達成であることの反省を踏まえて策定されたものです。
その後、2021年に中国で開催されたCOP15第1部にて「昆明宣言」が示され、翌2022年にカナダで開催されたCOP15第2部にて、愛知目標の後継となる世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。同枠組では、進捗を明確にするための数値目標や、進捗をモニタリング・評価する仕組みなどが取り入れられ、これまでの目標よりも実効性を高められる仕組みとなっています。
参考:環境省『生物多様性条約』『生物多様性条約締約国会議』『昆明・モントリオール生物多様性枠組』
30by30(サーティ・バイ・サーティ)
「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」は、2021年6月に開催されたG7サミットにおいて合意がなされた「G7・2030年自然協約」および、前述のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標です。
2030年までに地球の海・陸の30%以上を健全な生態系として保全することを目標としています。30by30の実現により、自然環境が保たれ、その恩恵により人々の生活も豊かになると考えられています。
日本では、陸域及び内水域の20.5%、沿岸域及び海域の13.3%が保護地域に指定されています。しかし、30by30の達成にはまだ努力が必要な状況であることから、「30by30ロードマップ」が策定されました。
参考:環境省『30by30』
日本で行われている取り組み
日本においても、生物多様性に迫る危機に対して、国全体で保全に向けた取り組みが行われています。
生物多様性基本法
生物多様性基本法は、日本における生物多様性施策の基本的な考え方で、2008年に施行されました。生物多様性基本法の成立以前にも、日本には、鳥獣保護法や種の保存法、特定外来生物法といった生物多様性にかかる法律もありましたが、鳥獣や絶滅が危惧される生物、あるいは外来生物などと対象が限定的でした。
しかし、生物多様性基本法は、生態系全体のつながりを含めて保全することを目指した法律となっています。その内容には、生物多様性の保全・利用に関する基本原則をはじめ、生物多様性保全のための施策、基礎的な調査等の推進、地球温暖化防止のための施策などが盛り込まれています。
参考:環境省『生物多様性基本法』
生物多様性国家戦略
生物多様性国家戦略は、生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づいて策定された国の基本的な計画です。1995年に最初の生物多様性国家戦略が策定され、2023年3月に第6次戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」が示されました。
生物多様性国家戦略2023-2030は、前述の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応した戦略です。2030年のネイチャーポジティブの実現を目指しており、生態系の健全性の回復や自然を活用した社会課題の解決、生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動といった5つの基本戦略が定められています。
参考:環境省『生物多様性国家戦略』
生物多様性に対して一人ひとりができるアクション
生物多様性の保全に対して、一人ひとりが取り組めるアクションもあります。生物多様性に配慮した商品の購入や、企業の取り組みをチェックするなど、できるアクションはさまざまですが、中でも「MY行動宣言」は、5つのアクションから自分にできることを選んで行える取り組みです。
生物多様性に対して一人ひとりができることについては、こちらで詳しくご紹介していますので合わせてチェックしてみてください。
生物多様性の問題について理解して行動しよう
豊かな地球環境を支える生物多様性は、人々の生活にさまざまな恩恵をもたらしている一方で、人間の活動によってその豊かさが失われつつあります。一度、生物多様性が失われてしまうと、元に戻すことは容易ではありません。生物多様性を保全するには、一人ひとりがその重要性を理解し、行動していくことが大切です。まずは、生物多様性について知り、日々の暮らしの中で取り組めるアクションをしてみましょう。