生物多様性を守るため私たちにできること。5つの行動や地域の取り組み事例をご紹介
生物多様性を守るために、私たちにできることはあるのでしょうか。生物多様性とは、自然にバラエティ豊かな生きものが存在している状態のこと。それが今、急速なスピードで失われつつあります。この記事では、生物多様性の重要性や問題点、保全のために私たちにできることを解説します。
Contents
生物多様性とは
生物多様性とは、人間や動物、植物など生きものにはそれぞれの個性があり、互いがつながっていることを指します。地球上には3000万種ともいわれる多様な生きものが誕生しています。全ての生きものが個性豊かな命を育み、直接的にも間接的にも支えあって生きています。
私たちの暮らしは、食料や水、気候の安定など、多様な生物が関わりあう生態系からの恵み(生態系サービス)によって支えられています。例えば、酸素の供給や気温・湿度の調節、水や栄養の循環などが挙げられます。
生命の生存基盤は多くの生きものの営みが必要不可欠です。毎日の食卓を彩る野菜などの食料はもちろん、新聞や本などの紙製品や医療品など、生きものの遺伝的な情報、機能や形態も私たちの生活の中で活かされています。
しかし、生物多様性のバランスが崩れると、生態系サービスも失われ、私たちの暮らしにも影響を与えます。それが今、脅かされている現状にあるのです。その背景には、人間による開発や生態系の乱れ、地球温暖化などがあります。生物多様性を守るためには、私たち一人ひとりの意識を変え、行動していくことが大切です。
参考:環境省『みんなで学ぶ、みんなで守る 生物多様性 Biodiversity』
生物多様性条約における3レベルの多様性
国際的に生物多様性の保存に取り組むため、「生物多様性条約」が1992年5月に結ばれました。その条約では、生態系・種(しゅ)・遺伝子の3つのレベルで多様性があるとしています。
①生態系の多様性
「生態系の多様性」とは、生きものが生息する自然環境と、そこに棲む生きもの同士の関わり合いを総合的に捉えたまとまりのこと。地球上には、森林、里地里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁などいろいろなタイプの自然があり、生態系が形作られています。
国内の例として、青森県から秋田県にまたがる白神山地のブナ林、高知県の四万十川、北海道の釧路湿原、沖縄県のサンゴ礁などが挙げられます。
②種の多様性
「種の多様性」とは、生きものの種類の豊富さのことです。人間・ゾウ・アリなどの動物や、桜・ひまわりなどの植物、肉眼では見えないほど小さな微生物にいたるまで、3000万種ともいわれる多様な生きものが存在しています。
③遺伝子の多様性
「遺伝子の多様性」とは、遺伝子の違いによって、形状や模様、色、生態などにさまざまな個性が出ること。同じ種でも異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性があります。例として、ハマグリやアサリ、ナミテントウなどが挙げられます。
参考:環境省『生物多様性とはなにか』
生物多様性を脅かす要因
私たちは、日々生物多様性の恵みを受け、豊かな暮らしを送っていますが、その一方で、私たちの生活は生物多様性にさまざまな影響を与えています。食品や木材、エネルギーなど生活に必要なものの多くを輸入に頼っており、世界の生物多様性にも大きく依存しているのが現状。海外からの資源の輸入に依存することで、供給国における生物多様性の損失を生じさせているといわれています。そういった課題・問題を解決するために、私たちにできることを少しずつ実践していくことが大切です。
生物多様性が失われることで起きる問題を詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
生物多様性を守るため私たちにできること|MY行動宣言
「生物多様性にふれて、実感し、身近に感じることから始める」こと。それが生物多様性を守るための第一歩です。「国連生物多様性の10年日本委員会」が発信する“MY行動宣言”は、「生物多様性を守り、その恵みを受け継ぐために、私たちにできること」を宣言し、行動してもらうことを目的とした普及啓発ツールです。
生物多様性の恵みを受け続けられるように、次の5つの中からできることを選んで、あなたの“MY行動宣言”として生物多様性を守るために行動してみましょう。
行動1|食べよう~地産地消~
地元でとれたものを食べ、旬のものを味わいます。
旬の食材は、自然本来の季節の移り変わりの中で、その季節にだけ味わえる恵みです。つまり、旬の食材を食べることで、季節の変化を実感しながら暮らすことができます。また、一般的に旬の食材はおいしく、かつ安価で手に入り、生産方法は省エネ・省資源なのが特徴です。
地産地消や旬産旬消を意識すれば、身の回りの環境の変化にも気づきやすくなり、その土地ならではの食文化の知識も自然と身につきます。また、生産地から食卓までの距離が短い食材のほうが、輸送に伴う環境負荷が少ないという「フードマイレージ」の考え方にも沿っています。
行動2|ふれよう~自然と親しむ~
自然の中へ出かけ、動物園・植物園などを訪ね、自然や生きものにふれます。
人々は古来より、自然の中でさまざまな生きものと接しながら、自然と共生する知恵や自然観を育んできました。自然は、生物多様性を学ぶ何よりの教材なのです。
山に登る、海や川で遊ぶ、動物・植物園に出かける、あるいは近所の公園を散歩することでもかまいません。多くの自然体験を通じて、自然の中で遊ぶことの楽しさや地域の特色、生きものの生態や面白さを実感することが、生物多様性のより深い理解につながります。
行動3|伝えよう~自分から発信~
自然の素晴らしさや季節の移ろいを感じて、写真や絵、文章などで伝えます。
「季節を感じたできごとや自然現象」「近所で見つけた、生きもの同士のつながり」「よく見かけるけど、名前を知らない綺麗な花」など、さまざまな生きものや風景について、あなたが体験したことや興味を持ったことについて、絵や写真、日記などで記録してみましょう。
生きものたちのさまざまな色や形、行動を観察することで、私たちの周囲には四季折々に多くの生きものが息づいていることに気づくはずです。豊かな自然の素晴らしさ、その感動を、家族や知人に伝えるのも一つのアクションになります。
行動4|守ろう~つながりを守る~
生きものや自然、人や文化との「つながり」を守るため、地域や全国の活動に参加します。
全国各地で行われている、自然や生きものの観察・調査・保全・再生活動に参加してみましょう。「秋の味覚を探そう」「自然を守る運動を行うNGO やNPO に寄付しよう」など、誰でも気軽に参加できる機会は多くあります。
生きもの同士や森・里・川・海のつながり、人の暮らしと自然のつながり、郷土の過去・現在・未来のつながりなど、さまざまな「絆」を実感してみましょう。
行動5|選ぼう~エシカルな選択~
エコラベルなどがついた環境に優しい商品を選んで買います。
例えば「生態系への配慮が行き届いた森林から生産されたもの」や「水産資源や海洋環境を守って獲られた水産物」など、生物多様性のことをきちんと考えて生産・販売された商品、サービスを選ぶことも一つのアクションです。
私たち消費者がこのような行動をとることは、生物多様性に配慮した生産者や事業者を応援することになります。経済社会全体が「生物多様性を守ることが当たり前」となり、自然と共生する社会を実現するための原動力になりましょう。
参考:国連『国連生物多様性の10年日本委員会』
地方自治体での生物多様性に対する取り組み事例
生物多様性を守ることに取り組む地方自治体もあります。ここでは、地域で行われている事例を紹介します。
新潟県佐渡市|朱鷺と暮らす郷づくり認証制度
新潟県新潟市では野生復帰した朱鷺(トキ)が定着できるような環境整備、それに基づく独自農法を制度化しています。農薬や化学肥料の削減、畦畔等への除草剤の使用禁止、年2回の生きもの調査実施などの基準による「生きものを育む農法」によって佐渡で栽培された米に対し、市が認証を行うものです。
認証済みの米には「朱鷺と暮らす郷」マークがついており、その売上の一部は「佐渡市トキ環境整備基金」に寄付されます。
参考:佐渡市『「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度のご案内』
北海道礼文町|礼文島リボンプロジェクト
北海道礼文町では、礼文の花をモチーフにしたリボンバッジを作成しています。「礼文島いきものつながりプロジェクト(礼文島生物多様性地域戦略)」の趣旨に賛同する町民や観光客に、活動支援の証としてリボンバッジを販売。その収益金を自然公園の補修や高山植物の保護・増殖をはじめ、趣旨に沿って活動を行うさまざまな団体の支援に充てる取り組みを行っています。
参考:礼文町『リボンプロジェクト』
兵庫県豊岡市|コウノトリ育む農法の普及
豊岡市ではおいしいお米と多様な生きものを同時に育み、コウノトリも住める豊かな文化・地域・環境づくりを目指し、「コウノトリ育む農法」に取り組んでいます。農薬や化学肥料に頼らないことはもちろん、冬期湛水や早期湛水、深水管理等が特徴的な農法です。豊岡市では、この農法で栽培したお米の普及啓発・商標管理等を行っています。
参考:豊岡市『コウノトリ育む農法』
岡山県岡山市|身近な生きものの里事業
岡山市では、身近な野生生物をシンボルとした主体的な環境保全活動を行っている市民団体がある地域を「身近な生きものの里」として認定し、活動を支援しています。身近な自然を大切にする地域づくりを目的とし、それぞれの地域が特性に応じた環境を整備。市内10カ所において、ホタルやヤマセミ、カタクリなどをシンボル種として位置付け、地域のさまざまな団体が連携して保全活動に取り組んでいます。
参考:岡山市『身近な生きものの里事業』
生物多様性を守るために、私たちにできることから始めよう
生物多様性とは、人間や動物、植物など生きものがそれぞれの個性を発揮しながら互いにつながっていることです。生物多様性を守るためには、日頃から地産地消を意識したり、自然にふれて感じたことを発信したりするアクションが大切です。身近にある取り組みにも目を向けながら、私たちにできることから始めてみませんか。