【自治体担当者向け】ゼロカーボンシティとは。宣言するメリットや取り組み事例まで解説

【自治体担当者向け】ゼロカーボンシティとは。宣言するメリットや取り組み事例まで解説

SDGsをはじめ、カーボンニュートラルなど地球環境への配慮に対する関心が高まる昨今、都道府県や区市町村では、「ゼロカーボンシティ宣言」を行い取り組みを推進する自治体が増えてきました。今回はゼロカーボンシティの定義や宣言方法、宣言するメリットから各自治体の取り組み事例を解説します。

ゼロカーボンシティとは?

ゼロカーボンシティとは、環境省による定義では「2050年に CO2(二酸化炭素)を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表された地方自治体」とされています。

カーボン(carbon)とは、炭素を意味する英語です。地球温暖化の原因の一つとされるCO2。このCO2の排出量を実質ゼロにするという考えをカーボンニュートラルといいます。CO2は、炭素を含む化石燃料の燃焼時をはじめ、人や動物が呼吸をしたときに排出されます。一方で、森林などの植物はCO2を吸収し、酸素を作り出す光合成を行っています。つまりカーボンニュートラルとは、CO2の排出量と森林などによる吸収量の差し引きをゼロにした状態を指します。

なお、ゼロカーボンとカーボンニュートラルは、似た言葉ですが厳密な違いはないとされています。カーボンニュートラルを目指して取り組む自治体がゼロカーボンシティであると理解するとよいでしょう。

ゼロカーボンシティ宣言について

ゼロカーボンシティになるためには、「ゼロカーボンシティ宣言」を行う必要があります。宣言は、都道府県だけでなく区市町村単位、あるいは自治体と民間事業者が共同で宣言を出すこともできます。ここでは宣言するメリットと宣言方法についてご紹介します。

ゼロカーボンシティを宣言するメリット

ゼロカーボンシティを宣言するメリットには、「国からの支援を受けられる」と「地域活性化や地域貢献につながる」という2つのポイントがあります。

国からの支援を受けられる

環境省では、「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業」として、ゼロカーボンシティ宣言をした自治体に対して支援を行っています。具体的な支援内容は以下の通りです。

  • 自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)支援
  • ゼロカーボンシティの実現に向けたシナリオ等検討支援
  • ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の合意形成等の支援

環境省では、ゼロカーボンシティ実現に向けての現状把握から合意形成まで一貫した支援に取り組むとしています。

参考:環境省『ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業

地域活性化や地域貢献につながる

またゼロカーボンシティを宣言し、目指すことは、地域貢献や活性化にもつながるとされています。CO2の排出量を削減するためには、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が必要です。再生可能エネルギーを取り入れていくことで、雇用の創出や地域の産業の一つになることが期待できます。

さらに、再生可能エネルギーは、災害時にも活躍します。例えば、千葉県千葉市では避難施設などに対し、再生可能エネルギーの導入を進めています。発電設備と蓄電池を避難施設となっている中学校に設置。災害時に停電が起きた際、太陽光発電や蓄電池から電力が供給されるようになっています。

参考:環境省『脱炭素に向けた地方自治体の取組について
千葉県千葉市『避難所への再生可能エネルギー等導入事業(市有施設への太陽光発電設備・蓄電池の導入)

ゼロカーボンシティの宣言方法

ゼロカーボンシティの宣言方法は、下記のいずれかの方法でゼロカーボンシティであると表明することです。なお、環境省は、ゼロカーボンシティ宣言を検討している場合は、事前の相談および宣言後の連絡を呼びかけています。

  1. 定例記者会見やイベント等において、「2050年CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  2. 議会で「2050年CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  3. 報道機関へのプレスリリースで「2050年CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  4. 各地方自治体ホームページにおいて、「2050年CO2(二酸化炭素)実質排出ゼロ」を目指すことを表明

参考:環境省『地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況

ゼロカーボンシティが注目されている背景

image by Chris Liverani on Unsplash

ゼロカーボンシティが注目されている背景には、2015年に採択された「パリ協定」と、2020年に日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」があります。

パリ協定では、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」などが掲げられました。

日本では、パリ協定を踏まえ、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言。国だけでなく各自治体においてもカーボンニュートラルな取り組みを進められるよう、先述の「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業」を実施しました。このような背景からゼロカーボンシティへの注目が高まっています。

ゼロカーボンシティにおける課題

ゼロカーボンシティ宣言は、2023年12月時点で1,013自治体(46都道府県、570市、22特別区、327町、48村)が行っています。ゼロカーボンシティにはメリットもありますが、課題やデメリットも考えられます。ここでは、考慮すべき課題について解説します。

特定の産業への影響

日本の重要産業である鉄鋼産業をはじめ、化学工業や製紙工業は、CO2排出量が多いとされている産業で、すぐに化石燃料から脱却することが難しい状況にあります。これらの産業が主産業となっている自治体では、ゼロカーボンシティを宣言することで、地域の産業にマイナスな影響を与えてしまう可能性が懸念点の一つです。

取り組みの実効性

また取り組みの実効性という点においても課題があるとされています。再生可能エネルギー導入に関する知識や人材の不足、また電力自由化によって地域内のCO2排出量の把握が難しい状況もあります。カーボンニュートラルを進めるためには、宣言だけでなく実効性のある取り組みが必要です。そのためにも知識や人材確保が重要な課題といえるでしょう。

全国版|ゼロカーボンシティの取り組み事例

それでは、各自治体におけるゼロカーボンシティに関する取り組み事例をご紹介します。

【北海道】ゼロカーボン北海道

北海道では、「ゼロカーボン北海道」を掲げ、持続可能で元気な北海道づくりに取り組んでいます。具体的には、ゼロカーボンに取り組む事業者への融資制度を創設。また独自のリーフレットを作成し、道民が衣食住、ゴミや教育、交通など項目ごとにゼロカーボンに取り組めるよう「ゼロカーボン北海道チャレンジ」を提示しています。

参考:北海道『ゼロカーボン推進局ゼロカーボン戦略課

【秋田県秋田市】目標達成にむけた4つの基本方針

秋田県秋田市では、2023年2月にゼロカーボンシティ宣言を実施。「秋田市地球温暖化対策実行計画」に基づく4つの基本方針を発表しました。また「洋上風力発電などの再生可能エネルギー関連の企業誘致の推進」や「テレワークや時差出勤の導入」、「第三者所有モデルによる太陽光発電設備の導入」といった具体的な取り組みも進めています。

参考:秋田県秋田市『秋田市は「ゼロカーボンシティ」を宣言しました

【石川県金沢市】かなざわ次世代エネルギーパーク

「エネルギー自立都市」の実現に向けて取り組む石川県金沢市では、2020年3月に「金沢市ゼロカーボンシティ宣言」を実施しました。また経済産業省が推進する次世代エネルギーパークにも「かなざわ次世代エネルギーパーク」として認定されています。バイオマス発電の余熱で近隣施設に温水を供給するなどさまざまな取り組みを行っています。

参考:石川県金沢市『かなざわ次世代エネルギーパーク』『2020年3月 金沢市ゼロカーボンシティ宣言

【東京都】ゼロエミッション東京戦略

世界的な大都市である東京都では、「ゼロエミッション東京戦略」として2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する宣言をしました。ゼロエミッションとは、1994年に国連大学が提唱した「人為的活動から発生する排出を限りなくゼロにすることを目指した理念であり手法」のこと。東京都では、ゼロエミッションに向け6分野14政策に体系化したロードマップを提示しています。

参考:東京都『ゼロエミッション東京戦略
国連大学『国連大学ゼロエミッション活動 10年の歩み

【愛知県豊田市】とよたゼロカーボンバンク

全国に先駆けてゼロカーボンシティ宣言を実施した愛知県豊田市。行政をはじめ、市民や事業者が一丸となって脱炭素社会を目指しており、中でも「とよたゼロカーボンバンク」が注目されています。とよたゼロカーボンバンクは、家庭用燃料電池システム(エネファーム)を用いたCO2排出削減の取り組みで、エネファームの導入する家庭への補助金も交付しています。

参考:愛知県豊田市『とよたゼロカーボンバンク

【静岡県富士市】富士市ゼロカーボンチャレンジ

静岡県富士市では、「富士市ゼロカーボンチャレンジ」を掲げ、専用の公式サイトを開設。ゼロカーボンシティ実現に向け、企業とのパートナーシップ協定やシンポジウムの開催など積極的な取り組みを行っています。またアプリを用いてウォークラリーイベントを開催し、移動の脱炭素化に向けて市民と共にチャレンジした実績もあります。

参考:静岡県富士市『富士市ゼロカーボンシティウェブサイト

【山梨県】CO2ゼロやまなし

山梨県では、全国で初めて県内全市町村共同で「やまなしゼロカーボンシティ宣言」を行い、「CO2ゼロやまなし」に向けて取り組んでいます。例えば、市川三郷町は太陽光発電などでエネルギーをつくる「創エネ」の推進、韮崎市は環境教育の推進、西桂町は公用車の電気自動車(EV)導入などをそれぞれ掲げています。

参考:山梨県『カーボンニュートラルとは?必要な理由や国内・山梨県内の取り組みの例を紹介』『全国初となる、県内全市町村共同による「やまなしゼロカーボンシティ宣言」を実施~「ストップ温暖化やまなし会議」の設立総会~

【京都府京都市】2050年までのCO2排出量正味ゼロ

京都府京都市は、日本で初めて地球温暖化に特化した条例を制定した自治体です。2019年には、「2050年CO2排出量正味ゼロ(ゼロカーボン)」を全国に先駆けて宣言しました。具体的には、「京都市1.5℃を目指す地球温暖化対策推進本部」の設置や、市民一人ひとりが地球温暖化対策に取り組むためのリーフレットの作成などを実施しています。

参考:京都府京都市『1.5℃を目指す京都市の地球温暖化対策

【兵庫県神戸市】エコファミリー制度

兵庫県神戸市では、土・日・祝日を対象に、大人が同伴する小学生以下のバスおよび地下鉄の利用料金が無料になる「エコファミリー制度」を導入しています。公共交通利用を促すことで、マイカー利用によるCO2の排出抑制を図る取り組みです。また、市の公式サイトにて市民一人ひとりができるアクションから事業者への補助金などの情報を発信し、啓発活動にも努めています。

参考:神戸市『地球温暖化対策
神戸市交通局『エコファミリー制度

【鹿児島県鹿児島市】ゼロカーボンシティかごしま

鹿児島県鹿児島市では、「ゼロカーボンシティかごしま」を宣言。南国という土地を活かし、再生可能エネルギーによる“エネルギーの地産地消”に取り組んでいます。具体的には、公共施設への再生可能エネルギーの導入や太陽光発電システムを設置する市民への助成などを実施。またシェアサイクルの利用を促進し、自転車+公共交通による移動手段の転換も図っています。

参考:鹿児島県鹿児島市『「ゼロカーボンシティかごしま」に挑戦!~2050年までにCO2排出実質ゼロに~

【茨城県】ゼロカーボンシティを表明する前に

茨城県は、全国47都道府県で唯一「ゼロカーボンシティ宣言」を行っていません。その大きな理由として、沿岸部の工業地帯における主力産業が鉄鋼や石油化学などの大量の石油や石炭を使用する製造業であることが挙げられます。このような状況を踏まえ、直ちに化石燃料から脱却が困難であると判断した茨城県では、カーボンニュートラル実現に向けた道筋を描いた上で行うことを決定しました。ゼロカーボンシティを表明する前に、産官学が連携した推進協議会を設置するなどさまざまな議論を進めています。

参考:茨城県『ゼロカーボンシティの表明について』『いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出推進協議会

ゼロカーボンシティに向けた取り組みを検討しよう

今回は、ゼロカーボンシティについての概要や宣言をするメリット、各自治体の取り組み事例をご紹介しました。ゼロカーボンシティを宣言することは、カーボンニュートラルな環境を目指す上でメリットがあるといえます。しかし、茨城県のように地域の状況を鑑みて、ゼロカーボンシティを宣言する前に目標までの道筋を描くこともまた大切なことでしょう。世界的に地球温暖化が問題になっている今、自治体単位でもカーボンニュートラルを目指し、ゼロカーボンシティに向けた取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。