【企業向け】炭素固定とは?概要をわかりやすく解説。方法や企業事例など

【企業向け】炭素固定とは?概要をわかりやすく解説。方法や企業事例など

炭素固定とは、大気中のCO2(二酸化炭素)を、何かしらの方法で固定すること。排出されたCO2を炭素化合物に変換して、大気中のCO2削減につなげるものです。植物や微生物を利用した方法のほかに、人工的に行う技術の開発も進められており、いずれも地球温暖化対策として注目されています。今回は、炭素固定について知りたい企業担当者向けに、概要や方法、企業事例などをご紹介します。

炭素固定とは

炭素固定とは、大気中あるいは排気ガスに含まれているCO2(二酸化炭素)を、炭素化合物に変換して固定することです。CO2を炭素化合物にして、大気中のCO2を減らすもので、経済活動でどうしても発生するCO2を削減する手段として、企業からも注目されています。英語では「carbon dioxide fixation」と表記され、「二酸化炭素固定」「CO2固定」「炭素同化」「炭酸固定」「炭酸同化」と呼ばれることもあります。

炭素固定が求められている背景

企業や個人が温室効果ガスの排出を削減する努力に加えて、大気中に排出された温室効果ガスを減らす有効手段として、炭素固定が注目されています。背景にあるのは、近年の異常気象にも見られる、地球温暖化です。この地球温暖化の原因は、CO2を含む温室効果ガスの増加と言われており、気候変動に対応するには、大気中の温室効果ガスを減らす必要があります。

国連広報センターによると、「世界の地表温度は、少なくとも今世紀半ばまで上昇し続ける見込みで、今後数十年で温室効果ガスの排出を大幅に削減しない限り、地球温暖化は1.5℃を超える」とされています。今後の気候変動の深刻化を考えると、地球温暖化を抑えるために、大気中の温室効果ガスを大幅に削減することが重要です。

炭素固定の方法は3種類

炭素固定の主な方法は3種類あります。どのような固定法があるのか、それぞれ見ていきましょう。

①生物学的な方法

生物学的な炭素固定の一つに、「光合成」があります。森林の樹木、海洋の植物プランクトンや海草などが、太陽の光でCO2を有機物に固定する働きを利用した方法です。蓄積する炭素固定量は木や植物によって異なり、成長が早い樹木を選ぶ、より多くのCO2を固定化できる種を研究するなどの取り組みが行われています。森林など陸上の光合成による炭素固定を「グリーンカーボン」、海洋生態系によるものを「ブルーカーボン」と、区別することも一例です。

生物学的な方法の身近な例として、木質バイオマスの利用が挙げられます。木質バイオマスとは、薪や炭、木質ペレットなど、木材を原料とする燃料のこと。例えば薪は、炭素を固定した木を活用した木質バイオマスの一つです。燃やすとCO2が発生しますが、材料である木が成長するまでの数十年間は、木が光合成でCO2を吸収・固定化する期間でもあるため、薪の利用で排出されるCO2の量と差し引きゼロとして考えます。

長野県の齋藤木材工業株式会社は、集成材生産の過程で生まれる端材を「信州産カラマツ薪」として販売しています。含水率10±3%とよく乾燥しているため着火が簡単で、着火補助材を同梱していることも魅力です。燃焼時の煙が少ないため、CO2の排出が特に少ない薪としてもおすすめです。

オフィスで薪ストーブなどを利用(あるいは導入を検討)している場合は、環境経営の一環として、購入を検討してはいかがでしょうか。

②物理化学的な方法

物理化学的な方法とは、装置や化学物質を用いて、人工的にCO2の分離・回収を行うものです。主として、火力発電所や工場といった、大規模な固定発生源の排ガスに含まれるCO2を処理するのに用いられます。近年では、「化学吸収」「物理吸着」「膜分離」など、さまざまな分離・回収技術の研究が進められており、回収したCO2を炭酸塩として固定するなどのほか、燃料や化学工業の原料などへリサイクルするケースもあります。

参考:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『CO2分離・回収技術の概要

③地中貯留、海洋隔離などの方法

地中貯留とは、CO2を回収して貯留場所へ輸送し、圧力をかけて地下の地層に隔離して閉じ込める方法のこと。また、海洋隔離(海洋投棄)は、CO2を海中に送り込む方法です。しかし、海洋投棄を原則禁止している「ロンドン条約(議定書)」が、改定でCO2の海洋投棄を禁止したため、あまり研究が進んでいないのが現状です。同条約が「地中貯留」に限定してCO2の投棄を可能としていることから、日本では、海底下における地中貯留に向けて舵を切りました。

海洋における炭素固定では、海底の地層下に貯留する「海洋貯留(海底下地層貯留)」の研究開発が進められています。苫小牧(北海道)において大規模な実証実験が行われており、現在モニタリングが実施されています。

参考:日本CCS調査株式会社『苫小牧CCS大規模実証試験

炭素固定の課題とは

image by Silas Baisch on Unsplash

上述のように、炭素固定にはさまざまな方法がありますが、いずれの場合も課題があります。

樹木や海洋を利用した炭素固定は、実行しやすい方法です。しかし、地球全体で考えると森林や珊瑚の減少が見られるため、必ずしも効果が出ているとはいえません。生物学的な炭素固定を長期で継続していくには、生物や地下水などへの影響を考慮する必要があり、継続的な研究を行うことが重要です。

地中や海洋(海底)への貯留は、技術開発が進む反面、コスト面で課題があります。専用の施設が必要なことに加えて、温室効果ガスを回収してCO2だけを分離・圧縮し、地下深くに封じ込めるまでの工程で、多くのエネルギーを投入するためです。貯留空間のある地層(貯留層)と、フタの役割をする地層(遮蔽層)が必要なため、貯留に適した土地を確保するのも課題です。

炭素固定に取り組む企業事例

国内企業で行っている、炭素固定の取り組みを紹介します。

住友林業株式会社|再植林を加速するゾーニング森林経営を推進

住友林業株式会社は、森と木を活用したカーボンニュートラルの実現を、自社の重要課題の一つとしています。同社は、炭素固定を促す経済林(あるいは保護林)の伐採・再植林を加速する「ゾーニング森林経営」を実施。樹齢が高くCO2の吸収量が低下した木を伐採して、若い木の再植林を行い、人工林を若返らせることで炭素固定を推進しています。

参考:住友林業『持続可能な森林経営

セブン&アイ・ホールディングス|アマモを移植するブルーカーボンを実施

イトーヨーカ堂やセブン-イレブンなどを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスは、「ブルーカーボン」と呼ばれる、海洋生物を活用した炭素固定を推進しています。その取り組みの一つが、「セブンの海の森」。水質を浄化しCO2を吸収する海草である「アマモ」を海に移植して、豊かな海を再生する活動です。同社は全国で、沿岸域の人々や専門家などと共に生物調査や海岸清掃なども実施しながら、アマモ場の保全を進めています。

参考:セブン&アイ・ホールディングス『美しい自然を守るために。

リコー株式会社|海外でマングローブの植林を行いCO2を削減

リコー株式会社は、2020年2月から、東南アジアでマングローブの植林を行っています。東南アジアは植林面積が広く、日本で植林を行うよりも多くのCO2を吸収・固定できるためです。年間を通して気温が高い現地では、マングローブが30〜40mの大きさに成長するため、より多くのCO2を吸収・固定できるのも、海外で植林を行う理由です。マングローブ林は陸と海の間にあるため、高潮や津波による被害軽減、生態系の保全、エビの養殖場として地元住民の収入源になるなど、SDGsにも貢献しています。

参考:リコー株式会社『SDGsの活動を広げるマングローブ植林

清水建設株式会社|「バイオ炭」でコンクリート内部にCO2を貯留

清水建設株式会社は、炭素をコンクリート内に貯留する「環境配慮型コンクリート」を自社開発しました。木質バイオマス(オガ粉)を炭化した「バイオ炭」をコンクリートに混和することで、コンクリート内部にCO2を固定することが可能です。一般的なコンクリートと同程度の施工性と強度があり、土木現場での実証施工を経て、現在は道路やビル建設など実際の工事現場で使用されています。

参考:清水建設『コンクリート内部にCO2を固定してカーボンネガティブを実現する「バイオ炭コンクリート」

CO2の排出削減を目指して炭素固定に取り組もう

炭素固定は、地球温暖化の要因である二酸化炭素を何らかの方法で固定化し、大気中から減らす技術です。森林や海洋を通じて行う生物学的な方法や、物理化学的な方法を用いて人工的に行う固定技術の研究も進められていますが、いずれの方法でも、炭素固定量を増やすことが重要と考えられます。企業が排出するCO2を削減するために、自社に無理のない取り組みを検討してはいかがでしょうか。