脱炭素とは?概要や脱炭素社会に向けた日本の取り組み・企業の対策を解説

脱炭素とは?概要や脱炭素社会に向けた日本の取り組み・企業の対策を解説

脱炭素とは、温室効果ガスの中でもCO2(二酸化炭素)の排出量ゼロを目指す取り組みです。地球温暖化が加速する中、CO2の排出削減は世界共通の重要課題となっており、企業にも気候対策を含めた環境経営が求められます。この記事では、脱炭素が必要とされる背景や、カーボンニュートラルとの違い、企業ができる脱炭素化への取り組みなどを紹介します。

脱炭素とは?求められている背景や類義語との違い

脱炭素(英語:decarbonization)とは、温室効果ガスの中でもCO2(二酸化炭素)の「排出量をゼロにする」取り組みのこと。CO2の排出がゼロになった社会を「脱炭素社会」といい、日本のみならず世界で約120の国々が、2050年までの実現に向けて脱炭素化を推進しています。

なぜ脱炭素を目指しているのか

昨今、脱炭素が求められている背景として、次の2つが挙げられます。

  1. 地球温暖化による気候変動
  2. 化石燃料資源が枯渇するため

日本で脱炭素が注目されるようになったきっかけとして、2015年の「パリ協定」があります。パリ協定では、「世界の平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をすること」「主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること」などの世界共通目標が示されました。

これを受けて日本でも、菅義偉内閣総理大臣が2020年10月の所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言。現在は、各国で温室効果ガス削減に向けた取り組みが実施されているほか、企業でも脱炭素化に対する取り組みが活発化しています。

参考:環境省『パリ協定の概要『パリ協定に基づく 成長戦略としての長期戦略(令和3年10月22日閣議決定)』

「カーボンニュートラル」と「脱炭素」との違い

脱炭素を知るうえで押さえておきたい言葉に「カーボンニュートラル」があります。よく似ていますが、次のような違いがあります。

.カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、日常生活や化石燃料の燃焼などで発生する、どうしても削減できない分の温室効果ガスについて、「排出量」から、森林管理や植林活動などによる「吸収量」を差し引いて、排出全体の中で実質ゼロとすること。メタンガスやフロンガスなど、CO2以外の気体も含めた、温室効果ガス全般が対象です。

政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

.脱炭素とは

脱炭素は、CO2の排出量を減らしてゼロを目指すことで、「実質ゼロ」とするカーボンニュートラルと異なります。脱炭素には明確な定義がなく、カーボンニュートラルとよく似た意味のため、「脱炭素」という言葉が実質的に「カーボンニュートラル」と同じ使い方をされることがあります。

脱炭素社会の実現に向けて日本が抱える課題とは

image by mos design on Unsplash

日本において脱炭素化社会を実現するには、次のような課題があります。

ライフスタイルに起因する温室効果ガス排出量の多さ

日本における温室効果ガスの排出量で、約2割を占めているのが家庭部門のため、一般家庭でのCO2排出を減らす必要があります。環境庁が実施した「家庭部門のCO2排出実態統計調査 」では、2022(令和4)年度の世帯当たりの年間CO2排出量(電気、ガス、灯油の合計)のうち、約67%は電力によるものとなっています。

世帯人数や地域にもよりますが、ライフスタイルに起因するCO2の排出を抑えるには、使用する電気を減らす努力が必要だと考えられます。個人の行動では限界があるため、省エネ性能の高い住まいであるZEB(ゼブ)やZEH(ゼッチ)、省エネ家電や給湯設備、地域の再生可能エネルギーなど、エネルギー消費に関する最新技術を取り入れることが重要です。

運輸業や鉄鋼業などの脱炭素化の遅れ

CO2排出量の約2割を占めるのが、運輸部門です。旅客輸送と貨物運輸がありますが、いずれも燃料として化石燃料を利用していることが課題です。輸送量が増加することによって、CO2の排出量も増加するためです。景気に左右される部分はあるものの、輸送量にかかわらずCO2の排出量を削減するには、輸送の効率化が鍵となるでしょう。

他方、産業部門で排出されるCO2が最も多いのが、鉄鋼業です。産業部門における排出量の約4割と最も多く、国内全体の約14%にも上ります。鉄鋼業では、製造時に使用する電力が大量かつ安定性が必要なため、脱炭素化がなかなか進んでいないのが実情です。製鉄過程そのものの抜本的な転換が必要であり、日本を含め各国で研究が進められていますが、実用化はされていません。

エネルギー産業の化石燃料への依存

日本がエネルギーを化石燃料に頼っていることも、脱炭素化の障壁になっています。石油・石炭・天然ガス(LNG)など化石燃料の輸入に依存しており、エネルギー利用の約85%が化石燃料によるものです。そのため、CO2の排出量を削減して脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーの導入・拡大など、化石燃料依存からの脱却が必要といえるでしょう。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『日本のエネルギー2020

脱炭素化に向けた日本の取り組み

脱炭素について、日本はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。代表的な取り組みを5つご紹介します。

参考:環境省『脱炭素ポータル

「地域脱炭素ロードマップ」の策定

地域脱炭素ロードマップとは、地域における脱炭素の工程や具体策を示すものです。地域で脱炭素に取り組むことで、地域の課題を解決しながら魅力と質を向上させ、地方創生に貢献するとして策定されました。2030年度までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」を選定して、脱炭素の基盤となる重点対策を全国で実施することを目指しています。

参考:国・地方脱炭素実現会議『地域脱炭素ロードマップ

「ゼロカーボンシティ」の普及

ゼロカーボンシティとは、2050年までにカーボンニュートラルを目指す自治体のこと。環境省はゼロカーボンシティを、「2050年にCO2(二酸化炭素)を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表された地方自治体」と定義しています。近年では、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明し、具体的な取り組みを進めている自治体も多くなっています。

各自治体の主な取り組みや施策は、こちらをご参照ください。

参考:環境省『2050年二酸化炭素排出実質ゼロに向けた取組等

「カーボンプライシング」の検討

「カーボンプライシング」とは、排出されるCO2(カーボン)に価格をつける制度です。企業などが排出するCO2に金銭的負担を課すことで、排出者の行動変化を促すことを目的としています。代表的なものとして、「炭素税」「排出量取引」「クレジット取引」などがあります。

参考:環境省『カーボンプライシング

「長期脱炭素電源オークション」の実施

長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源(再生エネルギー・水素・蓄電池など脱炭素に寄与する電源)への投資を促すために創設された制度です。具体的には、新規の脱炭素電源に対して原則20年間、固定費水準の収入が確保されます。長期的な収入を予測しやすくして脱炭素電源への投資を促すのが狙いで、2024年1月に初回オークションの応札が実施されました。

参考:電力広域的運営推進機関『長期脱炭素電源オークションを知ろう

「脱炭素経営」の推進

脱炭素経営とは、「気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営」のことをいいます。脱炭素を自社の経営上の重要課題と捉えて、企業活動によるCO2の排出量削減を目指すものです。

大企業を中心に脱炭素経営が進んでいる理由の一つは、TCFD・SBT・RE100などといった、気候変動に対する情報開示や目標設定を推奨する動きがあることです。2021年6月の改訂版コーポレートガバナンスコードでは、プライム市場上場企業に対して、自社のサステナビリティに関わる取り組みについての情報開示を求めています。SBT認定企業の中には取引先にも目標設定や気候変動対策などを要請する場合があり、他社との差別化を図るためにも、脱炭素経営が必要となるでしょう。

参考:環境省『脱炭素経営とは

企業ができる具体的な取り組み

上述のように、パリ協定を契機に、日本でも脱炭素の動きが加速しています。企業にも地球温暖化対策を含めた経営戦略や情報開示が求められる中で、具体的にどのようなことができるのかを解説します。

再生可能エネルギーの活用

太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなど、温室効果ガスを排出せず繰り返し利用できるエネルギーを「再生可能エネルギー」と呼びます。発電の主流である化石燃料はCO2を多く排出するため、再生可能エネルギーを活用することで、エネルギーがつくられる際のCO2削減につなげます。再生可能エネルギーは国産のため、日本のエネルギー自給率の改善にも貢献できます。

参考:資源エネルギー庁『再生可能エネルギーとは

省エネ設備の導入や開発

電気の利用によるCO2の排出を抑えるために、省エネ設備を使用することも、脱炭素化につながります。設備や電化製品などを少ない電気で利用できれば、エネルギー消費による二酸化炭素の排出も減るためです。

環境省のサイトに、脱炭素化に向けた取り組みを支援するための補助・委託事業の一覧や、申請フローなどが掲載されています。活用事例も紹介されていますので、導入を検討する際の参考にしてみてください。

参考:環境省『脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)

電気自動車への切り替え

日本の運輸部門におけるCO2排出量の約86%は自動車によるもののため、電気自動車への切り替えも、脱炭素には不可欠です。電気自動車の種類と特徴は、下の表を参考にしてください。

電気自動車(EV)燃料電池車(FCV・FCEV)ハイブリッド車(HV)プラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)
燃料電気水素(水素と酸素の化学変化で発電)ガソリン(外部からの充電はできない)
ガソリン(外部から充電できる)
エンジン  なしなしありあり
仕組み電気によるモーターで走行電気によるモーターで走行エンジンがメインで、モーターは補助的な役割エンジンで発電しながら充電できる

日本政府は「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」との方針を明らかにしており、EUではハイブリッド車・プラグインハイブリッド車も新車販売の停止が決定しています。今後、電気自動車への切り替えを行う企業は増加するでしょう。

参考:国土交通省『運輸部門における二酸化炭素排出量

緑化事業の推進

植林などの緑化事業も、脱炭素社会の実現を目指す取り組みとして有効です。屋上緑化や植林などを行い、樹木や植物が光合成でCO2を吸収する働きを活用して、大気中のCO2削減につなげます。

長野県にある齋藤木材工業株式会社では、構造用集成材として活用できない部分を「信州産カラマツ薪」として販売しています。収益の一部が山林に還元されるため、木の有効活用というだけでなく、持続的な森林循環にもつながります。自社の緑化事業の一環として、薪の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

その他にも、企業によってさまざまな取り組みが実施されています。環境省のサイトに取り組み事例が掲載されていますので、参考にしてみてください。

参考:環境省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 取組事例

脱炭素化推進のために「補助金」も活用できる

脱炭素の取り組みに際して、補助金を活用できます。さまざまな支援制度があるので、自社の事業活動に合うものを探してみてはいかがでしょうか。

<支援の例>※一部抜粋

  • 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ事業)
  • 商用車の電動化促進事業
  • 民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業
  • 脱炭素社会の構築に向けたESGリース促進事業
  • 運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業 など

省庁のほかに、独自に補助金などの支援制度がある自治体もあります。事業所のある自治体に、脱炭素に関わる補助金制度がないか調べてみるとよいでしょう。

参考:環境省『令和6年度予算(案)及び 令和5年度補正予算 脱炭素化事業一覧
経済産業省『中小企業支援機関によるカーボンニュートラル・アクションプラン
国土交通省『令和5年度 既存建築物省エネ化推進事業

脱炭素社会の実現に向け、できることから始めよう

脱炭素とは、地球温暖化を止めるために、CO2の排出ゼロを目指す取り組みです。日本では「2030年度までに46%削減(2013年度比)」「2050年に脱炭素社会の実現を目指す」ことが目標として掲げられており、実現に向けて、国や各地域で脱炭素の取り組みが進んでいます。企業における脱炭素経営は、社会的にも企業戦略としても重要なため、できるところから始めてはいかがでしょうか。