脱炭素経営とは?メリットや代表的な取り組み、進め方や企業事例を解説

脱炭素経営とは?メリットや代表的な取り組み、進め方や企業事例を解説

脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)を自社の重要課題と捉える企業経営のこと。昨今は環境問題意識の高まりから、企業にも脱炭素化が求められています。先進国をはじめ各国で取り組みが進んでおり、日本でも、脱炭素経営を打ち出す企業が増加傾向です。この記事では、脱炭素経営の概要やメリット、取り組むためのステップ、国内企業の事例などを解説します。

脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは、脱炭素(気候変動対策)の考え方を組み込んだ企業経営のこと。近年の異常気象や自然災害の激甚化などによって、CSR活動ではなく脱炭素化を自社の経営課題と捉える企業が増えてきました。

脱炭素経営が推進される契機となったのは、「パリ協定」と呼ばれる、温室効果ガスの抑制に関する国際的な枠組みです。2015年にパリ協定が採択されて以降、加盟国がそれぞれ温室効果ガス削減に向けて動き出したことや、日本でも当時の総理大臣が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質0にする」ことを表明(カーボンニュートラル宣言)したことなどにより、日本全体で脱炭素化が加速しています。

参考:環境省『脱炭素経営とは

脱炭素経営の重要性

日本が排出する温室効果ガスは、約9割が二酸化炭素(CO2)で、二酸化炭素の約6割は産業や運輸、家庭などの非電力部門からの排出によるものです。そのため、温室効果ガス排出の実質ゼロを達成するには、各企業が脱炭素経営に取り組む必要があると考えられます。特にグローバル市場では、脱炭素経営への取り組みを当然のこととする考え方が広がっており、脱炭素経営を目指していない企業は低評価になるリスクが高まります。

また、投資の分野でも、「ESG金融」(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)のように、投資家が環境や社会に配慮している企業を投資先として選ぶことがあります。企業の資金調達という側面からも、脱炭素経営は無視できないといえるでしょう。

脱炭素経営を行うメリット

企業が脱炭素経営を推進することは、温室効果ガス(CO2)を削減するだけでなく、さまざまなメリットがあります。企業が得られるメリットとして、次の5つが挙げられます。

優位性を確保できる

脱炭素経営への取り組みを示すことで、競合他社よりも優位性を確保できる可能性が高まります。企業の中には、自社の脱炭素化だけでなく、取引先(サプライヤー)にも脱炭素化を求めることがあるためです。脱炭素化を進める企業を取引先として選ぶ企業も増えているため、脱炭素経営を示すことは、競合他社よりも優位に立つことにつながります。

エネルギーコストを削減できる

光熱費などのエネルギー利用にかかるコストを軽減できるのも、脱炭素経営のメリットです。業務プロセスの効率化や省エネ設備への入れ替えなどによって、エネルギー消費が減少し、光熱費・燃料費も低くなるためです。

従業員のモチベーションや人材獲得力が向上する

金銭的なメリットだけでなく、従業員のモチベーション向上も期待できます。脱炭素経営への取り組みが自治体から表彰されるなどして、働き甲斐を感じやすくなるためです。また、環境問題や社会問題に関心がある求職者からの評価が高くなり、人材獲得で有利になるというメリットもあります。

認知度や知名度の向上につながる

脱炭素経営の表明は、自社のブランディング強化にも役立ちます。自社の取り組みがメディアに掲載されるなど、知名度・認知度の向上につながりやすいためです。特に、中小企業での取り組み事例は少ないため、脱炭素経営の表明がPR活動にもなります。

資金調達が優位になる

脱炭素経営は、資金調達でもメリットがあります。環境問題への取り組みは金融機関にも広がっており、銀行が脱炭素経営を行う企業向けの商品を提供していることがあるためです。融資の条件で優遇されることもあるため、脱炭素経営は資金面でも優位になると考えられます。

参考:環境省『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

脱炭素経営の代表的な取り組み

国内企業の脱炭素経営に向けた取り組みとしては、次の3つが代表的です。

TCFD

TCFDとは、「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の略で、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)の要請を受けて2015年に設置された組織です。

このTCFDは、気候変動による影響や取り組みなどを企業の財務情報に併記して情報開示することを推奨しており、日本では1,470の企業・機関がTCFDに賛同して情報開示を行っています(2023年10月12日現在)。

東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード」の改訂で、プライム市場の上場企業に対して、TCFDまたはそれに準ずる情報の充実を求めていることもあり、TCFDは投資家の重要判断項目の一つにもなっています。

参考:経済産業省『日本のTCFD賛同企業・機関

SBT

SBT(Science Based Targets  科学的根拠に基づく目標)は、パリ協定が掲げる「気温上昇を2℃未満にし、1.5℃未満に抑えられるように追求する」ために、企業が科学的根拠に基づいて中長期で設定する温室効果ガス削減目標のこと。SBTに取り組んでいる企業は、運営事務局(SBTイニシアチブ、SBTi)に申請し、「SBT認定」を受けることができます。

出典:環境省『SBTについて』5ページより抜粋

SBTでは、事業活動に関わるあらゆる排出量(サプライチェーン排出量)の削減が求められるため、SBT認定企業の中には、サプライヤーにSBT目標の設定を求める企業もあります。

参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について

RE100

RE100(アールイーワンハンドレッド)とは、「Renewable Energy 100%」の略称で、企業が事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す、国際的な企業連合(枠組み)です。加盟企業には、自社で再生可能エネルギー電力を発電する、または発電事業者から再生可能エネルギーで発電された電力の購入が求められます。

加盟には要件を満たす必要があるため、要件を満たさなくでも参加できる「RE Action」で、再生エネルギーへの転換を宣言する中小企業・自治体・教育機関・医療機関などの団体も多くなっています。

参考:環境省『RE100について

脱炭素経営に取り組むための6つのステップ

image by Priscilla Du Preez 🇨🇦 on Unsplash

脱炭素経営の手順として、主に次のステップがあります。

<ステップ1>情報を収集する

最初に必要なのが、脱炭素の動きに関わる情報を集めること。例えば、次のような情報です。

  • 脱炭素経営の世界的な流れや政府の動き
  • 自治体の補助金制度、地域の勉強会
  • 消費者が求める脱炭素商品やサービス
  • 取引先の脱炭素に対する取り組み など

<ステップ2>自社の方針を検討する

自社の経営方針や事業計画などを考慮して、脱炭素経営の方向性を定めます。

<ステップ3>CO2排出量を算定する

自社はどのぐらいの二酸化炭素(CO2)を排出しているのか、排出量を計算します。算定のポイントは業界によって異なり、サプライチェーン排出量では、自社が直接排出するだけでなく、原材料調達から製品の使用・廃棄までの間接的な排出も含めた、事業活動に関わる全ての排出量を計算します。

参考:日本商工会議所『CO2チェックシート』、環境省『排出量算定について

<ステップ4>排出削減目標を設定する

ステップ3で算出した排出量を基に、自社の主な排出源である事業活動や設備などを把握して、脱炭素経営を進めていくための目標を設定します。先述のTCFD賛同、SBT認定取得、RE100加盟(あるいはRE Action)などを目指すのもよいでしょう。

<ステップ5>排出削減計画を策定する

目標達成に向けて、排出削減計画を策定します。計画策定を後押しする補助金制度など、自社で利用できるものがないか調べてみるのもおすすめです。

脱炭素経営の補助金・支援制度

政府は脱炭素経営を推進する企業を対象に、さまざまな補助金や支援制度を用意しています。環境省のサイトには、補助・委託事業の一覧や活用事例、申請フローなどが掲載されていますので、脱炭素経営を検討する際はチェックするとよいでしょう。

令和6年度(2024年)例:

  • 民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業
  • 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業
  • 地域脱炭素推進交付金
  • 再生可能エネルギー資源発掘・創生のための情報提供システム整備事業
  • 環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業
  • エネルギー起源CO2排出削減技術評価・検証事業
  • 事業全体のマネジメント・サイクル体制確立事業 など

参考:環境省『脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)

<ステップ6>削減計画の実行と見直しを図る

策定した排出削減計画を基に、対策を行います。その後、取り組みの効果を検証して、計画と実際の削減量にギャップがないか調べます。状況の変化に応じて、計画を見直し柔軟に対応していくことも大切です。場合によっては業務フローやビジネスモデルの見直しも検討します。

参考:環境省『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

脱炭素経営に取り組む企業事例

ここでは、脱炭素経営に取り組んでいる企業事例をご紹介します。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス

セブン&アイ・ホールディングスは、2019年5月にサステナブル経営と環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を策定しました。脱炭素経営に対する取り組みとして、「CO2排出量の削減の3つの柱」があり、「省エネ」「創エネ」「再エネ調達」に取り組んでいます。

具体的には、次のような施策を実行しています。

【省エネ】

  • 省エネ設備の導入(店内の正圧化・ペアガラス)
  • 稼働管理・EMSの導入(温度異常監視⇒AI管理)
  • スマートセンサー(セブン‐イレブンの約2万店舗の分電盤に設置済) など

【創エネ】

  • 店舗の太陽光パネル設置拡大
  • 設置場所・発電容量・蓄電池の拡大(例:店舗屋上、ソーラーカーポート)
  • 店舗での水素エネルギーの利活用
  • 次世代太陽電池、蓄電池の研究開発 など

【再エネ調達】

  • グループ専用発電所の拡大(太陽光発電所・風力発電所・水力発電所)
  • オフサイトPPA(電力販売契約)モデルの拡大 など

グループ各社が排出する二酸化炭素の約9割は、店舗の電気使用によるものです。そのため、事業の拡大や店舗数の増加と共に排出量も増加しないように、店舗運営に伴う排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を定め、排出量削減に努めています。

参考:セブン&アイ・ホールディングス『気候変動対策

株式会社艶金

株式会社艶金(岐阜県大垣市)は、生地の染色や縫製加工などを行っている企業です。2021年8月に、日本の染色会社で初めてSBT(二酸化炭素排出削減目標)認定を取得しました。染色業は大量の水や電気、化学薬品などを使用する環境負荷の大きい業界ですが、同社は1987年に環境に配慮した「バイオマスボイラー」を導入して、染色加工におけるカーボンニュートラルを実践。2018年に環境省の「中小企業版の二酸化炭素排出量の算定、中長期二酸化炭素排出削減目標設定支援」の参加企業に採択され、2019年には「脱炭素宣言」を行いました。二酸化炭素の排出量について、2030年までに50%減(2018年度比)を目指して、脱炭素化を推進しています。

参考:株式会社艶金『環境への取り組み

事業成長のために脱炭素経営を推進しよう

脱炭素経営は、気候変動対策となるだけでなく、取り組むことで環境への意識が高いと評価されるかもしれません。事業の継続や資金調達の視点からも、重要な取り組みといえるでしょう。省エネや再生エネルギーの導入など脱炭素化の方法はさまざまあり、自社に無理のない範囲で進めていく必要があります。まずは自社の二酸化炭素排出量を把握することや、作業効率の見直しなど、情報収集から脱炭素経営に取り組んではいかがでしょうか。