【企業向け】木質バイオマスとは?利用のメリットや課題、導入事例をご紹介
木質バイオマスは、森林伐採や製材工程などで生まれる、木材に由来する資源のこと。従来は廃棄物として処理されることが多かったものですが、近年の地球温暖化や廃棄物問題などに対応するため、エネルギーとして利用する木質バイオマスへの関心が高まっています。この記事では、木質バイオマスの概要と、活用方法やメリット、補助金などの支援制度、企業の取り組み事例をご紹介します。
Contents
木質バイオマスとは
「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、「再生可能な、動植物に由来する有機性資源(化石燃料は含まない)」を指します。バイオマスの種類はさまざまで、森林の間伐材、食品廃棄物、下水の汚泥、家畜の排泄物などが活用されており、このうち木材を活用したものを「木質バイオマス」と呼んでいます。
木質バイオマスの種類
木質バイオマスには、製材工場などで発生する端材や樹皮、未利用の間伐材、住宅の解体材など、さまざまなものがあります。
未利用間伐材等
森林管理のために伐採した後、搬出されず未利用のまま森林に残されている間伐材や枝などです。林野庁によると、年間約2,000万m3発生していることが分かっており、未利用間伐材の活用は大きな課題となっています。
製材工場等残材
製材工場の作業工程などで発生する、木の樹皮・背板・おが屑などを、木質バイオマスとして利用します。これらは年間約850万m3発生しており、そのほとんど(約95%)は、製紙原料・燃料用・家畜敷料などに利用されています。
建設発生木材
土木工事の建設現場や、住宅を解体する際などに発生する木材を、廃棄せずにバイオマスとして活用します。年間約1,000万m3発生しており、そのうち約90%が燃料用・製紙原料・木質ボード原料などとして利用されています。
製材工場や建設現場などで発生する木材は、そのほとんどが利用されています。そのため木質バイオマスの利用を拡大するには、未利用間伐材などの活用が重要な課題だと考えられます。
参考:林野庁『木質バイオマスとは』
木質バイオマスが注目されている背景
木質バイオマスは、次のような課題解決に向けて活用が期待されています。
- 地球温暖化を抑制する施策
- 廃材など廃棄物処理問題への対応
- 発電に利用できない間伐材や松枯れ被害を受けた枯木などの処理
- 山間地域の過疎化 など
地球温暖化の抑制だけではなく、森林整備などさまざまな分野で利活用できるため、近年木質バイオマスは注目を集めています。
木質バイオマスの活用方法
木質バイオマスをどのように利用するか、具体的な活用方法を紹介します。
エネルギー
木質バイオマスを燃やすことで、発生するエネルギーを利用します。ペレット・薪・炭・燃料用チップなどに加工したものを、ストーブやボイラーなどで直接燃焼させて、暖房や給湯などに使用します。また、地球温暖化防止の観点から、木質バイオマスを活用した発電施設があるほか、石炭火力発電所において石炭と木質バイオマスの混合で発電するケースもあります。
資材
木質バイオマスも、FITにおける再生可能エネルギー源の一つとされていますが、用途を変えながら多段階で繰り返し利用する「カスケード利用」という方法もあります。例えば、木材を建材や家具などに利用した後で、ボードや紙などの利用を経て、最後に燃料にするものです。
木質バイオマスを資材として利用することで、廃棄物の量を削減して、再生可能な資源として有効活用できます。
参考:林野庁『木質バイオマスのエネルギー利用の現状と今後の展開について』
木質バイオマスを利用するメリット
木質バイオマス利用には、以下のようにさまざまなメリットがあります。
<メリット1>地球温暖化を防げる
木質バイオマスを使うことで、CO2の排出を抑制してカーボンニュートラル実現につながるため、地球温暖化防止に寄与します。木質バイオマスは燃焼によってCO2を排出しますが、原材料である個々の樹木は、光合成により大気中のCO2を吸収・炭素固定を行うためです。木質バイオマスを利用した後に植林を行うことで、木の成長過程で再びCO2が吸収・固定されるため、大気中のCO2削減につながります。
<メリット2>エネルギー資源を有効活用できる
再生可能エネルギー資源としても、木質バイオマスは有用です。風力発電やソーラーパネルと異なり、天候に左右されないのがポイント。日本はエネルギー資源を輸入に依存しているため、国内でエネルギー資源を調達することは、エネルギーの自給率アップにもつながります。化石燃料は原油価格の変動や海外情勢などの影響を受けやすいため、木質バイオマスを活用することで、エネルギー資源に関わるリスクを分散できるとも考えられます。
<メリット3>廃棄物を減らせる
製材工程で発生する樹皮や使用できない間伐材などは、全く使用せずに焼却処分にするとただの廃棄物になってしまいます。日本の廃棄物処分は限界に近づいており、環境省が2021年3月に発表した調査結果によると、最終処分場(埋立地)はあと20年ほどで満杯になることが分かっています。新たに処分場をつくることは難しいため、捨てずに木質バイオマスとして活用することは、廃棄物の減少につながります。
長野県にある齋藤木材工業株式会社では、集成材を生産する際に発生する端材を、薪にして販売しています。集成材の使用が難しい部分を、木質バイオマスとして利用することで、廃棄物の量を抑制。建築資材と同様の人工脱脂乾燥を行っているため、含水率は10±3%と低く着火が簡単で、室内保管でも虫が出にくいというメリットもあります。
<メリット4>森林を適切に整備できる
木質バイオマス利用は、森林の適切な整備にも有用です。これまで未利用のまま放置されていた未利用間伐材を山林から搬出して再植林を行うなどの行動が、森林整備につながります。また、森林には水を蓄える機能があり、適切な管理は水源の保全や土砂災害防止にも役立ちます。
<メリット5>山村地域の経済が活性化する
未利用間伐材やこれまで廃棄物として処分していた端材などが、資材やエネルギー資源として今後さらに価値を持つでしょう。そのため、木質バイオマスに関わる新たな産業や雇用を創出する可能性があります。例えば、山林から搬出するための道路整備、収集や運搬、バイオマス燃料への加工などで、地域経済を活性化する効果が期待できます。
木質バイオマスの課題
木質バイオマスの利用には、次のような課題もあります。
- 林道が整備されていないエリアがあるため専用のトラックが必要となり、収集・運搬が困難
- 運搬や保管、人件費などのコストがかかる
- 林業従事者の高齢化が進み、人材が不足している
- 国産の木質ペレット価格は輸入品の2~3倍と割高 など
木質バイオマス発電では、化石燃料よりも発電効率が悪い、燃料の安定供給が難しい、発電所運営に必要な技術者の確保(育成)が必要という課題もあります。
木質バイオマスの導入に対する国の支援や補助金
木質バイオマスを導入するにあたり、どのような支援を受けられるのか気になる方もいるでしょう。ここでは、行政による支援や補助金をご紹介します。(※2024年2月現在)
- 木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業
- 木材需要の創出・輸出力強化対策のうち木質バイオマス利用環境整備事業
- 林業・木材産業成長産業化促進対策交付金
- 地域脱炭素移行・再エネ推進交付金
- 地域経済循環創造事業交付金 など
国からの補助金以外に、独自の支援策を用意している自治体もあるため、活用できる支援がないか調べてみるとよいでしょう。
参考:バイオマス産業都市関係府省連絡会議『関係府省庁によるバイオマスの利活用に関する支援策(令和5年3月)』林野庁『木質バイオマス利用推進の取組』
国内における木質バイオマスの導入事例
日本における木質バイオマスの導入事例をご紹介します。
長野県坂城町|庁舎の暖房に木質バイオマスを利用
長野県の坂城町は、役場庁舎の暖房に木質バイオマスボイラーを使用しています。工業が主要産業である坂城町は「坂城スマートタウン構想」を策定しており、エネルギーマネジメント実現のため、木質ペレットを活用したバイオマスボイラーを導入。地元の森林から搬出される間伐材を利用して、CO2排出量削減と森林保全に努めています。
庁舎全体の暖房に木質ペレットを使用することで、町が率先して地球温暖化の抑制に取り組むことを示すとともに、災害時には拠点・避難施設となる役場庁舎の熱供給源を多様化して防災力の向上も図っています。
参考:長野県『長野地域(1村1自然エネルギープロジェクト取組事例)』
住友林業グループ|廃材や未利用木材を活用した木質バイオマス発電
住宅・建築が主幹事業の住友林業グループは、再生可能エネルギー事業を展開しています。森林に放置されてきた未利用木材、根本付近や先端部など製材に適さない木材、建築廃材の木材などを燃料用木質チップとして利用する木質バイオマス発電を実施。環境保全と林業振興に寄与しています。国内5カ所で木質バイオマス発電所を展開(※2024年2月現在)しているほか、木質バイオマス発電事業への出資も行っています。
参考:住友林業『木質バイオマス発電』
補助金を活用しながら木質バイオマスの導入を進めよう
木質バイオマスの利用は、自然資源の有効活用や森林環境の保全、カーボンニュートラルの実現に加え、林業に関わる雇用の創出や地域経済の循環などにも寄与します。国や自治体によるさまざまな補助金制度もあるため、自社で無理なく実現できる事業を検討して、木質バイオマスの導入を進めましょう。