大気汚染による影響をわかりやすく解説。人体や動物へのリスクと環境保全の対策とは
空気が汚染され、人や動物、自然にさまざまな影響を及ぼす大気汚染。工場や自動車の排出ガスなど、身近なものにも大気汚染の原因があり、世界中で環境保全に向けた取り組みが進められています。本記事では、大気汚染が起こる原因の解説も交えながら、人体や動物への大気汚染の影響や、環境保全に向けた近年の動きについてご紹介します。
Contents
地球は今どうなっているのか。深刻な大気汚染の影響
「世界で10人のうち9人が汚染された大気環境の下で生活している」といわれ、大気汚染が深刻な問題となっているのが現状です。世界保健機関(WHO)は、大気汚染の影響により世界で推定700万人(年間)が死亡しているといった見解も示しており、問題の改善に向けて早急な取り組みが求められています。
日本では、大気汚染を防ぐため各種規制などの対策がとられている一方、世界では対応が遅れている国も見られます。経済活動とのバランスをとりながら、どのように環境を守っていくのか、国や企業の姿勢が問われる時代といえるでしょう。
大気汚染を引き起こす5つの原因
大気汚染は、どのようにして起こるのでしょうか。大気汚染物質にはさまざまな種類があり、発生源も異なります。ここでは、大気汚染の代表的な5つの原因についてご紹介します。
<原因1>二酸化硫黄
硫黄酸化物の一つである「二酸化硫黄」は、石炭や石油などの化石燃料を燃やすことで発生します。これは、化石燃料に含まれる「硫黄成分」が燃焼によって酸化することが原因です。二酸化硫黄は、大気汚染につながるだけでなく、「酸性雨」の原因にもなっています。
<原因2>二酸化窒素
化石燃料を燃やすと「二酸化窒素」も発生します。これは、石油などの燃焼時に、空気中の窒素が酸化することで生成されます。「二酸化窒素」は有毒ガスで、光化学オキシダントの原因の一つになっています。
<原因3>浮遊粒子状物質・微小粒子状物質(PM2.5)
「浮遊粒子状物質」と「微小粒子状物質(PM2.5)」は、どちらも大気中に浮遊している粒子を指します。粒子の大きさによって分けられており、浮遊粒子状物質は10マイクロミリメートル※以下、微小粒子状物質は2.5マイクロミリメートル以下と、非常に小さな粒子です。
この2つは、物質の燃焼によって直接排出されるほか、乾燥した土壌など自然由来のもの、ガスが大気中で化学変化を起こしたものなど、さまざまな物質や発生源を含みます。
※1マイクロミリメートルは1mmの1000分の1の大きさ
<原因4>一酸化炭素
自動車の排気ガスなどに含まれる「一酸化炭素」は、燃料の炭素が不完全燃焼することで発生します。一酸化炭素は、車の往来が多い沿道などで高濃度になりやすい傾向があります。
<原因5>光化学オキシダント
「光化学オキシダント」は、太陽光によって大気中の物質が化学反応を起こし、有害化したもので、代表的な物質はオゾンです。このように太陽光によって化学変化を起こす物質には、工場や自動車などから排出される「窒素酸化物」などのほか、植物に由来する「炭化水素」などがあります。
大気中にある光化学オキシダントの濃度が高くなると、白いもやがかかったように見える「光化学スモッグ」が起きます。
参考:環境省『大気汚染の定義と汚染物質』、『大気汚染が引き起こす問題』
病気との関連性。大気汚染による人体への影響
大気汚染によって「喉が痛い」「目がチカチカする」などの健康被害が出る場合もあり、過去に日本でも「四日市喘息」など、人体への悪影響が公害問題となるケースもありました。ここからは、大気汚染による人体への影響についてご紹介します。
呼吸器系への影響
大気汚染の原因の一つである微小粒子状物質(PM2.5)は、非常に小さいため肺の奥深くまで入りやすく、「喘息」や「気管支炎」などの呼吸器系疾患につながる可能性が指摘されています。また、肺がんリスクの上昇も懸念され、影響を調べるために調査・研究が進められています。
参考:環境省『微小粒子状物質(PM2.5)に関するよくある質問(Q & A)』
アレルギー症状への影響
大気汚染によって、アレルギー症状が悪化することも指摘されています。ただし、大気汚染によって発病(新規発症)するかどうかについては、明確な関連性が確認されていません。
日本においては大気汚染状況が改善傾向にあり、「アレルギー疾患発症リスクは高くない」との知見もあります。
参考:厚生労働省『大気汚染とアレルギー疾患について』
大気汚染は自然環境や動物にも影響する
大気汚染によって起きる「酸性雨」は、魚などの水中生物に影響を与える可能性があります。また、葉などに付着したり、土壌に染みこんだりして植物に影響し、森林の衰退につながるとの報告も見られ、世界的な環境破壊を引き起こしているといえるでしょう。
大気汚染を引き起こす化石燃料の燃焼は、「温室効果ガス」の原因にもなっており、地球温暖化に影響しています。このような環境汚染や自然環境の変動により、絶滅危機の高い種(絶滅危機種)に指定される野生動物は増加する一方です。
参考:環境省『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』
WWFジャパン『地球温暖化による野生生物への影響』
大気汚染への対策とは。海外や日本の取り組み
大気汚染の影響は世界各国や企業で問題視され、さまざまな大気汚染対策がとられています。ここでは、環境保全に向けた取り組みをご紹介します。
世界各国で2030年に向けて対策
温室効果ガスの排出削減など、環境保全に向けた国際的枠組みとして、2015年に「パリ協定」が採択されました。パリ協定では、世界共通の目標を「気温上昇が2℃を下回ること」とし、継続して努力する方針を掲げています。国ごとに2030年までの目標を示しており、各国の政策によって全世界の共有価値である大気や環境の保全につながることが期待できるでしょう。
参考:外務省『2020年以降の枠組み:パリ協定』
日本でも環境改善に向けた取り組みを推進
日本では、特定の地域で起きた公害問題を受けて1968年に「大気汚染防止法」を制定し、環境問題の改善を推進してきました。また、以下のような大気汚染にかかる環境基準を定め、環境の改善や保全に努めるよう促しています。
このような基準値を超えないよう、監視システムを導入し、全国の大気汚染状況について情報提供も行っています。以下のポータルサイトで確認できるので、大気の状態が気になる場合は参考にするとよいでしょう。
参考:環境省『大気汚染物質広域監視システム そらまめくん』
近年は、環境保全に向けた国際的な動きを受け、2020年に菅総理大臣(当時)が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを宣言し、CO2排出量の削減を推進しています。企業も環境保全に積極的に取り組んでおり、自動車産業ではCO2排出量の少ない電気自動車の製造・販売を推進しています。例えばトヨタ自動車株式会社では、走行時のCO2を削減するだけでなく、工場での製造プロセス、輸送プロセスにおいても環境に配慮し、企業活動全体で環境に配慮した取り組みを掲げています。
大気汚染の影響を考えて、身近なことから行動を起こそう
環境を守るため、消費型から循環型へと社会のあり方がシフトしています。私たち個人も、どのような対策ができるのか考えることが大切です。例えばリユース用品を利用することや、環境に負荷をかけにくい商品を選ぶことも環境保全につながります。また節電など、エネルギーの無駄遣いを減らすのもよいでしょう。まずは、日々の生活の中で簡単にできることから始めてみませんか。