ESGとSDGsの違いは?関連用語CSR・CSVの意味や企業の取り組み事例

ESGとSDGsの違いは?関連用語CSR・CSVの意味や企業の取り組み事例

近年注目されているESGとSDGsには、どのような違いがあるのでしょうか。ESGとSDGsの違いを理解し、取り組みを進めていきたい方もいるかもしれません。そこで今回は、ESGとSDGs、関連用語であるCSR・CSVとの違いに加えて、企業がESGやSDGsに取り組むメリットなどを解説します。ESGを重視した経営をしている企業の事例も紹介していますので、参考にしてください。

ESGとSDGsの概要

近年、ニュースなどで取り上げられる機会が増えてきている、「ESG」と「SDGs」。両者の定義や違いを知りたい企業担当者の方も多いでしょう。

まずは、ESGとSDGsの概要を紹介します。

ESGとは

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとった略語。ESGを考慮した投資活動(ESG投資)や経営・事業活動(ESG経営)をESGと呼ぶこともあります。

ESGは、「責任投資原則(PRI)」においてESGが言及されたことをきっかけに、注目されるようになりました。責任投資原則(PRI)とは、2006年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が発表した、投資家に向けたイニシアティブのこと。PRIの中で、投資判断の新たな観点としてESGが紹介され、個人投資家や機関投資家の多くがそれに賛同。世界各国でESG投資が進んでいます。

日本では、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名しました。これを機に、日本国内でもESG投資やESG経営が盛んに行われるようになってきています。なお、ESG投資やESG経営については、後ほど解説します。

ESGの3要素

ESGは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス/企業統治)」の3要素からなります。各要素におけるESG課題や、企業として取り組むべきことを表にまとめました。

ESGの要素ESG課題企業として取り組むべきこと
Environment  
(環境)
・温室効果ガスの増加による地球温暖化
・干害や水害などの異常気象
・環境問題に起因する工場の操業停止やサプライチェーンの寸断 など
・二酸化炭素の排出量削減
・再生可能エネルギーの活用
・工場廃水対策の実施による水質汚染の改善
・生物多様性に配慮した開発
・植樹・植林活動の実施 など
Social
(社会)
・過重労働や労働に見合わない低い賃金
・男性の方が優秀との価値観に基づく男性労働者・女性労働者間の処遇の違い
・人権問題やハラスメント など
・労働条件の改善や過重労働の是正
・女性や障がい者の活躍推進
・ジェンダーペイギャップ(男女間の賃金格差)の是正
・ワークライフバランスの実現に向けた諸制度(在宅勤務制度、フレックスタイム制など)の導入
・従業員の人権への配慮やハラスメント対策の実施 など
Governance   
(ガバナンス)
・不正会計
・贈収賄
・情報漏えい など
・法令の遵守
・社外取締役の選任
・適切な情報開示
・株主や従業員の権利保護 など

SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、「持続可能な開発目標」のこと。2030年までに持続可能なよりよい世界を目指すことを目的に、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標です。SDGsは、「17の目標」およびそれを実現するための「169のターゲット」からなります。

世界には、貧困や飢餓、人種差別、ジェンダーによる不平等、地球温暖化など国際的な課題が多数あり、こうした課題を1つの国の力だけで解決することは困難です。「このままでは地球がもたない」という危機感が世界中で高まっていることもあり、世界中の「国」「企業」「個人」を巻き込む国際目標であるSDGsが世界的に注目されています。

SDGsとサステナビリティの関係

SDGsと関連性が高いのが、サステナビリティです。サステナビリティを和訳すると「持続可能性」となり、持続可能な社会の発展を目指すという考えを指します。

SDGsとサステナビリティは、「私たちの暮らす地球を守るためのもの」という点で共通です。一方で、目標成期限の有無という違いがあります。サステナビリティは、「環境」「社会」「経済」の3つを大きな柱としており、達成期限のない長期的な目標・取り組みが定められています。

一方、SDGsは、2030年までに達成すべき目標や具体的な行動指針を示したものです。サステナビリティを実現するための具体的な目標を示したのがSDGsと理解するとよいでしょう。

ESGとSDGsの違いと関係性

ESGとSDGsの概要を理解したところで、両者の違い・関係性について見ていきましょう。

ESGとSDGsには、「より良い地球とするためのもの」「持続可能な発展に寄与するもの」という共通点があります。その一方で、用語の意味合いや活動主体が異なります

SDGsは「目標」であるのに対し、ESGは「SDGsを実現するための手段」としての意味合いが強いです。企業がESGに取り組むことにより、SDGsが実現しやすくなると捉えるとわかりやすいでしょう。

また、SDGsとESGでは、SDGsの方が活動主体が広いです。SDGsの活動主体は企業の他に、国や個人も含まれます。一方、ESGの活動主体は、基本的に企業です。なお、ESG投資に関しては、投資先の選定・投資の実施という面で、投資家も活動主体といえるでしょう。

このように、ESGとSDGには違いがありますが、社会の構成員である企業に求められるものという意味では同じです。両者は互いに、深く関わり合っているといえるでしょう。そのため、どちらか一方のみに偏った取り組みをするのではなく、両者とも意識した取り組みを進めていくことが重要です。

関連用語CSR・CSVの意味と、ESG・SDGsとの違い

ESGやSDGsの関連用語としては、「CSR」「CSV」があります。CSR、CSVの意味や、ESG・SDGsとの違いについて、紹介します。

CSRとは

CSR(Corporate Social Responsibility)とは、「企業の社会的責任」のこと。企業は自社の利益のみを追求するのではなく、顧客や従業員、取引先、投資家といった全てのステークホルダーに対する責任を果たす必要があるということを意味します。

ESGとCSRは、いずれも「企業に求められる社会的な責任」という点で共通です。一方で、「投資家の視点」を考慮するかしないかという点では異なります。CSRは、あくまで企業としての視点で行うべきものであり、そこに投資家の視点は含まれません。

ESGは企業の責任であると同時に投資判断の基準の一つでもあるため、「投資家にどのような印象を与えるのか」というように投資家の視点が意識されます。

SDGsとCSRの最も大きな違いは、活動主体です。CSRの活動主体は企業ですが、SDGsは企業以外に国や個人も含まれる、より大きな目標となります。

CSVとは

CSV(Creating Shared Value)とは、「共有価値の創造」のこと。経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)の両立を図っていくことを意味します。CSVは「製品と市場の見直し」「バリューチェーンの生産性の再定義」「企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターの形成」の3つを柱としています。

CSVとESG・SDGsには、社会課題の解決を図るという共通点があります。一方で、「企業の経済的利益を主たる目的としているか否か」という点で異なります。CSVは、3つの柱からも明らかなように、企業の経済的利益を主たる目的とするものです。

ESG・SDGsは、企業の経済的利益が主たる目的ではなく、持続可能な社会の実現を主たる目的としています。

このように、CSRやCSVとESG・SDGsには違いこそあれど、いずれも企業にとって重要なものです。自社としてすべきことをそれぞれの観点から検討し、確実に実行していきましょう。

企業がESGやSDGsに取り組むメリット

企業がESGやSDGsに取り組むメリットは、以下の2点です。

オフィス風景
Image by LYCS Architecture on Unsplash

企業イメージが向上する

ESGやSDGsへの取り組みを社外にアピールすることで、消費者や求職者、取引先などに「環境問題や社会問題に関心の高い企業」「コンプライアンス体制がしっかりとした企業」という印象を与えられます。企業イメージが向上し、「自社商品やサービスの購入者・利用者の増加」「求人への応募数の増加」「取引先との契約継続や関係性の改善」といった効果が期待できるでしょう。

資金調達が有利になる

ESGを考慮したESG投資をする投資家が増えてきているため、ESG経営を進めることで、投資家や金融機関からの信頼を得やすくなります。そのため、資金調達の面で有利になる可能性があるでしょう。

この他、「ESGやSDGsの観点から自社のビジネスや市場のニーズを見つめ直すことで、新しいビジネスチャンスに気付ける」「自治体からの協力を得やすくなり、自社だけでは展開が難しいビジネスにも挑戦できる」といった効果も期待できます。

ESG投資とは

ESG投資とは、非財務的な要素であるESGを考慮して投資先企業を選び、そこに対して投資することです。

財務省が2020年に公表した資料によると、2016年から2018年の2年間で、世界のESG市場は22.9兆米ドルから30.7兆米ドルへ、日本のESG市場は0.5兆米ドルから2.1兆米ドルへと急拡大しています。

参考:財務省『ESG投資について 2020年12月2日

ESG投資の手法には、以下の7つがあります。

投資手法概要
ネガティブ・スクリーニング(Negative/exclusionary screening)あらかじめESGに関する評価基準を定め、基準に満たない企業を投資対象から除外する手法
ポジティブ・スクリーニング(Positive/best-in-class screening)業界内や投資対象内において、ESG関連の評価が相対的に高い企業に投資する手法
規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)ESG分野の国際基準に満たない企業を投資対象から除外する手法
ESG統合(ESG integration)従来の財務分析に加え、ESGなどの財務分析だけでは見えない要素も参考に、投資する企業を選ぶ手法
サステナブル・テーマ投資(Sustainability-themed investing)サステナビリティに貢献し得るテーマや企業に対して投資する手法
インパクト投資(Impact/community investing)投資収益に加えて社会や環境にポジティブ・インパクトを与えることを目的に、社会や環境に貢献する技術・サービスを提供する企業に投資する手法
エンゲージメント・議決権行使(Corporate engagement and shareholder action)投資家として、中長期的な視点から経営改善などについて企業と対話する手法

企業としては、「投資家は上記のいずれかで、ESG投資を行っている」と認識し、ESGに積極的に取り組んでいく必要があるでしょう。

ESG経営を行う企業の取り組み事例

近年、ESGの3つの観点を意識した「ESG経営」をする企業が増えてきています。実際に、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ESG経営を行う企業の取り組み事例をご紹介します。

キヤノンマーケティングジャパングループ

キヤノン製品の国内マーケティングや独自ソリューションの提供をしているキヤノンマーケティングジャパングループは、すべての人々が末永く共に働き、幸せに暮らしていける社会の実現を目的に、サステナビリティ経営に取り組んでいます。

優先度が高く注力すべき重要課題(マテリアリティ)として、社会からの「期待」に応える1項目と「要請」に応える5項目の計6項目を設定。同グループが掲げるマテリアリティは以下の通りです。

社会からの「期待」に応えるマテリアリティ
 ・「くらし」「しごと」「社会」を進化させるソリューションの提供

社会からの「要請」に応えるマテリアリティ
 ・地球環境との調和(E)
 ・多様な人材がいきいきと輝くための組織力の向上(S)
 ・責任あるサプライチェーンの推進(E、S)
 ・健全なガバナンスの実行(G)
 ・リスク・クライシスマネジメントの推進(S

各マテリアリティで求められる取り組みは多岐にわたるため、サステナビリティ推進委員会を中心に、「人材戦略委員会」や「リスク・クライシスマネジメント委員会」「品質向上委員会」などの社内関連部門と連携。優先順位をつけた上で、KPIや具体的なアクションプランを設定しています。

2022年の各マテリアリティに関する主な成果は、以下の通りです。

領域成果
Environment(環境)・本社・自社ビルを含む5拠点の使用電力の実質再生可能エネルギー100%を実現
・製品廃棄物の再資源化率99.9%以上を継続的に達成し続けるためのリスクの洗い出しや対策への着手
Social(社会)・人権デュー・デリジェンス(人権DD)として事業活動における人権に対する負の影響を洗い出し、優先的に取り組むテーマを特定
・全グループ社員向けに、人権に関するeラーニングを実施
Governance(ガバナンス)    
・スコープを定義
・リスク・クライシスマネジメント委員会や全社リスクマップとも連動するKPIを設定

このように、全社的にさまざまな取り組みを実施している同グループは、日本におけるESG経営の先進的企業といえるでしょう。

参考:キヤノンマーケティングジャパングループ『サステナビリティ』『サステナビリティ経営の考え方と体制』『キヤノンMJグループのマテリアリティ

雪ヶ谷化学工業株式会社

特殊発泡体や化粧品用具の製造・販売をしている雪ヶ谷化学工業株式会社は、取引先企業と共にサステナブルな未来をつくるため、「B to B to The Future」をスローガンに掲げて、ESGに取り組んでいます。

「CO2排出量」「再生可能原材料」「廃棄物」「女性管理職」「フェアトレード天然ゴム」の5つについて、2030年までの目標を設定。毎年、目標の達成状況をHP上で公開しています。同社が掲げる目標は以下の通りです。

・CO2排出量:原材料調達や自社のCO2排出量を実質ゼロに
・再生可能原材料:再生可能原材料比率を50%に
・廃棄物:全行程での廃棄物を50%に(2010-2019年平均比)
・女性管理職:女性管理職の比率を50%に
・フェアトレード天然ゴム:日本で流通する天然ゴムを100%フェアトレードに

目標達成に向け、「太陽光発電の活用」「植物由来原料の使用」「製造時の原料使用量を詳細管理できるシステムの導入」「ジョブローテーションやキャリアチャレンジ面談の実施」「フェアトレードの実施状況確認のための現地調査」などに取り組んでいます。

こうした取り組みが評価され、2022年にはESG経営の入門・実践書である『ESGが生み出す選ばれるビジネス(水野雅弘著)』に、ESG経営の実践例として掲載。また、SDGs推進に取り組んでいる企業としても評価されており、2023年には「第7回ジャパンSDGsアワード」のSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞しています。

参考:雪ヶ谷化学工業株式会社『SDGs』『YUKIGAYAサステナブルリポート2022』『YUKIGAYAサステナブルリポート2023

SDGsの推進にはESGの取り組みが重要

ESGとSDGsには、用語の意味合いや活動主体の面で違いがあります。SDGsという大きな「目標」を実現するための「手段」の一つがESGであると覚えておきましょう。世界中の国や企業、個人に求められているSDGsの推進に向け、企業としてESGに取り組んでいくことが重要です。

今回ご紹介した企業事例などを参考にしながら、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の各要素で、自社として何をすべきかを考えることから始めてみましょう。