GHGとは温室効果ガスのこと。日本の排出量や削減目標、企業に求められる努力

GHGとは温室効果ガスのこと。日本の排出量や削減目標、企業に求められる努力

GHGとは、温室効果ガスを指す言葉です。温室効果ガスには7種類の物質があり、主にCO2(二酸化炭素)が占めています。今、世界でGHG排出量削減が課題となっており、日本でも動きが活発化しています。

本記事では、GHGの概要をはじめ、日本や世界の削減目標を解説。企業に求められるサプライチェーン排出量にも触れながら、GHG排出量削減に向けた企業の目指す姿をご紹介します。

GHGとは「温室効果ガス」を意味する言葉

GHGとはGreenhouse Gasの略称で、温室効果ガスを意味します。温室効果ガスは大気中の熱を吸収する性質があり、温室効果ガスが増えると温室効果が強くなります。その結果、地表付近の気温が上がり、地球温暖化につながるのです。

温室効果ガスを主に占めるのは二酸化炭素(CO2)ですが、ほかにもさまざまなガスがあります。日本で定められているのは、「地球温暖化対策の推進に関する法律」における以下の7種類の物質です。

1.二酸化炭素(CO2)
2.メタン(CH4)
3.一酸化二窒素(N2O)
4.ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
5.パーフルオロカーボン類(PFCs)
6.六ふっ化硫黄(SF6)
7.三ふっ化窒素(NF3)

なお、温室効果の大きさは気体によって異なります。二酸化炭素と比較すると、メタンは28倍、一酸化二窒素は265倍の温室効果があるとされています。

参考:環境省『温室効果ガスインベントリの概要

温室効果ガスの排出量削減に向けた動き

温室効果ガスの排出量削減に向けた、代表的な動きをご紹介します。

パリ協定

パリ協定とは、2015年にフランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、温室効果ガス排出削減のための新たな国際的な枠組みのこと。気候変動に対する取り組みの新たな基盤とされています。

世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下とし、各締約国において1.5℃に抑える努力が求められています。そのため、2030年までに自国の温室効果ガス排出量を削減する目標を設定し、それに基づいて具体的な取り組みを推進しています。

SDGs

2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)も、温室効果ガスの排出量削減に大きく関わっています。SDGsには17の目標が設定されています。

そのうち目標13の「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動やその影響を軽減するための緊急対策を求めるものです。持続可能な未来に向け、世界各国や人々が地球への負荷を軽減するアクションをとっていく必要があります。

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。ポイントとなるのは、「全体としてゼロにする」という点です。

クリーンエネルギー
image by  Camila Fernández León on Unsplash

人々が生活する中で温室効果ガスの排出量をゼロにすることは不可能です。そのため、温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、実質ゼロを目指します。このように排出量と吸収量を均衡させることをゼロカーボンとも呼びます。

日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

日本におけるGHGの削減目標と排出量

次に、日本におけるGHGの削減目標と具体的な排出量を見てみましょう。

GHGの削減目標

日本政府は、カーボンニュートラル宣言後の2021年4月に、「2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目標とし、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」と表明しました。

同年10月には「地球温暖化対策計画」を発表し、CO2をはじめとする温室効果ガスの2023年排出量と削減率を以下のように打ち出しました。

地球温暖化対策計画

球温暖化対策計画
出典:環境省『地球温暖化対策計画 概要

CO2の量はイメージしにくいかもしれませんが、CO2の1トンは25メートルプール約1杯分の体積です。それを2030年までに、年間で6億杯分ほど削減(2013年比)しなくてはなりません。つまり、国全体で膨大な量の削減が求められているのです。

GHG排出量の推移

日本のGHG排出量の推移(合計値)は、以下のグラフの通りです。

GHG排出量の推移
出典:環境省『2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要』を基に作成

2021年度のGHG排出量は、1990年度に比べ16.9%削減できました。しかし、2020年度に比べると2.0%増加しています。

年々減少していた値が2021年度に増加に転じた理由として、国立環境研究所は「新型コロナウイルス感染症に起因する経済停滞からの回復により、エネルギー消費量が増加したこと等が主な要因と考えられる」と見解のを示しました。なお、このタイミングでの増加は、G7️各国でも同様であることが確認されています。

世界のGHG排出量は?

2021年における、世界各国のGHG排出量については、以下のグラフをご覧ください。

世界のエネルギー起源CO2排出量(2021年)
出典:環境省『世界のエネルギー起源CO2 排出量(2021年)』1ページより抜粋

このグラフを見ると日本は約10億トンのCO2を排出しており、これは世界における排出量の3%に相当します。国別の一人あたりのエネルギー起源CO2排出量としては、7.95トンで、世界平均(4.26トン)を大きく上回っています。

企業がGHG削減に取り組むべき理由

GHG削減については、個人はもちろん企業としても積極的に取り組む必要があります。それはなぜなのでしょうか。主な理由は以下になります。

企業が排出するGHGが多いため

下のグラフ※で示すように、部門別に見た2021年度のCO2排出量は、総量10億6,400万トンのうち家庭部門では14.7%に留まり、産業部門と運輸部門で50%以上を占めています。家庭での排出量削減だけでなく、企業活動においても積極的な削減が求められているのです。

※発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量を、電力および熱の消費量に応じて、消費者側の各部門に配分した排出量で算出

発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量
出典:環境省『2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要』5ページより抜粋

SBT達成が求められているため

SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定で生まれた、企業の温室効果ガス排出削減目標のことです。先述したパリ協定の目標のとおり、世界での気温上昇を2℃までとし、さらに1.5℃に抑えるために、企業にはSBTを達成することが求められています。

具体的には、年間4.2%以上の削減を目安として、申請時から5年~10年先の目標を設定します。

SBTに参加する企業は世界中で年々増加しています。2024年3月時点で世界全体のSBT認定企業は4,779社、コミット企業は2,926社で、増加率は前年同時期と比べてそれぞれ112%、14%となりました。

日本においては、2024年3月時点でSBT認定企業が904社、コミット企業が84社です。前年同時期から1年間で479社が認定を取得し、認定数は年々増えています。

参考:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム『SBT 概要資料(PDF)

企業価値・ブランドイメージが向上するため

GHG削減は、今や世界的に取り組むべき課題です。企業が積極的に取り組むことで、環境や世界情勢に配慮しているというアピールにもなります。

近年、投資家の間では環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を投資の判断材料にする「ESG投資」が注目されています。GHG削減に積極的に取り組むことは企業価値・ブランドイメージの向上につながり、ESG投資価値の増大が見込めます。GHG削減は、新しい取引先の開拓や採用活動にも好影響を与えるでしょう。

企業に求められる、サプライチェーンでのGHG排出量の把握

実際に企業がGHGの排出量を把握するためには、自社のみならずサプライチェーン排出量を知る必要があります。ここでは、その重要性や算定方法をご紹介します。

サプライチェーン排出量を把握する重要性

自社が直接関わるGHG排出量を把握し削減に向けた対策をとることは大切ですが、さらなる削減のためにはサプライチェーン全体で取り組むことが重要です。

サプライチェーンとは原料調から製造、物流、販売、廃棄に⾄る、企業の事業活動の影響範囲全体のこと。自社事業に伴う間接的な排出も対象とし、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量がサプライチェーン排出量です。

サプライチェーン排出量は以下のように算定されます。

サプライチェーン排出量 = Scope1排出量 + Scope2排出量 + Scope3排出量

サプライチェーン全体で排出量を算定することで得られるメリットは主に以下が挙げられます。

1.企業(事業内容)ごと異なる排出状況を全体的に総括することで重点的に取り組むカテゴリが明確になり、効率的に削減できる

2.他事業者による排出削減も⾃社の削減とみなされるため、他事業者との連携が促進され、⾃社だけでは難しかった削減が可能になる

3.世界的にサプライチェーン排出量の算出がスタンダードになってきているため、グローバルな脱炭素化により貢献できる

なお、排出量を算定・報告する際には、国際的な基準であるGHGプロトコルが用いられます。

排出量を算定するための3つの分類

GHGプロトコルを用いて排出量を算定するためには、サプライチェーン排出量を3つのScopeに分類します。さらに、全体の流れを上流から下流に見立てて考えます。

サプライチェーン排出量
出典:環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム『サプライチェーン排出量全般

それぞれのScopeの内容を詳しく見ていきましょう。

Scope1:自社が直接排出するGHG

Scope1に該当するのは、自社が直接排出するGHGです。製造過程での製品を加工する際に生まれる温室効果ガスや工業炉から排出される温室効果ガスなど、燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業などが自ら排出するGHGを指します。

Scope2 : 自社が間接的に排出するGHG

Scope2も自社に関わるGHGですが、間接的に排出されるものが対象です。オフィスや工場で使用している電気といった、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで排出されるGHGが該当します。自社としてはGHGを排出してはいなくとも、その電気などを作るために社外ではGHGが排出されています。そのGHGがScope2に当たるという考え方です。

Scope3:Scope1・Scope2以外で間接的に排出されるGHG

Scope3は、Scope1とScope2以外の間接排出におけるGHGが該当します。原材料の仕入れといった上流と、販売後にあたる下流における自社以外のサプライチェーンのGHGが対象です。

Scope3️は、以下のように15のカテゴリに分類されます。

Scope3_15カテゴリ

GHG削減を目指し、GHG排出量を把握しよう

地球温暖化が進む今、世界に危機が迫っています。持続可能な世界を実現するためにもGHG削減は社会全体で取り組むべき課題です。その課題解決に向けて、まずは現時点でGHGがどのくらい排出されているのかを把握することが大切です。自社だけに留まらずサプライチェーン全体での排出量を把握し、削減に努めて社会に貢献していきましょう。