GX(グリーントランスフォーメーション)とは?注目の背景や変革に向けた企業の取り組み等を紹介

GX(グリーントランスフォーメーション)とは?注目の背景や変革に向けた企業の取り組み等を紹介

2020年10月、政府はパリ協定の実現に向けて「2050年までのカーボンニュートラル」を宣言しました。これに向けて注目されているのが、GX(グリーントランスフォーメーション)です。GXとは、地球温暖化への対応をコストでなく「成長機会」と捉え、経済社会構造を変革していこうとする取り組みのこと。政府は、「GXリーグ構想」や「グリーン成長戦略」を策定し、産官学金が一体となってカーボンニュートラルに向けた取り組みを推進しようとしています。

今回は、GXの目的や注目が高まる背景のほか、政府が推進するグリーン成長戦略とGXリーグについて解説します。GXを進めるメリットや、企業の取り組み事例も解説していますので、自社の取り組みに向けた参考にしてください。

GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは

GX(Green Transformation=グリーントランスフォーメーション)は、「環境保護の取り組み」と、「経済成長」を両立させるための経済社会システム全体のパラダイムシフトのこと。2020年10月、菅内閣は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、「カーボンニュートラル」を宣言しました。カーボンニュートラルに一早く移行するために必要な挑戦の一つが、GXとされています。

これまでの産業活動において、地球温暖化(以下「温暖化」と表記)への対応は、経済成長の「制約」や「コスト」と考えられてきました。一方、GXの場合は、温暖化への対応を「成長機会」と捉えます。環境保護と経済成長を両立させるために、社会システム全体を変革させていくための戦略が、GXです。

GXの関心が高まる背景

GX(グリーントランスフォーメーション)が注目される背景には、世界規模での気候変動による自然災害の発生や、カーボンニュートラルへの世界的な意識の高まりなどがあります。

地球温暖化による脅威の高まり

豪雨に伴う洪水や干ばつ、大規模な山火事と深刻化する大気汚染など、地球温暖化に起因した自然災害は、年々深刻さを増しています。これらの災害は、人の生活や経済活動に多大な損失を与える可能性を秘めており、環境問題に対する人々の意識は日々高まっています。「経済発展と環境保護を両立させなければ今後成長を持続させることはできず、そのための投資は欠かせない」という考え方が広まりつつあると言えるでしょう。

地球温暖化
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世界規模での脱炭素(カーボンニュートラル)への対応強化

2015年にパリで開催された、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議」(通称、COP)では、以下の2点を長期目標とする、「パリ協定」が締結されました。

●世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること
●21世紀後半には、温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と、(森林などによる)吸収量の均衡を達成すること

これに向けて、世界各国がカーボンニュートラルを宣言。日本でも、2020年に菅政権が「2050年のカーボンニュートラル」を宣言しています。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、結果的にゼロにする取り組みを指します。カーボンニュートラルを達成するには、経済活動の構造自体を変革させていくことが必要です。そのため、自然環境の保護と経済成長を両立させる戦略であるGXに、注目が集まっています。

(参考:経済産業省資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?
(参考:環境庁『カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル』)

カーボンニュートラル達成に向けた「グリーン成長戦略」を策定

政府がカーボンニュートラルを宣言したことを受けて、2020年に経済産業省が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。GXと深く関係するグリーン成長戦略について、ひも解いていきましょう。

グリーン成長戦略とは

経産省は、グリーン成長戦略を「経済と環境の好循環を作っていくための産業政策」と位置づけています。同戦略は、「従来の発想を転換し、温暖化に対して積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長に繋がる」という考えのもとに策定。グリーン成長戦略は、カーボンニュートラルに向けた技術開発や設備投資などの企業の取り組みを、税制、金融、予算、規制改革・標準化といった側面から支援します。

風力発電
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成長が期待される14の産業分野への投資・支援を加速

グリーン成長戦略を具現化するためには、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要があるとして、成長が期待される14の産業分野をピックアップ。政府はこれらの分野に対して、高い目標と具体的な成長への道筋を示し、積極的な投資とさまざまな政策を展開することで、新たなビジネスモデルへの変革を支援していこうとしています。政府が成長分野として焦点を当てている14の産業は、以下の通りです。

エネルギー関連産業(1)洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)
(2)水素・燃料アンモニア産業
(3)次世代熱エネルギー産業
(4)原子力産業
輸送・製造関連産業(5)自動車・蓄電池産業
(6)半導体・情報通信産業
(7)船舶産業
(8)物流・人流・土木インフラ産業
(9)食料・農林水産業
(10)航空機産業
(11)カーボンリサイクル・マテリアル産業
家庭・オフィス関連産業(12)住宅・建築物産業、次世代電力マネジメント産業
(13)資源循環関連産業
(14)ライフスタイル関連産業

(参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略』)
(参考:経済産業省中小企業庁『マンガでわかるミラサポ plusシリーズ「グリーン成長戦略」編 』)

経産省が設立する「GXリーグ」とは

2050年のカーボンニュートラル実現と社会変革を見据え、経済産業省は2022年2月に「GXリーグ基本構想」を発表しました。GXリーグとは、GXに積極的に取り組む「企業群」が、官学金でGXに向けた挑戦を行う企業と協働する場で、2023年度からの本格稼働を目指しています。この中で、経済社会システム全体の変革のための議論と、新たな市場の創造のための実践が行なわれます。

GXリーグが目指すのは、「未来社会像の創造」「市場創造のためのルール形成」「自主的な排出量取引」の取り組み及び参画企業のリーダーシップを通じて、カーボンニュートラルに向けた社会構造変革の価値を提供することです。

GXリーグ参画企業には、世界全体のカーボンニュートラル実現に向けて高い排出量削減目標を掲げながら、カーボンニュートラルにいち早く移行するための挑戦を行うことが必要とされます。また、自らのサプライチェーンやステークホルダーと協働し、炭素中立型の市場設計を先導する役割が求められているのです。

GXリーグが提供する3つの取組(場)

共創
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先ほど述べたように、GXリーグでは以下にあげる3つの取り組みが行なわれます。

●未来社会像対話の場
●市場ルール形成の場
●自主的な排出量取引

それぞれで行われる取り組みの概要や手法等は、以下の通りです。

《その1:対話》未来社会像対話の場

機能2050年カーボンニュートラルの未来像及びそこに至る移行像を「対話」を通じて創造する
手法・業種を超えた自由な対話・ワークショップ形式での議論を通じ、(1)2050CNにおけるビジネス機会、(2)GX企業としてのリーダシップ(行動指針)の2つを作り上げる(2022年度)
・2022年度に策定した内容をベースに、社会との対話を通じて、見直しを継続する(2023年度)
社会へのアウトプット社会に対し(1)(2)を共有し、生活者も含む社会に対して、GXリーグとして目指す姿を示す

《その2:共創》市場ルール作成の場

機能官民によるルール形成(共創)の挑戦
手法・官民によるルール形成メカニズムの実証
・2~3のWGを設置し、具体的なルール形成のひな形作りを実施(2022年度)
・2022年度の試行を踏まえてWGの組成長期的な議論が必要なアジェンダも含めた取組の推進(2023年度)
社会へのアウトプット議論の成果は、「GXスタンダード(仮称)」として、国内外へのイニシアチブとしての発信、国際標準化、政府による国内制度化等を目指す

《その3:実践》自主的な排出量取引

機能2030年に向けた野心的な排出量削減目標を掲げる企業による実践
手法・自主的な排出量取引の実施のための基本的なルールの整備(2022年度)
・ルールに従い、参画企業による自主的な目標の掲示および、目標達成に向けた削減実績と投資を開示(2023年度)
社会へのアウトプット企業の取組開示を通じ、資本市場・労働市場・消費市場から、GX企業が評価される環境を構築する

3つの取組(場)の関係性

それぞれの取り組みのうち、「対話」および「共創」は、互いにニーズやアイデアを共有しながら行われる、新たな市場の創造に向けた連携の場と位置づけられてます。また、「自主的な排出量削減」は、新たな市場の創造に向けた議論に対する実践活動であり、GX企業が新たな市場を創造するにあたって必要な、外部からの評価を得るための投資とも捉えられています。

gxリーグにおける3つの場の関係性

(参考:経済産業省『GX リーグ基本構想』、『GXリーグ準備期間(2022年度)の 活動について』)

GXリーグ参画のメリット

GXリーグに参画することで、社会的な評価が得られます。カーボンニュートラルに向けた取り組みを実践している、先進的かつ持続可能性の高い企業であることを示すことができるのです。これにより、ESG投資の対象として投資家からの信頼・資金を得たり、企業のブランド力強化に繫がったりする効果が期待できるでしょう。

また、GXリーグでの取り組みで新たな価値や市場を創出することが、日本および日本企業の国際的な競争力を高めます。経産省はGXリーグ基本構想の中で、「GXとイノベーションを両立し、いち早く移行の挑戦・実践を行なったものが、生活者に選ばれ、適切にもうける構造を作る」としています。GXリーグに参画し一定の項目を実践した企業に対しては、政府からの補助金支給や優遇措置も検討されています。

GXに向けた企業の取り組み方

GX実現に向けて、企業はどのような取り組みを行うことができるのでしょうか。具体的な取り組み例をご紹介します。

再生可能エネルギーへのシフト

産業活動では、多くの電力を使用します。GXへの取り組みとして、これらの消費電力を、再生可能エネルギー由来のものにシフトするという方法があります。太陽光パネルを設置して自力で賄うなどという方法も考えられますが、全ての事業者が実施するのは現実的ではありません。このような場合は、電力供給会社が提供している「再生可能エネルギー」を利用するプランへの切り替え、という方法も考えられます。自社が加入している電力プランを見直してみてはいかがでしょうか。

RE100への加入

RE100は、企業が自らの事業の使用電力を“100%再生可能エネルギーで賄うこと”を目指す、国際的イニシアティブです。「Renewable Electricity 100%」の頭文字から「RE100」と命名され、世界および日本の企業や省庁が参加。2022年5月現在で、70社が加入しています。

RE100への加盟には、自社で利用する電力消費を100%再生可能エネルギー由来の電力にするための期限付きの目標を設定・公表することや、年間の消費電力量など、いくつかの要件を満たす必要があります。

RE100への加盟は、企業として環境問題に取り組んでいることを公的に示す指標にもなります。その結果、投資家からの信頼性の向上や自社のブランド力の強化につながると考えられます。

(参考:JCLP『RE100・EP100・EV100 』)

カーボン・オフセットの手段としてのカーボンクレジットの購入

カーボン・オフセットとは、排出する温室効果ガスについて、自力での削減が困難な排出量を、ほかの場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等で埋め合わせ(オフセット)する取り組みです。一般市民のほか事業者や自治体等が対象となっています。

カーボン・オフセット概念図

カーボンオフセットの取り組みの一つに、カーボンクレジットの購入があります。カーボンクレジットとは、「適切な森林保護」「省エネ技術」「再生可能エネルギー導入」といった事業による温室効果ガスの排出削減効果を、クレジットとして取引できるようにしたもの。カーボンクレジットを購入することで、自力で削減しきれない温室効果ガスをオフセットすることにつながります

カーボンクレジット事業は民間事業者間での売買も活性化しているほか、国が運営する事業として、「J-クレジット」があります。カーボンクレジットは企業活動におけるカーボンオフセットのために自社で購入する以外にも、自社のサービスに付帯させて、購入者がオフセットに参加できるようにするといった取り組みも可能です。どのような取り組みができるか、調べてみてはいかがでしょうか。

(参考:農林水産省『カーボン・オフセット』)
(参考:J-クレジット制度ホームページ『 J-クレジット制度』)

GXに向けた企業の取り組み事例

GXの実現に向けて、各企業が実践している取り組みの事例をご紹介します。

《取り組み1》ホンダ

本田技研工業株式会社(ホンダ)は、2021年4月に行なわれた代表取締役社長・三部敏宏氏の社長就任会見において、2050年に向けた新目標を発表。環境への取り組みとして、2050年までにホンダの関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指すとしました。

この中では四輪車の電動化の推進について、「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年にはグローバルで100%を目指す」としています。また、二輪車においては、「電動化」とともに「ガソリンエンジンの燃費改善」や「バイオ燃料の活用」などにも取り組み、“二輪車の環境トップランナー”として、業界をリードする考えを示しています。

(参考:『Honda | 社長就任会見 代表取締役社長 三部 敏宏スピーチ概要』)

《取り組み2》NTT

日本電信電話株式会社(NTT)は、2021年9月に2040年に向けた新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を発表しました。この中では、2040年までのカーボンニュートラルを目指すとして、「再生可能エネルギー利用拡大による、温室効果ガス45%削減」「IOWN(NTTが提唱する、ネットワーク・情報通信基盤の構想)導入による、電力消費量の削減・温室効果ガスを45%削減」などの取り組みの実施を掲げています。

これを実現するため、「通信分野からさまざまな産業分野へのIOWNの普及・拡大」を実施するといいます。これにより、「日本および世界の温室効果ガスの削減」や、「さらなるXの加速」「サプライチェーン全体での温室効果ガス削減の推進」などを行いたいとしています。また、カーボンニュートラルに貢献する、新たなサービスの提供、NTTグループの再生可能エネルギーの開発強化・導入拡大による、エネルギーの地産地消の推進も目指すということです。

(参考:『新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」 』『新たな環境エネルギービジョンについて』)

《取り組み3》東京海上日動

東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)は、2021年2月1日に「グリーン・トランスフォーメーション タスクフォース(GXTF)」を設置。これは、顧客のカーボンニュートラルの実現と、脱炭素社会への移行に向けた取り組みを支援し、産業の成長・発展に貢献することを目指す取り組みです。

そのために、「太陽光発電向けM&A保険」「太陽光PPA事業者向けパッケージ保険」「洋上風力発電向けパッケージ保険」といった保険商品の開発・提供を通じて、顧客のGX実現をサポートする考えです。

また、2022年4月1日にはGXリーグ基本構想への賛同を示し、GXの取り組みをより一層推進していくことを発表しています。

(参考:『ABOUT お客様のGXを支援する東京海上日動の取り組み』、『経済産業省「GX リーグ基本構想」への賛同』)

GXは環境保全と経済発展の両立を実現させる改革

葉と雫
Photo by Aaron Burden on Unsplash

GXの推進は、カーボンニュートラルに向けた「環境保全」と、「経済発展」を両立させるために重要な取り組みです。世界の気候変動リスクは年々高まっており、実際に温暖化に起因する自然災害は、各地で頻発しています。これらの自然災害は、人の生活や企業活動に甚大な被害を及ぼす可能性を持つため、企業として温暖化対策に取り組むことは、自社の持続的発展に関わると言っても過言ではありません。今回の記事も参考にしながら、GXリーグへの参画だけでなく、企業としてGXへの取り組みを推進してみてはいかがでしょうか。