グリーンインフラとは?基礎知識から日本・海外での事例までをご紹介

グリーンインフラとは?基礎知識から日本・海外での事例までをご紹介

グリーンインフラとは、自然が持つ機能をまちづくりに活かし、社会や地域の課題解決につなげる取り組みのこと。防災や環境保全など、さまざまな観点から注目されているグリーンインフラですが、「そもそもグリーンインフラとは何か」という疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。今回は、グリーンインフラの概要や効果といった基礎知識から導入における課題、海外と日本の取り組み事例をご紹介します。

グリーンインフラとは

グリーンインフラとは、グリーン・インフラストラクチャー(Green Infrastructure)の略語です。緑や植物を意味する「Green」と道路や水道といった社会の基盤を指す「Infrastructure」を組み合わせた言葉となっています。

グリーンインフラは、「自然環境が持っている機能を、社会課題の解決に活用しよう」という考え方で、環境だけでなく、地域振興や防災・減災など多様な効果をもたらすと考えられています。なお、グリーンインフラに対して、コンクリートで作られたインフラは「グレーインフラ(grey infrastructure)」と呼ばれています。

グリーンインフラが注目されている背景

グリーンインフラが注目されている背景には、「地球温暖化による気候変動」や「人口減少や高齢化に応じた持続可能な地域社会」といった課題があり、また「持続可能な開発目標(SDGs)」への関心が高まっていることも要素として挙げられます。

2019年に国土交通省が「グリーンインフラ推進戦略」を公表したこともまた、グリーンインフラが注目されるようになったきっかけの一つです。2023年には「グリーンインフラ推進戦略」を全面改訂した「グリーンインフラ推進戦略2023」を策定。カーボンニュートラルやネイチャーポジティブといった世界的な潮流を踏まえ、グリーンインフラの推進を通じて「自然と共生する社会」の実現に向けた取り組みが始まっています。

グリーンインフラを構成する要素と効果

グリーンインフラを構成する要素として「防災・減災」「環境保全」「地域振興」の3つのポイントがあります。ここでは、それぞれの要素と効果についてご紹介します。

①防災・減災

防災・減災は、グリーンインフラにおいて大切な要素の一つです。近年、日本でも地震や台風、豪雨災害といった自然災害が頻発していますが、グリーンインフラには、自然災害から地域を守る役割が期待されています。

例えば、遊水池や田んぼの貯水機能を活かした「田んぼダム」などは、集中豪雨に対して洪水被害を防ぐ機能があるとされています。2011年に発生した東日本大震災においては、海岸の松林が津波の勢いをやわらげ、また2009年に発生したサモア沖地震での津波においてもマングローブ林が津波や高波の勢いを抑えたと言われています。

②環境保全

環境保全もグリーンインフラにおける重要な視点です。グリーンインフラを整備することで、生き物の生育空間の提供、生物多様性の保全や水循環の維持につながります。

例えば、コウノトリの野生復帰を目指す兵庫県豊岡市では、河川を軸に地域全体で生態系ネットワークの形成に取り組みました。この取り組みにより、豊岡市ではコウノトリの野生復帰が実現しただけでなく、治水対策や田んぼの自然再生、エコツーリズムや次世代への継承につながる環境学習など、多様な波及効果があったそうです。

③地域振興

地域振興もまたグリーンインフラを構成する要素となっています。グリーンインフラの概念をもって公園などを整備することで、地域の人々の憩いの場やレクリエーションの場になり、暮らしや経済活動にもプラスの効果をもたらします。

例えば、1995年に発生した阪神・淡路大震災で山腹崩壊などの被害が出た兵庫県の六甲山エリアでは、六甲山系グリーンベルト整備事業としてグリーンインフラを整備。現在では、豊かな森林を取り戻し、防災・減災につながっているだけでなく、観光やレクリエーションの場としても盛んに利用されるようになるなど、地域振興にも役立っています。

グリーンインフラの課題

グリーンインフラを導入するにあたり、懸念される課題もあります。ここでは3つの課題についてご紹介します。

①資金

まず課題となるのは資金です。グリーンインフラを導入するにあたり、現状の自然環境をはじめとする地域全体を見て、どのように整備するか検討する必要があります。そのため、初期コストがかかってしまうことが懸念されています。

資金面での課題解消に向け、国土交通省・農林水産省・環境省は、2023年にグリーンインフラ導入を検討している地方公共団体や民間事業者への後押しを目的とした「グリーンインフラ支援制度集」を公表しています。資金面における課題は、このような制度を活用することで解決への道筋を立てられるのではないでしょうか。

参考:国土交通省・農林水産省・環境省『グリーンインフラ支援制度集

②メンテナンス

メンテナンスもまた課題の一つに挙げられます。例えば、芝生や木の手入れなど、植物の成長に合わせた定期的なメンテナンスが必要です。メンテナンスについてしっかりと管理や運用方法を整備することで、グリーンインフラは持続可能かつ老朽化の心配が少ないインフラになるといえます。

③合意形成

グリーンインフラは、先述したように「防災・減災」「環境保全」「地域振興」の3つの構成要素があります。分野が多岐にわたるため、それぞれの領域に関する専門分野の知見を取り入れることが必要です。各領域だけでなく地域住民をはじめ、行政、企業、研究機関など多様な人たちの参画も求められます。さまざまな人が関わるプロジェクトとなるため、丁寧な合意形成が課題の一つになるでしょう。

グリーンインフラの取り組み事例

海外と日本におけるグリーンインフラの取り組み事例について、ご紹介します。

【海外】シンガポール

シンガポールが取り組む「ABC水のデザイン・ガイドライン(ABC-WDG)」は、グリーンインフラの先進事例として注目されています。中でも「ビシャンパーク」は、全長3kmの排水路を自然の河川にならって都市型河川公園として再整備し、治水や排水の機能だけでなく街に暮らす人々と自然が触れ合える公園となりました。またビシャンパークは、洪水などの非常時において、公園全体が氾濫原としての機能を発揮し、都市を水害から守る役目を果たしています。

参考:シンガポール『ビシャンパーク

【海外】アメリカ・ポートランド市

アメリカのポートランド市では、激しい雨が降ると内水氾濫が起きてしまうという課題を抱えていました。そこでグリーンインフラとして、「グリーンストリート」という施策を導入。グリーンストリートは、道路と歩道の間に80cmほど掘り下げた植栽帯を設け、雨水が一時的に貯まるよう設計されており、雨水が地中を浸透していくことで水質が浄化されるようになっています。

ポートランド市におけるグリーンインフラの導入は、本来の目的である雨水の貯留管理だけでなく、大気の質の向上や市民の精神および身体的健康にも影響を与えたとされています。緑が増えたことにより、市民のウォーキングの推進やストレスの緩和などにつながったそうです。

参考:ポートランド市『グリーンストリート

【海外】オランダ・アムステルダム市

image by Adrien Olichon on Unsplash

運河のある風景が魅力的な街、オランダのアムステルダム市。元々海抜の低い地域であることに加え、近年では気候変動や人口増加の影響を受け、洪水など水災害のリスクが高まっています。そこでアムステルダム市では、グリーンインフラとして「賢いブルー・グリーン屋上緑化(SMART BLUE-GREEN ROOFS)」を水害が起きやすい4つの地区に導入しました。このプロジェクトでは、植栽の下に雨水を貯める構造を設けることで、雨水が短時間に排水路に流れ込んで、オーバーフローを起こすことを防いでいます。

参考:アムステルダム市『賢いブルー・グリーン屋上緑化(SMART BLUE-GREEN ROOFS)

【日本】東京都千代田区

東京都千代田区では、民間企業を中心にグリーンインフラの取り組みが行われています。三井物産と三井不動産は、大手町に新たな緑地空間「Otemachi One Garden」をオープン。近隣のオフィスワーカーがくつろげる場所を創出しただけでなく、近くにある皇居の森との連続性を意識し、昆虫や鳥が飛来できる環境を整備しました。また、災害時には帰宅困難者の一時滞留スペースとして活用を検討しているそうです。

参考:千代田区『Otemachi One Garden

【日本】神奈川県横浜市

グリーンインフラという概念が生まれる以前から、緑や水の機能に着目した取り組みを進めてきた神奈川県横浜市。市内にある公園では、グリーンインフラの機能を高める取り組みとして、広場や園路を貯留浸透砕石層に置き換えたり、透水性舗装への改良を行ったりしています。これにより、保水および浸透機能の向上を目指しています。また、農地を活用したグリーンインフラの取り組みとして、農地における傾斜の改善なども実施しています。

参考:横浜市『気候変動に適応したグリーンインフラの活用

【日本】山口県山口市

ゲンジボタルが多数生息する山口県山口市を流れる一の坂川。戦後の水質汚染によりゲンジボタルが減少し、1971(昭和46)年に発生した台風19号でも甚大な被害を受けました。河川改修の際に、防災や生物保全、また景観にも配慮した護岸工事を実施。住宅街への浸水防止に配慮し、河川と住宅の間に深い溝を掘るなどの設計を行いました。地域の小中学校と連携しホタルの放流を行い、その後地域活動として定着。現在では観光スポットの一つとして地域活性化につながっています。

参考:国土交通省『取組等の事例

グリーンインフラを理解して取り組みを応援しよう

世界的な広がりを見せるグリーンインフラという考え方は、「防災・減災」「環境保全」「地域振興」といった要素から、気候変動に加え、日本においては人口減少や少子高齢化といった課題解決へのアプローチの一つとして期待されています。グリーンインフラの普及は、自然との共生を通じて暮らしを豊かにするものです。グリーンインフラを理解して取り組みを応援していきましょう。