生態系とは?言葉の意味から基礎知識までをわかりやすく解説
人間をはじめとする生物が生きていくうえで基盤となっているのが、生態系という考え方です。しかし、近年では開発や乱獲といった人間活動に加え、気候変動によって起きている生物多様性の危機的状況、それに伴う生態系への影響が懸念されています。今回は生態系とは何か、言葉の意味から基礎知識についてわかりやすく解説していきます。
Contents
生態系とは
生態系とは、人や動物、昆虫や植物、そして微生物といった生物と、水や大気、土といった環境の相互関係を総合的に一つのまとまりとして示す概念です。生態系は小さな池から広大な森林、海や湿地に至るまでさまざまな大きさがあり、地球全体を一つの生態系としてみなす考えもあります。ここでは、具体例として森林、海洋、湿地における生態系の様子をご紹介します。
森林生態系
世界の陸地の約30%を占めている森林。樹木をはじめとする植物や昆虫、爬虫類や哺乳類、ミミズや菌類など、多種多様な生物が森林における豊かな生態系を形作っています。また森林には、光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭素を循環する機能があります。さらには、植物や土壌が水分を保持することで水資源を保全するなど、森林生態系は地球上において大きな役割を果たしています。
海洋生態系
地球の表面積の約70%を占めるといわれている海洋では、植物プランクトンからクジラのような大型の哺乳類までが生息し、豊かな生態系を構築しています。海洋の平均水深は約3,800mあり、最も深い場所であるマリアナ海溝では約1万1,000mに達するといわれています。そのため、太陽の光が届く深さと光が全く届かない深さでは、それぞれ異なる生態系が育まれ、海洋生態系として成り立っています。
湿地生態系
生物の宝庫といわれる湿地は、水と陸との接点にあり、淡水もしくは海水によって覆われる低地です。湿地生態系は、干潟をはじめ河川や水田、湿原や湖沼などさまざまな環境にあり、鳥類や魚類、淡水藻類、マングローブなど多種多様な生物が生息しています。しかし、一度壊れてしまうと、元に戻りにくい脆弱な生態系でもあります。そのため、1971年の国際会議において「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(通称・ラムサール条約)が採択されるなど、国際的にも保全活動の取り組みが進められています。
参考:環境省『ラムサール条約と条約湿地』
生態系の中の役割
生態系を構成する植物や動物、微生物などは、その機能から「生産者」「消費者」「分解者」というそれぞれの役割を担っていると考えられています。ここでは、生態系における生物の役割について解説します。
植物などの「生産者」
植物や海藻、植物プランクトンなどは、生態系の役割において「生産者」と呼ばれています。植物は根から水を、葉から大気中の二酸化炭素を吸収し、光合成によって酸素や有機物を作り出します。有機物は微生物や動物にとって大切な栄養素となっています。生産者は、独立栄養生物と呼ばれることもあります。
動物などの「消費者」
人間をはじめとする動物は、生態系の中で「消費者」と呼ばれています。動物は、植物が作り出した有機物を消費し、植物や他の動物を食べて生活しています。生産者と消費者は、食べる・食べられるという関係性を保つことで食物連鎖を形成しており、その関係性から消費者は従属栄養生物とも呼ばれています。食物連鎖を構成する生物および環境の多様性は、生物多様性に密接に関係しているため、そのつながりを保つことが大切です。
微生物などの「分解者」
生態系の中には、動物の死骸や糞、落ち葉などの有機物を食べて生きているミミズやダンゴムシ、小動物や微生物などが暮らしています。有機物は小動物や微生物によって食べられることで無機物へと分解されていきます。無機物は、再び植物の栄養となって、成長を助けます。このように、有機物を無機物に分解していく生物は「分解者」と呼ばれています。菌類や細菌類も分解者です。
生態系と生物多様性
生態系は、生物多様性を構成する3つの多様性のうちの一つです。ここでは、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」についてそれぞれ解説します。
生態系の多様性
生態系は、生物が生息する自然環境および、その環境で生きる生物同士の関わりを総合的に捉えたまとまりのことです。前述の通り、森林をはじめ、海洋や湿地、里地里山やサンゴ礁などさまざまな環境において生態系が築かれています。多様な生態系は、種の多様性にもつながります。
種の多様性
種とは、生物における分類単位の一つです。地球上には既知の生物が約175万種いるとされ、その内訳は昆虫が約95万種、維管束植物が約27万種、鳥類が約9,000種、哺乳類が約6,000種といわれています。なお、未知のものを含めると地球上には300万種~1億1100万種が生存しているという推計もあります。
参考:国立研究開発法人 国立環境研究所『生物の多様性』
遺伝子(種内)の多様性
遺伝子の多様性とは、個体間における遺伝的な多様性を指します。同じ種の中でも多様性があることから、種内の多様性と称されることもあります。生物は、同じ種であっても生息環境により、形や色、行動といった特徴が少しずつ異なります。遺伝子の多様性が失われることで生物は環境の変化に対応しにくくなり、絶滅のリスクが高まります。このため、遺伝子の多様性を保つことは、種が存続するためにも必要だといえます。
生態系サービスとは
すでに解説したように、生態系の中では生物が生産者や消費者、分解者などの役割を担っています。植物などの生産者は光合成によって酸素や有機物を生み、動物などの消費者は有機物をはじめ、植物や他の動物を消費する。微生物などの分解者は、動物の遺体や枯れ葉などを無機物に分解していきます。このように生態系の中で起きている働きを生態系機能と呼び、その中でも人間がその恩恵を受けているものを生態系サービスといいます。
ここでは生態系サービスを構成する4つの要素について解説します。
基盤サービス
基盤サービスは、植物による酸素の供給をはじめ、水の循環、気温や湿度の調節、さらには土壌の形成といった、生命の生存基盤を支えています。後述する供給サービス、調整サービス、文化的サービスは、基盤サービスの基に成り立っています。
供給サービス
供給サービスは、人間が最も恩恵を受けているサービスです。具体的には肉や魚、果物といった食料をはじめ、木材や鉱物などの原材料が挙げられます。また、生物や自然界の仕組みを学び、模倣して技術開発に活かすバイオミミクリー(生物模倣)なども供給サービスとされています。
調整サービス
調整サービスは、気候の調整をはじめ、局所的な災害の緩和、土壌侵食の防止などを指します。具体的な機能として、サンゴ礁やマングローブによる津波の軽減、森林による空気の浄化と安全な飲水の確保、ヒートアイランドの緩和などが挙げられます。調整サービスによって、生活の安全や安心が成り立っているといえるでしょう。
文化的サービス
生態系や生物多様性によって生まれた地域の豊かな文化や習慣、風光明媚な自然環境は、文化的サービスとして捉えられています。例えば、日本各地には自然と共生していく中で育まれた知恵や伝統、食文化などがあります。また保全された自然景観は、観光やレジャーにもつながります。このように文化的な面においても、生態系は大きな役割を果たしています。
参考:茨城県『生物多様性から受ける恵み』
生態系を含む生物多様性に迫る危機
このように生態系の中ではさまざまな生物が役割を担い、人間は生態系サービスという恩恵を受けています。しかし、現在、生態系を含む生物多様性は危機に瀕しています。その原因として、人間活動による開発や乱獲、気候変動など地球環境の変化が挙げられます。生態系サービスは、生態系が健全に成り立つことで機能します。人間を含む生物が持続的に生きていくためにも、生態系を含む生物多様性への保全活動が必須といえるでしょう。
私たちも生態系の一部と捉え、環境問題について考えよう
豊かな地球環境の基盤である生態系。地球上で生きる生物と環境による相互作用が生態系サービスとして人々の生活にさまざまな恩恵をもたらす一方で、生態系を含む生物多様性は人間活動によってその多様さが失われつつあります。豊かな生態系を保全するためには、私たちもまた生態系の一部として環境問題を自分ごととして考えることが大切です。