グリーンベルトとは?分野別の意味や目的、海外と日本の導入事例を解説

グリーンベルトとは?分野別の意味や目的、海外と日本の導入事例を解説

グリーンベルトとは、「緑で形成した帯」のこと。さまざまな意味を持っている言葉で、設置する目的はジャンルによって異なります。この記事では、都市計画・環境保全・災害対策・交通安全の各分野におけるグリーンベルトの意味や、海外と日本における事例、グリーンベルトとSDGsの関係性などを解説します。

グリーンベルトとは?意味や目的の異なる4つのグリーンベルト

グリーンベルトとは、帯状の緑地を指します。グリーンベルトの意味や目的は、国や使われる分野によって異なります。ここでは、国内における4つのグリーンベルトについて、それぞれ解説します。

都市計画

都市計画におけるグリーンベルトとは、都市の無計画な拡大を防ぐために、公園や森林などあえて開発をしないエリアを残すものです。日本では、1924年にアムステルダムで開催された「国際都市計画会議」においてグリーンベルトが提唱されたことを受けて、大都市の無秩序な膨張を防ぐ「緑地」として、都市計画行政に取り入れられました。

後述する東京都の事例では、1939年に「東京緑地計画」が策定され、計画に基づいて整備が進められたことで、広大な緑地が生まれました。

参考:国土交通省 平成12年建設白書『グリーンベルト構想の歴史』 

環境保全

グリーンベルトには、土砂が海へ流出するのを防ぐ、環境保全の役割もあります。樹木や草木を帯状に植えることで、水流を弱め、赤土が海へ流出することを防ぎます。

沖縄県では、サンゴ礁の保全のために、畑のまわりに植物を植えてグリーンベルト(植生帯)をつくることを推進し、赤土の流出を抑制しています。沖縄県は他県と比較して雨が強く、河川が短いため、農地から流れ出た赤土がそのまま海まで流されやすい環境です。赤土が海に入ると海水が濁り、日光が遮られるためサンゴは光合成ができなくなってしまいます。また、赤土そのものが、沿岸の生態系に影響を及ぼします。海の観光資源や海洋資源の保全にも、陸上のグリーンベルトは重要な役割を担っているといえるでしょう。

参考:農畜産業振興機構『沖縄県の農地における赤土等流出防止対策について

災害対策

災害対策としてグリーンベルトを設置している地域もあります。その目的は、大きく分けて市街地の防災と、土砂災害に対する防災の2つです。

<延焼防止帯・避難地>
災害を踏まえた都市計画として、グリーンベルトを設置します。具体的には、街での火災発生時に、グリーンベルトが延焼防止帯となるものです。例えば、函館市(北海道)に設置された全長7kmのグリーンベルトは、1934年3月に発生した大規模火災の復興事業として、延焼防止のために形成されました。

また、地震や津波などの災害発生時に、避難場所や避難時の通路、ボランティアの活動拠点など、防災目的でグリーンベルトを整備している地域もあります。

<土砂災害>
市街地の土砂災害に対する安全性を高める目的で、グリーンベルトを設置することがあります。土砂災害予防のためのグリーンベルトについては、記事後半の「日本で進むグリーンベルトの導入」で解説します。

交通事故防止策

交通事故防止策としてのグリーンベルトは、緑色に塗装している路側帯を指します。歩道と車道の区別がない通学路でよく用いられる安全対策で、通行車両に「通学路である」ことを視覚的に示すものです。グリーンベルトは歩行者専用ではありませんが、歩行者の範囲を明確にすることで、車両を減速させるとともに、歩行者自身も道路の中央にはみ出さなくなる効果も期待できます。

海外におけるグリーンベルトの事例

国によって、グリーンベルトが導入された経緯や目的などが異なります。ここでは、イギリス・ドイツ・アメリカの事例を紹介します。

イギリス

イギリスのグリーンベルトは、1930年代の都市計画から始まりました。ロンドンにおける人口過密化とそれに伴う治安の悪化から、都市部の秩序なき拡大を阻止するために、議会はロンドンの外周に緑地を設置することを決定。1944年に「大ロンドン計画」が公表されたことを受けて、ロンドンを中心として同心円状に、近郊・グリーンベルト・外部農村が明確に区分されました。その後の法整備などによって、ロンドン以外でもグリーンベルトが導入されています。

<2023年3月31日時点におけるグリーンベルトの範囲>

出典:GOV.UK『Local authority green belt: England 2022-23

ドイツ

image by Fabian Schneidereit on Unsplash

ドイツのグリーンベルトは、かつて東西を分断していた旧国境が、全長約1,400kmの長い緑地帯に生まれ変わったものです。山岳地帯から低地までドイツ国内のすべての地形をカバーしており、自然保護団体「BUND」が中心となってグリーンベルトの保護に取り組んでいます。現在では、1,200種以上の絶滅の危機にある動植物が生息しています。

アメリカ

アメリカ西部のカリフォルニア州には、森林火災(山火事)から街を守る目的で、グリーンベルトが計画されています。近年カリフォルニア州では森林火災が増加傾向にあり、2022年には、約2,000人の住民が避難するほどの大規模な火災も発生しました。火災の原因はさまざまですが、カリフォルニア州は降水量が少ないことから山全体が乾燥していることが多く、季節によっては風が強いこともあり、森林火災が拡大しやすい地域と言えます。そのため、住宅地と野山の間にグリーンベルトをつくり緩衝地帯にするなど、グリーンベルトの活用が検討されています。

日本で進むグリーンベルトの導入

日本でもグリーンベルトの導入が進んでいます。ここでは国内の事例を3つ紹介します。

東京緑地計画

出典:国土交通省 平成12年建設白書『 グリーンベルト構想の歴史

「東京緑地計画」とは、1939年に策定された都市計画です。東京中心部(現在の23区)の過大な成長を抑制することが目的で、欧米の地方計画や緑地計画の影響を受けたものです。この計画の中に、広範囲の緑地帯を設置して東京市(現在の23区)を囲む構想があり、グリーンベルトや衛星都市の設置に大きく影響を与えました。戦後の農地改革によって緑地の規模は縮小しましたが、現在の小金井公園、砧公園、舎人公園、水元公園、深大寺植物園など、大きな公園や河川沿いの公園の多くは、東京緑地計画の名残です。

参考:東京都都市整備局『東京の都市づくりのあゆみ

六甲山系グリーンベルト整備事業

出典:国土交通省『六甲山系グリーンベルト整備事業の目的と森の世話人の活動状況とその成果について

六甲山系グリーンベルト整備事業は、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)により開始されました。地震の影響により六甲山系で山腹崩壊(山崩れ)が発生し、その後の雨によって、さらに崩れた箇所が増加したためです。国土交通省と兵庫県が主体となり、六甲山系の南山麓をグリーンベルトとして緑を保全・育成。山腹における工事などの整備とともに、地域住民も参画して森づくりを推進し、子どもたちが自然や地域のことを学ぶ場としても活用しています。

参考:国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所『六甲山系グリーンベルト整備事業

都市山麓グリーンベルト整備事業

出典:国土交通省『防災のための街づくり

市街地に隣接している山麓斜面に樹林帯を設置して、山麓斜面の崩壊を予防するのが「都市山麓グリーンベルト整備事業」です。市街地の土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境を整備します。砂防堰堤などの工事によって土砂流出を防ぐ砂防事業と異なり、グリーンベルトは樹林・緑地を保全するため、土砂災害による被害を軽減しながら周辺の乱開発を防ぎ、自然環境・景観を保全することが可能です。

参考:国土交通省『防災のための街づくり

グリーンベルトと「SDGs」の関係性

グリーンベルトは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できる、重要な取り組みです。SDGsは、貧困や飢餓、環境問題など、世界が抱える17の課題解決に向けた国際目標(ゴール)で構成されており、グリーンベルトは特に、以下の目標に貢献できると考えられます。

<目標11:住み続けられるまちづくりを>
グリーンベルトは、都市のヒートアイランド現象を緩和し、洪水や土砂災害などのリスクを軽減することで、住みやすい都市環境の形成に貢献できます。

<目標13:気候変動に具体的な対策を>
緑地化を推進することで二酸化炭素の吸収量を増やし、気候変動対策にも貢献できます。

<目標15:陸の豊かさも守ろう>
グリーンベルトの設置により、森林の環境保全や土壌の流出を予防することで、生物多様性の保全に貢献できるでしょう。

グリーンベルトには私たちの生活や地球を守る役割がある

グリーンベルトは、環境保全や災害対策など、私たちの生活や地球環境を守るために導入されているものです。暮らしと密接に関わっており、グリーンベルトの設置はSDGsの目標達成にも貢献すると考えられます。昔から都市計画に活用されているグリーンベルトは、現代においても重要な役割を担っているといえるでしょう。