グリーンリカバリーとは?必要な理由や海外事例、日本の政策を解説

グリーンリカバリーとは?必要な理由や海外事例、日本の政策を解説

グリーンリカバリーとは、環境への配慮を重点とした経済復興政策を指します。コロナ禍をきっかけにこれまでと同じ社会経済に戻すのではなく、脱炭素に向けた循環型社会を目指し、世界各国で取り組みが広がりました。この記事では、グリーンリカバリーの概要や見込まれる効果、海外の事例、日本の政策・動向などを解説します。

グリーンリカバリーとは

グリーンリカバリー(green recovery、GR)とは、環境に配慮しながら経済の回復を目指す政策のこと。「緑の復興(あるいは緑の回復)」を意味する言葉で、経済活動の中に自然や地球全体の環境を軸として捉える点で、単なる経済政策と一線を画します。

具体的には、従来の大量生産・大量消費型の経済活動ではなく、脱炭素社会や循環型経済への移行を促進することで、環境負荷を抑えながら経済成長を目指します。

グリーンリカバリーが求められている理由

2019年12月に中国で第一例目が報告された「新型コロナウイルス感染症」は、世界的なパンデミックを引き起こし、各国で景気が後退しました。その反面、ロックダウンや行動制限などによって、CO2排出量や大気汚染物質の減少が確認されています。

出典:NASA地球観測所『Airborne Nitrogen Dioxide Plummets Over China

ただ、大気汚染の改善は、車の移動や工場の稼働などが減少したことによる一時的なもので、アフターコロナの経済復興において、再びCO2排出量が増加する懸念があります。

そこで欧米を主体に、気候変動対策と経済復興を融合した政策として広がったのが、グリーンリカバリーです。具体的には、地球温暖化や生物多様性の維持などの環境課題について、解決するための施策に資金を投じ、雇用拡大や業績回復を図ります。

各国で、コロナ禍以前の状況に戻るのではなく、地球温暖化などの環境対策を進めながら経済復興を図る政策が進められています。

ポイントとなる2つの取り組み

WWFは、次の2つをグリーンリカバリーのポイントとしています。

1.地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」の達成に貢献すること
2.国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも一致した施策を実施すること

いずれも、地球環境へ配慮しながら経済政策を実施し、持続可能な社会の実現を目指すものです。

特に、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」については、地球温暖化を防ぎ持続可能な社会経済を実現するために、世界規模の取り組みが必要といえるでしょう。

参考: WWFジャパン『「グリーン・リカバリー」が鍵 コロナ禍からの復興

関連用語「グリーン経済」「グリーン成長」の意味

「グリーンリカバリー」と似ている言葉に、「グリーン経済」と「グリーン成長」があります。それぞれ何が違うのか見ていきましょう。

<グリーン経済>
グリーン経済(green economy)とは、UNEP(国連環境計画)が2011年に公表した概念です。「環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら、人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済のあり方」を指します。
<グリーン成長>
グリーン成長は、OECD(経済協力開発機構)が2011年に公表した報告書において打ち出された考え方で、「自然資産が今後も我々の健全で幸福な生活のよりどころとなる資源と環境サービスを提供し続けるようにしつつ、経済成長および開発を促進していくこと」です。

経済産業省は「グリーン成長」と「グリーン経済」について、「いずれも、資源制約や環境問題を社会経済における重大なリスクであるととらえた上で、環境・経済・社会のいずれの側面においても持続可能性を追求しようとしている点で、描いている将来像は同じであると考えられる」と語っています。

参考:環境省_平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書『第2節 持続可能な環境・経済・社会の実現に向けた世界の潮流

グリーンリカバリーにより見込まれる効果とは

国際エネルギー機関(IEA)は、2020年6月に発表した報告書『Sustainable Recovery』において、グリーンリカバリーで3年間に3兆ドルを投じた場合は、世界のGDPを年平均で1.1%増加させ、世界全体で900万人の新たな雇用を創出すると予測しています。

再生可能エネルギーへの投資促進や省エネルギー対策の実施、温室効果ガス排出量削減など、グリーンリカバリーの積極的な推進は、環境問題だけでなく世界的な経済復興の流れとして捉えることができるでしょう。

海外におけるグリーンリカバリーの事例

image by Levan Badzgaradze on Unsplash

世界各国は、パリ協定の順守を前提として、グリーンリカバリーを自国の成長戦略として推進しています。ここでは欧州・アメリカ・韓国のグリーンリカバリーについて紹介します。

欧州連合(EU)

もともと欧州連合(EU:European Union)は、雇用を創出しながら脱炭素を図る「欧州グリーン・ディール」を推進していました。ポスト・コロナにおけるグリーンリカバリーも、地球温暖化対策を重視した経済復興として、世界をリードしています。

具体的な取り組みとしては、環境規制が緩い国・地域からの輸入品に対する「炭素国境調整措置(国境炭素税)」の導入、電気自動車や水素自動車などへの移行促進、再生可能エネルギーへの転換などがあります。

2020年には、新型コロナウイルス感染症による経済危機からの回復支援基金「Next Generation EU」を創設しました。「次世代EU」と訳されるこの計画は、7,500億ユーロ規模の復興基金と、2021年〜2027年のEU長期予算について、合計1.8兆ユーロを超える、過去最大の予算規模となっています。

アメリカ

アメリカのグリーンリカバリーは、バイデン政権によるものです。ジョー・バイデン氏は、2020年の大統領選挙当時から「2035年までに電力の脱炭素化を目指す」としていました。4年間の任期で200兆円を超す規模をグリーンリカバリーに投資することを選挙の公約に掲げ、新型コロナウイルス対策、経済再建、人種的公平性、気候変動の4点を、優先政策課題として発表しました。

アメリカは前政権において、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から離脱していましたが、2021年2月に協定へ復帰。また、コロナ禍への緊急対策として「American Rescue Plan Act of 2021(米国救済計画)」を法制化し、総額2.3兆ドルのインフラ投資を行う「American Jobs Plan(米国雇用計画)」も導入しました。気候変動に対応する政策を推進して雇用を創出するために、巨額の投資を行っています。

韓国

韓国は2020年7月に、新型コロナウイルスによる経済危機克服の政策として、「韓国版ニューディール」をスタートしました。ニューディール政策は、1930年代にアメリカで実施された経済復興策で、韓国版は「デジタル・ニューディール」「グリーン・ニューディール」「ヒューマン・ニューディール」の3つで構成されています。

カーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの推進・強化、メタバース(3次元仮想空間)などの新産業の育成、若者の生活安定支援や格差解消のような人材育成・雇用安定化など、2025年までに総額220兆ウォン(約20兆円)規模の予算を組んでいます。

日本の政策・動向

日本におけるグリーンリカバリーの動向について、見ていきましょう。

コロナ禍を乗り越えて脱炭素化を進める中小企業などを支援していた補助金「グリーンリカバリー事業」が終了し、現在は後継事業として「SHIFT事業」がスタートしています。これは、工場・事業場における脱炭素化を支援することで、日本の経済復興と脱炭素化を同時に推進するものです。

参考:一般財団法人省エネルギーセンター『SHIFT事業

また、現在、政府が経済復興と気候変動対策を同時に行う取り組みとして推進しているのが、「グリーントランスフォーメーション(GX:Green transformation)」です。

GXとは、化石燃料を中心とする現在の産業構造を、太陽光発電や風力発電などのクリーンなエネルギー活用へ転換し、社会経済の変革を図る取り組みのこと。脱炭素と似ていますが、GXは産業構造の変革や経済復興を含めている点で、単なるCO2削減とは異なります。

経済産業省は、GXを牽引する枠組みとして「GXリーグ」を設立。日本のCO2排出量の4割以上を占める企業が賛同を表明しており、産学官が連携協力して、カーボンニュートラル実現と新しい市場創出を図っています。

参考:GXリーグ『公式WEBサイト

グリーンリカバリーについて学び、取り組みを推進しよう

グリーンリカバリーは、経済復興と気候変動対策を同時に行う取り組みです。日本も含め世界各国はコロナ禍からの経済復興について、コロナ前に戻るのではなく、地球温暖化対策と経済復興の両立を目指して動いています。個人が省エネ・節電・節水を心がける、家の給湯器をヒートポンプにする、食材は地産地消にするなど、環境に配慮した選択をすることでも、グリーンリカバリーを後押しできます。グリーンリカバリーに関わる取り組みを行い、経済復興と気候変動対策を同時に進めましょう。