森林破壊の現状と保全の必要性。森林を守る取り組みと、個人にできること

森林破壊の現状と保全の必要性。森林を守る取り組みと、個人にできること

森林破壊が急速に進んでいる現在、森林を守る取り組みとしてどのような活動が行われているのか気になる方もいるでしょう。日本では、現状を打破するため「森林資源の循環利用」を目指し、さまざまな取り組みを実施しています。

今回は、森林破壊の現状・森林保全がもたらす効果を交えながら、日本政府や企業の森林を守る取り組み事例、個人にできることなどをご紹介します。

森林破壊が進む現状とその影響

まずは、森林破壊の現状と、森林破壊がもたらす影響について解説します。

世界を取り巻く森林問題の現状

世界の森林破壊は、留まることなく深刻な状態が続いています。林野庁の資料によると、世界の森林面積は2020年時点で約41億ヘクタールありますが、2010年から2020年の間に年平均470万ヘクタールが減少しています。

特に、森林伐採による減少傾向が顕著なのが、「南米」や「アフリカ」といった熱帯地域です。2010年から2020年では、アフリカで毎年390万ヘクタール・南米で年間260万ヘクタールの森林が減少しました。

世界の森林減少は、以下の要因で引き起こされると考えられています。

・農園や牧場、都市開発といった土地利用の転換
・人口増加に伴う燃料用木材の過剰な採取
・生活維持の資金を稼ぐ違法伐採
・気候変動で起こる自然発火や人的要因による森林火災 
・自然の回復力に配慮しない非伝統的な焼き畑農業の増加  など

こうした課題や問題を解決しない限り、森林破壊は進む一方といえるでしょう。

参考:林野庁『森林・林業分野の国際的取組』、環境省『世界の森林を守るために』

森林破壊の影響

大規模な森林破壊は、環境に深刻な影響を及ぼすだけでなく、あらゆるリスクを増大させると考えられています。

森林はCO2の吸収源としての役割を担っていますが、森林破壊によって吸収の働きが損なわれると、地球温暖化の原因である温室効果ガスが増加します。地球温暖化がこのまま進行すれば気温の上昇は避けられず、海水面の上昇や異常気象の増加といったリスクも懸念されます。

さらに、動植物の生態系への影響もリスクの一つです。森林破壊は、野生動物の住処を奪い、大量絶滅の要因となっています。動植物の減少や絶滅は生態系のバランスを崩し、自然の恩恵を受けて成り立つ人々の生活や環境にも悪影響を及ぼすと考えられているのです。

森林保全によってもたらされる効果とは

森林破壊による悪影響を食い止めるには、森林保全に向けた取り組みが重要です。ここでは、森林を適切に管理することで、どのような効果がもたらされるのか解説します。

地球温暖化の緩和

森林保全に向けた取り組みは、地球温暖化緩和への効果があるとされています。地球全体の平均気温が上昇する地球温暖化は、大気中のCO2など温室効果ガス増加によって引き起こされます。

樹木は、光合成によってCO2を吸収し、酸素を作り出すだけでなく、落ち葉などを通して、土壌内にも大量に炭素を貯留する力があります。そのため、質の高い森林を守り増やすことで、森林によるCO2吸収の維持・増加を促進し、地球温暖化の抑制が期待できるのです。

生物多様性の保全

森林には、陸上のおよそ8割の動植物が生息しているといわれています。そのため、森林を守ることは、樹木をはじめとする植物や昆虫、動物、菌類、遺伝子など、生物多様性の保全に貢献します。

さらに、人間の暮らしを営むうえで必要となる、水や食料の供給、水質浄化、薬、燃料などあらゆる生態系サービスは生物多様性の上に成り立っています。そのため、生物の多様性がもたらす恩恵や価値を適切に評価し、政策の決定などに反映する取り組みが各国で進められています。

洪水や土砂崩れの防止

現在、世界各国で気候変動による異常気象が問題となっていますが、森林は、洪水や土砂崩れの防止にも役立つとされています。

森林の土壌は、豪雨時に雨を一時的に貯留し、河川に流れ込む水の量を標準化する働きによって洪水を緩和します。さらに、長い年月をかけて育った木の根は、土壌層の奥深くまで到達。無数に伸びた細い根は網のように広がり、土砂が流れ出すのを食い止める効果もあります。

日本における森林課題

日本は、世界でも有数の森林大国のため、森林破壊は他国の問題と思いがちかもしれません。しかし、国産木材の需要量は3割に留まり、全体の7割が海外木材に頼っている現状にあります。

なぜ国内産の材木が使われないかというと、木材輸入が自由化し安価な輸入木材の需要が高まり、国産木材の使用量が激減・国内林業の衰退したことが原因です。その結果、戦後に国策として大量に植樹した「人工林」は本格的な利用時期を迎えていますが、現在適切に手入れされず森林が荒廃する事態となっているのです。

山の荒廃は、森林がもつ多面的な機能を失って土砂災害が起こりやすくなり、水源としての機能も低下するとして問題視されています。

日本の森林に対する現状を打破するためには、植える、育てる、使う、植えるという「森林資源の循環利用」を行い適切に森林を整備することが求められているのです。

【日本政府】森林を守る取り組み

森林破壊の現状と保全の必要性。日本での森林を守る取り組みと、個人にできること
image by Syahrin Seth on photoAC

森林課題の解決に向けた取り組みとして、日本政府が主導して行っている「違法伐採の抑制」「途上国への森林技術貢献」についてご紹介します。

違法伐採木材への取り組み

森林保全に向けては持続可能な森林運営が不可欠ですが、健全な運営を阻害する要因として「違法伐採」が問題となっています。違法伐採とは、それぞれの国が定めている森林計画に反した伐採のことです。

違法伐採の増加は、森林破壊を促進するだけでなく、正当なコストで売買されていない木材が市場に流通することで、輸入国の持続可能な森林経営の阻害にもつながるとして懸念されています。

そこで、日本政府は違法伐採への取り組みとして以下の法律を施行しています。

グリーン購入法の導入

グリーン購入法とは、国や行政機関が率先し、環境に配慮した商品を選び購入することを定めた法律です。2001年から施行され、具体的な内容は以下の通りです。

対象機関各府省庁、独立行政法人、国立大学法人(地方公共団体などは努力義務)
対象品目21分野274品目の商品やサービス
・紙類
・文具類
・OA機器
・家電製品
・自動車等
・制服や作業服
・設備
・災害備蓄用品
・公共工事
・公務    など
内容・環境物品などに関わる判断基準を閣議決定する
・基本方針をもとに調達方針を作成し、方針に応じて環境物品などを調達する
・対象機関が調達実績を公表する

なお、グリーン購入法は、公的機関が実施対象の機関となっていますが、地方公共団体などの公的機関や民間事業者、国民に対してもグリーン購入に努めることを求めています。そして、結果的にグリーン購入の取り組みが国内全体に広がることを期待しています。

参考:環境省『グリーン購入法』

クリーンウッド法の施行

クリーンウッド法とは、国内外の違法伐採の撲滅を目的に、木材を取り扱う全ての事業者に対して合法伐採木材の利用を促進することを定めた法律です。

2017年から施行されており、伐採してもよい木材のサイズや場所、量などを細かく指定し、国内外の持続可能な利用をコントロールしています。

参考:環境省『国際的な森林保全対策』

途上国への森林技術貢献

日本が培ってきた森林資源の活用に関する知見・技術を、発展途上国に貢献する取り組みも実施しています。

例えば、災害被害の防止においては、日本の伝統である「治山技術」を応用し、中国の森林荒廃を回復。インドネシアでは衛星画像と森林図から火災箇所を瞬時に検出し、国境を超える煙害を減少させる取り組みも行いました。

ほかにも、人々の生活向上に対する住民参加の植林サポート、生態系回復に向けた熱帯雨林の生態研究・砂漠化への対処なども同様に実施しています。

参考:環境省地球環境局環境保全対策課『世界の森林を守るために-違法に伐採された木材を使用していませんか?-』

【日本企業】森林保全活動の事例

次に、日本企業における森林保全に向けた活動事例をご紹介します。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社では、森が地域・社会の重要な基盤であると考え、森林が抱える課題や背景に向き合い、さまざまな活動に取り組んでいます。

「TOYOTAの森づくり」と名付けられたプロジェクトでは、三重宮川山林を自社で引き継ぎ健全な森づくりを促進。ほかにも、自然と共生する工場を目指し、植樹や水辺の創出など、多様な生物が生息する拠点づくりを進めています。

参考:トヨタ自動車株式会社『森には、いのちの物語がある』

イオン株式会社

イオン株式会社では、2013年11月に植樹本数が累計1,000万本を超えたことをきっかけに、「植える」「育てる」「活かす」という森循環プログラムを開始しました。

植樹においては、自然災害などで荒廃した森の再生を目的に、国内外で実施。ほかにも、店舗周辺の街並み美化作業、国産FSC認証材を使用した店舗の建築、FSC認証材を使用した商品開発に積極的に取り組んでいます。

参考:イオン株式会社『イオン森の循環プログラム』

齋藤木材工業株式会社

長野県にある齋藤木材工業株式会社では、集成材の使用が難しい丸太部分の7割の端材を薪やテーブルとして販売し、付加価値を創出しました。

この取り組みによって「木を伐り、使い、植え、育て、また使う」という持続的な森林サイクルに貢献。放置林の減少や健全な森林環境の整備を進め、循環型社会の構築を目指しています。

参考:齋藤木材工業株式会社『地元の木材をもっと身近に、持続可能な地域づくりへの貢献』

森林保全に向けて私たちにできること

森林保全は、国や企業だけの問題ではありません。私たち消費者一人ひとりの行動からも森林を守ることはできます。では、どのような取り組みができるのか具体例を見ていきましょう。

マイバッグ・マイボトルを使用する

森林を守るために個人ができる身近な取り組みに、マイバッグやマイボトルの使用があります。近年、プラスチックのごみ問題によってレジ袋が有料化しました。しかし、その代用品として紙袋を使うのでは、紙の原料である木材の大量消費をもたらし、結果的に違法な森林伐採が進む可能性があります。

そこで、活用したいのが繰り返し使える「マイバック」です。ほかにも、紙コップやストローの使用を控えるために「マイボトル」を持ち歩けば、資源の無駄使いを減少させることができるでしょう。

森林認証マークのある製品を購入する

違法伐採された木材製品を購入しないために、森林認証マークのある製品の購入を意識するのもおすすめです。森林認証マークは「合法性」や「持続可能性」を見分ける一つの方法であり、代表例として「FSC認証」「PEFC認証」「SGEC認証」があります。

木材や木材製品を購入するときは森林認証マークに注目し、率先して購入することで、間接的に世界の森林破壊防止に貢献できるでしょう。

参考:環境省『環境ラベル等データベース』

環境に配慮した取り組みを行う企業やお店を選ぶ

認証製品が見当たらない場合には、企業の環境配慮に関する方針や姿勢を把握し、商品購入の選択基準にするという方法もあります。

例えば、資源の調達方針として「違法伐採木材を使用しない」「森林認証制度を優先的に利用する」などを掲げているか注目して購入することで、企業の意識を変えることにつながります。

環境保全に対する意識の高い企業が、売上向上など正当に評価されるようになれば、企業側の持続可能な製造・販売・物流を後押しすることになります。その結果、社会全体で森林保全を促進できるでしょう。

森林を守る取り組みを知って、日頃の生活から協力しよう

現在、世界の森林破壊は深刻化しており、森林保全は早急に取り組むべき課題となっています。森林は適切に管理・利用していくことで、地球温暖化の緩和だけでなく、洪水や土砂崩れの防止など、私たちの生活にさまざまな恩恵をもたらしてくれます。

国や企業での森林保全の取り組みに着目することはもちろんですが、私たち個人でも、日頃の生活から森林を守る行動を意識してみませんか。