グリーン成長戦略はどのような政策?重点14分野と実行計画を詳しくご紹介
グリーン成長戦略は、カーボンニュートラルの実現を目的とした産業政策です。地球温暖化への対応を「経済成長の制約」や「コスト」ではなく「成長の機会」と捉え、産業構造を見直し、経済と環境の好循環を図るものです。この記事では、グリーン成長戦略の概要やカーボンニュートラルとの関係、対象となる産業分野と主要な政策などをわかりやすく解説します。
Contents
グリーン成長戦略とは?概要とカーボンニュートラルとの関係性
まずは、グリーン成長戦略の内容と、カーボンニュートラルとの関連性について見ていきましょう。
グリーン成長戦略は「経済と環境の好循環」をつくるための産業政策
グリーン成長戦略(正式名称「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」)は、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指して政府が推進する産業政策です。経済成長と環境対策を両立させ、好循環をつくることを目的としています。
2020年12月に政府の成長戦略会議にて議事として報告され、2021年6月には、さらに具体的な内容が発表されました。地球温暖化対策を、経済成長の制約やコストではなく経済発展の機会として捉え、官民一体で社会経済・産業構造のイノベーションを図り、自国の経済成長へつなげることを目指しています。
参考:経済産業省 METI Journal ONLINE『「経済」×「環境」の好循環』
策定の背景|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
政府がグリーン成長戦略を策定した背景にあるのが、カーボンニュートラルです。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを保ち「実質ゼロ」とすることを意味します。
日本は、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、2020年10月の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言。グリーン成長戦略は、この宣言を受け、国としてやるべきことを具体的に考え作成されたものです。政府は、カーボンニュートラル実現のために関係省庁の垣根を越えてエネルギー政策や目標などを示し、企業の成長と環境対策を同時に進める環境を整えました。
世界でも、カーボンニュートラル推進に向け、再生可能エネルギーへの投資や外交など、各国がさまざまな施策を展開しています。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』
「14の産業分野」を重点に実行計画を策定
経済産業省は、産業政策とエネルギー政策の両サイドから、成長が期待される14の産業分野について、各産業ごとにロードマップを示しています。
<成長が期待される14分野>
それぞれの分野ごとに高い目標や具体的なスケジュールを掲げ、予算や規制改革などあらゆる政策を盛り込み、持続的な成長とイノベーション実現を図っています。
エネルギー関連産業(4分野)
ここからはそれぞれの分野について、主な計画を見ていきましょう。
エネルギー関連産業では、再生可能エネルギーの利用を促進し、カーボンニュートラルの重要課題ともいえる脱炭素化を図っています。
産業分野 | 主な計画内容 |
洋上風力・太陽光・地熱(次世代再生可能エネルギー) | ●規制の総点検によって事業環境を改善する(洋上風力) ●2030年を目途に、普及段階に移行できるよう、次世代型太陽電池の研究開発を重点化する(太陽光) ●自然公園法や温泉法の運用の見直しにより、開発を加速する(地熱) |
水素・燃料アンモニア | ●導入拡大を通じて、化石燃料に十分な競争力を有する水準となることを目指す(水素) ●安価な燃料アンモニアの供給に向けて、コスト低減のための技術開発やファイナンス支援を強化する(燃料アンモニア) ●国際標準化や混焼技術の開発を通じて、東南アジアマーケットへの輸出を促進する(燃料アンモニア) |
次世代熱エネルギー | ●2050年に都市ガスをカーボンニュートラル化する ●合成メタンの安価な供給(LNG:液化天然ガス同等)を実現する |
原子力 | ●国際連携を活用して高速炉開発を着実に推進する ●2030年までに国際連携により小型モジュール炉技術を実証する |
輸送・製造関連産業(7分野)
輸送・製造関連産業では、移動・製造に関わるエネルギー源の省エネ・脱炭素化を進めています。
産業分野 | 主な計画内容 |
自動車・蓄電池 | ●自動車の電動化目標(乗用車は、2035年までに、新車販売で電動車100%)を設定する ●電動化推進に向けて、施策パッケージ(例:燃費規制の活用、公用車・社用車の電動化促進)を展開する |
半導体・情報通信 | ●次世代パワー半導体やグリーンデータセンター等の研究開発支援などを通して、半導体・情報通信産業の2040年のカーボンニュートラル実現を目指す ●データセンターの国内立地・最適配置(地方新規拠点整備・アジア拠点化)を推進する |
船舶 | ●ゼロエミッション船(運航に当たって温室効果ガスを排出しない船舶)の実用化に向け、技術開発を推進する ●LNG燃料船の高効率化のため、技術開発を推進する |
物流・人流・土木インフラ | ●ドローン物流の本格的な実用化・商用化を推進する ●動力源を抜本的に見直した革新的建設機械(電動、水素、バイオ等)の認定制度を創設し、導入・普及を促進する ●空港の脱炭素化、航空交通システムの高度化を推進する |
食料・農林水産業 | ●カーボンニュートラルの実現等に向けた革新的な技術・生産体系の目標を掲げ、その開発・社会実装を推進する ●ネガティブエミッション(大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで、正味としてマイナスのCO2排出量を達成する技術)に向けた森林および木材、海洋等の活用に関する目標を具体化する |
航空機 | ●航空機の電動化技術の確立に向け、コア技術の研究開発を推進する ●航空機・エンジン材料の軽量化、耐熱性向上などに資する新材料の導入を推進する |
カーボンリサイクル・マテリアル | ●低価格かつ高性能なCO2吸収型コンクリート、 CO2回収型のセメント製造技術を開発する(カーボンリサイクル) ●2050年に人工光合成によるプラスチック原料について、既製品と同価格を目指す(カーボンリサイクル) ●製造工程で高温を必要とする産業における熱源の脱炭素化を進める(マテリアル) |
家庭・オフィス関連産業(3分野)
家庭・オフィス関連産業では、建物の省エネ、資源の循環、ライフスタイルの変革などを推進しています。
産業分野 | 主な計画内容 |
住宅・建築物・次世代電力マネジメント | ●住宅についても省エネ基準適合率の向上を目指し、さらなる規制的措置の導入を検討する(住宅・建築物) ●再エネの大量導入に伴う電力系統の混雑を解消するため、デジタル技術や市場を活用した次世代グリッドを構築する(次世代電力マネジメント) |
資源循環関連 | ●リデュースやリサイクルなどの技術の高度化、設備の整備、低コスト化を推進する |
ライフスタイル関連 | ●観測・モデリング技術を高め、地球環境ビッグデータの利活用を推進する ●地域の脱炭素化を推進し、その実践モデルを他の地域や国に展開する |
グリーン成長戦略は、実行結果としての「2050年における国民生活のメリット」も想定しながら策定されています。
これらの実行計画のメリットの例として、電気料金の軽減や急な価格高騰の抑止、既存インフラの活用による追加負担の回避、移動の安全性・利便性の向上などが挙げられます。
グリーン成長戦略の主要政策
カーボンニュートラル実現には、技術開発や社会実装、海外市場の獲得など、民間企業の取り組みが不可欠です。その一方で強制力はなく、ビジネスへの影響が不明瞭であることや、対応にかかるコストがかかること、設備・人材の不足などの課題もあります。
そのため政府は、イノベーションに挑戦する企業を支援するために、関連省庁を横断する政策ツールを用意しています。企業に関わる主要な政策として、次のものがあります。
予算
経済産業省は、2050年カーボンニュートラル実現に向け、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」を造成しました。
官民一体で野心的な目標を共有し、経営課題として取り組む企業に対し、研究開発から実証・社会実装に至るまで、一貫して支援します。
【支援対象】 グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点分野。かつ政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間の継続支援が必要な領域に重点化して支援 ●従来の研究開発プロジェクトの平均規模(200億円)以上を目安 ●国による支援が短期間で十分なプロジェクトは対象外 ●社会実装までを担える、企業等の収益事業を行う者を主な実施主体(中小・ベンチャー企業の参画を促進、大学・研究機関の参画も想定) ●国が委託するに足る革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが必要 (出典:経済産業省『グリーンイノベーション基金』)
思い切った事業再構築に意欲的な中小企業の支援として、事業再構築補助金があります。事業再構築補助金の「グリーン成長枠」は公募が終了していますが、ポストコロナに対応した事業再構築を行う企業を支援するために、「成長分野進出枠(GX進出類型)」が新たに設けられました。対象は、グリーン成長戦略の14分野における課題の解決に、これから取り組む事業者です。
また、自治体や研究機関などが、グリーン成長戦略に対する補助金制度を設けている場合があります。自社がある地域の都道府県庁や業界団体のサイトなどで、補助金制度があるか探してみるとよいでしょう。
税制
一定の条件を満たした設備投資に対しては税制面で支援し、カーボンニュートラルに向けた投資を促進します。例えば、次のような設備投資が挙げられます。
- 省電力性能に優れたパワー半導体
- 電気自動車などのリチウムイオン蓄電池
- 燃料電池
- 洋上風力発電設備の主要な専用部品
- 最新鋭の熱ボイラー設備 など
このほかに、繰越欠損金や研究開発税制の控除上限を引き上げるケースもあります。
金融
カーボンニュートラルは段階を経て実施していく長期プロジェクトとなるため、多額の資金が必要です。そのため政府は、資金提供に関するガイドラインやロードマップを整備しています。
例えば、グリーンプロジェクトに限定した債券である「グリーンボンド」や、脱炭素の移行段階に必要な技術に対して資金を供給する「トランジション・ファイナンス」など、グリーン成長戦略への投資・融資を呼び込むさまざまな施策を講じて、企業を支援しています。資金補助を要する企業は、活用を検討してみましょう。
規制改革・標準化
従来の規制では対応しきれない新たな技術やビジネスモデルに対しては、規制改革や標準化を実施して、企業活動を阻害しない環境を構築しています。
具体的には、電気自動車(EV)の普及促進に向けた充電インフラに関わる規制の改革、再生可能エネルギーや水素の利用促進に関わる保安規制の見直しなどを実施。また、新しい技術の国内標準化・国際的な標準化なども進めて、国内外の市場拡大を図っています。
企業などの排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する「カーボンプライシング」も、グリーン成長戦略に寄与します。政府は「クレジット取引」「排出量取引・炭素税」「炭素国境調整措置(水際対策として、国境で輸入品に対して国内と国外の炭素価格の差額分の支払いを課す措置)」などを導入し、企業の競争力強化やイノベーションと、地球温暖化対策との両立を図っています。
国際連携
カーボンニュートラルと経済成長の両立には、国際社会と協力して取り組むことも重要です。欧米と、技術の標準化や貿易に関するルールづくりなどの連携が求められています。
また、アジアの新興国など海外マーケットを獲得し、スケールメリットを活用したコスト削減にも注目が集まっています。国際社会との連携強化が一層望まれるでしょう。
カーボンニュートラルの実現に向け、グリーン成長戦略を推進しよう
グリーン成長戦略の推進は、単なる環境対策ではなく、産業構造や社会経済の変革によって経済成長を目指す手段でもあります。特に重要産業とされる14分野では、現状や課題、地域のニーズなどを把握して、環境対策とビジネス成長を並行して進める価値があるでしょう。グリーン成長戦略を理解・推進しながら自社を成長させ、社会全体でのカーボンニュートラル実現を目指しましょう。