天然林・人工林の違いとは?役割や課題、手入れ方法までわかりやすく解説
森林は「天然林」と「人工林」の2つに大別できます。それぞれの森の成り立ちや役割は異なり、抱えている課題にも違いがあります。この記事では、天然林と人工林について、それぞれの定義・違い・課題などをわかりやすく解説します。森林保全に取り組んでいる企業事例も紹介しますので、私たちが地球環境のためにできる取り組みの参考にしてみてください。
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「天然林」と「人工林」の定義
森は大きく分けて「天然林」と「人工林」の2種類あります。どちらでも林業は行われますが、言葉の解釈はさまざまで、時と場合によって違うことがあります。この記事では、次のように定義します。
天然林とは
天然林は、自然の仕組みで成り立っている森林です。厳密には人の手が入らない森林のことを指しますが、伐採など林業が入るケースもあります。さまざまな種類の木が混在し、長い年月の間に植生が遷移(発達)していくのが特徴です。
天然林と似ている言葉に「自然林」「原生林」があります。
・「自然林」は、人の影響が少なく、自然度の高い森林を指す。自然林には原生林を含む ・「原生林」は、過去に人の手が入っておらず、火山の噴火・洪水や氾濫・雪崩・強風などによる倒木など(自然かく乱)の痕跡も見られない森林を指す
人の手が全く入らず、強風による倒木などの「自然かく乱」もない原生林は、日本にはほとんど残っていません。実際には過去に人の手が入っていた森林でも、その痕跡が見えなくなり、植生の遷移がなく安定している森林を原生林と呼んでいることがあります。
中でも白神山地や屋久島は「原生的な天然林」が残る地域として保護され、世界自然遺産に登録されています。
人工林とは
人工林は、人の手で更新していく森林です。木材の生産や防砂・防風などの目的で植栽や伐採などを行い、木の成長に合わせて人が手入れを行うのが一般的です。「育成林」と呼ぶこともあります。
日本は国土の約7割が森林という森林大国で、森林面積はこの50年ほどの間ほぼ横ばいで推移しています。天然林と人工林の割合では、人工林よりも天然林がやや多くなっています。
林野庁が2022年に調査した「都道府県別森林率・人工林率」によると、都道府県ごとの森林率が最も大きいのは高知県(森林率84%)ですが、人工林率が大きいのは佐賀県(人工林率67%)です。
森林面積が最大の北海道は、人工林率は低く東京都の人工林率を下回ることから、森林の多くが天然林であることも読み取れます。森林面積の大小にかかわらず、天然林と人工林の割合は地域によって開きがあるといえるでしょう。
参考:関東森林管理局『森のQ&A』、林野庁『都道府県別森林率・人工林率(令和4年3月31日現在)』
天然林と人工林の違いとは?
天然林と人工林は、どちらも多面的機能がありますが、具体的にどのような違いがあるのか。主な違いとして、次の3つが挙げられます。
天然林 | 人工林 | |
1.森林の造り方 | 自然に更新 | 人が植栽などを行い更新 |
2.木の種類 | 多様、種類が遷移していく | 単一樹種、針葉樹が多い |
3.用途・役割 | 公益的機能 | 木材生産 |
<違い1>森林の造り方
天然林は、切り株から芽が出る、風に乗って種子が飛んでくるなど、自然の力で更新します。人が苗木を植えることはほとんどありません。構成する樹種は多様で、長い時間をかけて遷移し、最終的には遷移のない安定した森林(極相林)となります。
一方の人工林は、畑で苗木をつくり、人の手で植え付けを行って造林します。森林内で作業しやすくするために、植栽の前に枝や雑草などを片付ける「地ごしらえ」も、人工林を造るための作業です。植生の遷移を人がコントロールして同じ植生を維持する点で、天然林と異なります。
<違い2>木の種類
天然林は、自然に任せているため木の種類はさまざまですが、ほとんどが広葉樹です。地域差はありますが、炭・薪の原料を収穫するための薪炭林(しんたんりん)だった名残で、ブナ・コナラ・カエデなどが多く見られます。
人工林の多くは針葉樹です。畑で農作物を栽培するのと同様で、同じ樹種を一斉に植えるため、単一樹種で樹齢もほとんど同じです。木材生産を目的とする場合は、スギ・ヒノキ・カラマツなど成長が早く真っすぐに伸びる樹種が選ばれており、海沿いの地域につくられる人工林(防砂林・防潮林)では、クロマツのような飛砂・塩害に強い木が植えられています。
<違い3>用途・役割
自然に水が染み込むように蓄え河川流量を調整する「水源かん養」、土砂崩れなどを防ぐ「災害防止」、生物や植物の生息・生育地域となる「生態系保全」といった、森林の公益的機能を発揮しているのが天然林です。一方、人工林は、木材生産を主な目的として木を育成することがほとんどです。
人工林にも水源かん養や防砂・防風などの機能はありますが、森林の公益的機能と木材生産はトレードオフの関係にあり、両立は難しいとされています。例えば、生物多様性を維持するには木材生産を減少させるなどの負担が伴うため、経済的損失を補填する制度が必要です。
天然林と人工林のどちらも、農林水産大臣または都道府県知事によって「保安林」に指定されることがあります。保安林は、水源かん養・災害防止・景観維持など、公益機能の発揮が特に必要とされる重要な森林です。森林の機能が損なわれないように、伐採や土地の形質の変更(掘削や盛土など)が規制されるほか、伐採後の植栽が義務付けられています。
天然林と人工林の課題
天然林と人工林では、森林の成り立ちや役割が異なるため、抱えている課題も違います。
天然林の課題
天然林は公益的機能の役割が大きく、木材生産が目的でないため、収益に結びつきにくいという課題があります。企業のCSR活動や公共資金を投じた事業として実施可能でも、林業としての持続的な経営は難しいのが実情です。
植栽が遷移する途中で安定していないことも、商用利用が難しい要因です。里山などで、伐採跡地に植栽を行わずに更新している森林も天然林(天然更新)ですが、自然の更新が木材生産や水源かん養につながるとは限りません。
例えば、伐採跡地がササやコケで覆われる、木材生産の目的となるような樹木に更新されないなど、森林の生産機能が低下することもあるためです。また、人の手が入らず放置されていることで、ナラ枯れの被害が拡大化した地域もあります。
こうなると公益的機能も発揮しなくなるため、森林が多面的機能を保つには、天然林でも人による一定の手入れが必要と考えられます。
人工林の課題
人工林は、森林の放置・荒廃が課題です。人が手入れをするのが前提の人工林は、林業の衰退や人手不足、森林所有者が不明など、さまざまな理由で管理が行き届いていない場所が多いのが実情です。手入れが行われない人工林は、植生が荒れてしまいます。
例えば、下草を取り除かないと苗木が育ちにくくなる、枝打ちをしないと節のある木材になるなどのほか、間伐をしないことで木が細くなり、風や雪によって倒れてそのまま枯れると収穫もできなくなります。
荒れて本数が減少した人工林は、水源かん養やCO2吸収などの公益的機能も弱くなり、生態系も低下。間伐をしないと枝や葉が多くなり、森林内に太陽光が入らないため下草や低木が生長せず、土砂災害につながるリスクも高まります。
放置された人工林が原因となった災害として、2019年9月の台風19号(令和元年房総半島台風)による停電が挙げられます。原因は、大量の倒木によって電柱・送電線の損壊が相次いだことで、現場状況の確認や倒木の処理にも時間を要し、長い場所では復旧に2週間以上かかりました。
今や社会問題ともいえる花粉症も、人工林における課題の一つ。戦後、全国で大量に植えられたスギが、収穫期を過ぎても伐採されず花粉発生源となっているためです。政府は、花粉の少ないスギへの植替えや広葉樹を植栽するなど、花粉の少ない森林へ転換を推進していますが、苗木や伐採にかかるコストや、伐採後の木材利用や伐採跡地への植林も重要で、実現には時間がかかるでしょう。
人工林の手入れ
上で述べたように、人工林は、木の成長に合わせて人が手入れする必要があります。具体的な作業は木材の用途や地域などによって異なりますが、主な手入れとして、次のような作業があります。
(1)地拵え(じごしらえ) | 植栽を行う前に、伐採した跡地に残っている枝や木の根、雑草などを取り除く。苗木の根付きや生長を促進すると同時に、植栽した後の作業効率化を図る |
(2)植栽(植え付け) | 造林の目的や環境に合った樹種を選定し、適切な間隔で苗木を植える |
(3)下刈り・つる切り | 植栽した苗木に太陽光が当たるように、周囲の雑草やつる植物を除去する |
(4)除伐 | 成長に伴って混みすぎた状態を緩和するために、発育不良の木や目的外の樹種などを伐採し、目的の樹種の生育を促進 |
(5)枝打ち | 幹から不要な枝を取り除く。節がない木材を生産する、林内に光が入る、人が通れるスペースを作り作業しやすくするなどの効果がある |
(6)間伐 | 木が生長して密になった人工林の一部を伐採し、密度を調整する作業。残された木々の生長を促進して、良質な木材生産や森林の健全性の維持に貢献する |
(7)主伐 | 目標に達した木を伐採し、収穫する |
こうした森林整備は、主に自治体や地域の森林組合、林業に関わる民間企業が行っています。中には、環境教育として森林ボランティア活動を行っている団体もあるので、保全活動に興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか。
参考:千葉県農林総合研究センター森林研究所 里山活動によるちばの森づくり『人工林の管理 その2』
森林の保全に取り組む「齋藤木材工業株式会社」
長野県の齋藤木材工業株式会社は、構造用集成材の製造・加工を行っている企業です。製品の原材料は信州産カラマツを始めとする地域材で、一般住宅から多目的スポーツ施設など、幅広い建築物に集成材を提供しています。
ハイグレードの信州産カラマツを「信州唐松丸」として独自ブランド化して輸入材との差別化を図り、地元産の木材利用による持続可能な森林経営の正常化や、地域経済の活性化につなげています。
また、製材工程で発生する端材は、薪・薪バッグに加工して販売しています。さらに、薪をカットする際に出るおがくずも、着火剤にして再利用。地元産の木材を余すことなく活用することで、廃棄物量の削減と天然資源の有効活用を両立しました。
同社は薪の収益の一部を長野県の山林に還元して、放置林の減少や林業関係者の賃金上昇・人材確保にも貢献しています。キャンプやイベントなどで焚き火をお考えの方は、森林保全に寄与できる薪を購入してはいかがでしょうか。
天然林と人工林は、どちらも地球環境にとって大切な働きがある
天然林と人工林では、定義や成り立ち、手入れの方法は異なりますが、どちらも地球環境のために大切な森林です。それぞれの働きやメリット、課題を知り、保全を行う団体を応援するなどして、日本の森林、ひいては地球環境を守っていきましょう。