森林の「多面的機能」は私たちの生活にどのように関わる?8つの機能、森林整備との関係性
森林は、木材の生産以外にも、生物多様性保全・地球温暖化対策・水源かん養・レクリエーションなど、さまざまな機能を果たします。私たちの生活と密接に関わるこれらの機能の総称が「森林の多面的機能」です。この記事では、森林の具体的な機能、多面的機能を維持する重要性や交付金、森林循環に貢献する企業事例などをご紹介します。
Contents
森林の多面的機能とは
多面的機能は、「木材等生産機能」と「公益的機能」の2つに大きく分けられます。
「木材等生産機能」は、木材やきのこなどの林産物の産出・供給といった、経済活動に結びついている機能を指します。一方の「公益的機能」とは、多面的機能のうち木材等生産機能を除いたもの。
森林の所有者であるかどうかに関係なく、土砂災害防止や水源かん養など、私たちの暮らしに影響がある森林機能の総称です。
参考:林野庁『令和4年度 森林・林業白書 第1部 第1章 第1節 森林の適正な整備・保全の推進(1)』
森林の8つの機能
森林の多面的機能として、以下の図の通り8つの働きが挙げられます。
生物多様性保全
森林が動植物の住処となることで、生物・遺伝子・生態系といった生物多様性を保全する機能を発揮します。日本は森林面積が大きいため、多種多様な鳥や昆虫をはじめとする動植物の命の根源となっています。
地球環境保全
森林には、地球温暖化を和らげる機能もあります。植物が光合成を行う際に二酸化炭素を吸収して酸素を放出したり、落ち葉などが炭素を固定したりすることにより、大気中の二酸化炭素の増加を抑止するためです。
木材を化石燃料代替エネルギーとして活用することも、地球環境保全につながります。木材として使用できない未利用間伐材などを木質バイオマスとして活用すれば、化石燃料の使用量を削減。木材を燃焼させる時に発生する二酸化炭素は、森林の樹木が再び吸収するため、炭素を循環する効果も期待できます。
土砂災害防止機能・土壌保全機能
土壌を保全して土砂災害を防止するのも、森林が保持する機能の一つです。下草や落ち葉が地表を覆うことで雨滴の衝撃を和らげ、水分が土壌に浸透しやすくなり、地表の土壌浸食(土壌流出)が抑えられるためです。
また、樹木がしっかり根を張ることで、土壌の崩壊を防ぐ効果も得られます。
水源かん養機能
森林の「水源かん養」とは、次のような機能の総称です。
・河川へ流れ込む水の量を平均化して、急激な増水を抑える(洪水緩和) ・晴天が続いても水の流出が途絶えないように水を蓄える(水資源貯留) ・水源から河川へ流れ出る水の量・時期をコントロールする(水量調節) ・水が地中を通り河川へ流出するまでの過程で自然にろ過される(水質浄化)
降った雨の一部は蒸発しますが、土壌に浸透した雨水は地下水となり、時間をかけて河川に流出します。水量を調節して洪水・渇水を防ぐ機能がダムに似ているため、森林を「緑のダム」と呼ぶこともあります。
快適環境形成機能
快適環境形成機能とは、 防風・防音や気候緩和、大気の浄化など、快適な環境形成に寄与する機能です。森林が抵抗物となり風や音を和らげる、樹木が汚染ガスのような有害物質を吸着・ろ過するなど、私たちが生活するうえで快適な環境をつくっています。
例えば海岸沿いにある防砂林(砂防林)は、飛砂・高潮・強い潮風などによる被害を防ぐ目的で造成された人工林です。
また気温を下げることも、快適環境形成機能の一つ。水分を蒸散するときに太陽光による熱エネルギーを大量に消費して周囲の気温を下げる働きが、ヒートアイランド現象(都市部の局所的な高温)を緩和します。
保健・レクリエーション機能
森林には、私たちの健康の維持・増進や行楽・スポーツなどの場としての機能もあります。森林の景観・風の音や鳥の声・落ち葉や木の感触や、「森林の香り」とも呼ばれる揮発成分のフィトンチッド(phytoncide)などが、私たちに安らぎや癒しを与えるためです。さらに、森林を眺めることでも、副交感神経活動が高まり生理的にリラックスする、ストレスホルモン濃度が低下しストレスが軽減するとされています。
林野庁は、全国の国有林のうち、自然景観に優れ、森林浴・自然観察・野外スポーツなどに適した森林を「レクリエーションの森」として選定。国民が保健・文化・教育的に利用する場として、森林を整備・提供しています。
参考:林野庁『レクリエーションの森』
文化機能
森林の文化機能は、森林の景観が、行楽や芸術の対象となり私たちに感動を与えます。例えば、桜・新緑・紅葉など季節による変化や、京都市のように森林と史跡・名勝が一体となった景観などを楽しむことは、日本人の自然観の形成に影響を与える文化機能です。
伊勢神宮(三重県)の式年遷宮に代表される、日本文化の維持・継承や歴史的建造物の材料供給を目的とした森林や、和紙の材料となるミツマタ・コウゾなど伝統工芸に関わる森林の維持・育成も、文化機能といえるでしょう。
加えて、森林内での体験活動や学術調査など、体験学習・森林環境教育の場としての役割も、文化機能の一つです。
物質生産機能
上述の1〜7と異なり、経済的な側面を持つのが物質生産機能(木材等生産機能)です。具体的には、木材(建築材、燃料材)の生産、山菜・きのこなどの食料、実用品に用いる竹などの提供を指します。公益的機能と異なり、将来収穫したい樹種を選定・育成する、効率的な森林整備を行う必要があります。
これらの多面的機能の発揮は、「持続可能な開発目標」であるSDGsのさまざまな目標にも関わりがあります。特にSDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」は、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止・回復、生物多様性の維持を目的としており、森林の多様な機能が重要な役割を果たすと考えられます。
多面的機能を発揮させるには「森林整備」が重要
日本は国土の67%が森林で、その6割は天然林、4割が人工林。近年の森林面積の推移は、以下の通りです。
このうち、人工林が多面的機能を発揮するには、人の手による「森林整備」が必要です。積極的な植栽・保育・間伐などの森林整備を適切に行い、健全な森林を維持・育成します。
例えば上述の「土砂災害防止機能・土壌保全機能」のように、適切な間伐や枝打ちなどが行われていない場合は、森林内が暗くなり下草も生えず、雨や洪水などで土壌が流出するリスクがあります。
しかし適切な森林整備を行っていれば、森林が明るくなり植物が育ち、発達した根系が災害発生を抑える効果が高まります。その森林の手入れを担うのが林業であることから、林業は木材の生産だけでなく、森林が多面的機能を発揮するためにも重要な役割を果たしているといえます。
森林整備を適切に行うには「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」が活用できる
森林が多面的機能を発揮するには、適切な森林整備や計画的な森林資源の利用が欠かせません。しかし、山村地域の高齢化・過疎化や林業の低迷などによって、住民が減少して手入れが行き届かなくなり、適切な整備が行われていない里山林も見られます。
そのため、森林の保全管理を行う組織と、森林資源の利用など山村地域の活性化につながる取り組みを支援する目的で、交付金制度が設けられています。一活動組織当たり、年度ごとに500万円を上限に最大3年間の支援を受けることが可能です。申請要件は、以下の通り。
構成員 | 森林所有者・地域住民・森林組合・NPO法人・地域外関係者など、地域の実情に応じた活動組織(3名以上) |
対象森林 | 活動を行う時点において、森林経営計画が策定されていない0.1ha以上の森林 |
活動区域 | 対象森林と同一の都道府県内に活動組織の事務所がある |
活動計画書 | 活動組織名・所在地・取り組みの背景および概要、3年間の活動計画(過去に策定した活動計画書に位置付けられていない森林) |
採択に当たっては、①財政基盤が確保されていること、②安全技術の向上が期待できること、③モニタリング調査の実施など、いくつか条件があります。申請を検討している場合は、各都道府県の地域協議会へご相談ください。
参考:林野庁『森林・山村多面的機能発揮対策交付金』
「齋藤木材工業株式会社」が行う森林循環に貢献するための取り組み
長野県にある齋藤木材工業株式会社は、信州カラマツ材・地域材を利用した、集成材の製造・販売などを行っている企業です。地元産の木材を利用することで、人口減や林業の担い手不足の解決、地域経済の活性化を図っています。
また同社は集成材を製造する工程で発生する端材を、薪に加工・販売しています。集成材の使用が難しい部分を廃棄せず有効活用して、廃棄物の量を抑制。森林循環に貢献する木材利用を推進して、SDGsの目標達成にもつなげています。
さまざまな恩恵をもたらす森林を守っていこう
森林が多面的機能を将来にわたって発揮するには、人が積極的に森林整備を行い、健全な森林を維持・育成する必要があります。これからも人々が森林による恩恵を受けていくには、一人ひとりが森林の機能や、林業・林産業の重要性を再認識することが大切です。身近にある森林に関心を持ち、保全のためのアクションを心がけるなどして、豊かな森林を守っていきましょう。