林業が抱える課題とは。課題の解決策や取り組みを紹介
楽しさや魅力も多い林業ですが、産業として見ると多くの課題を抱えていることも否定できません。具体的には、「林業産出額の減少」や「木材価格の低迷」などの課題があります。一方で、こうした課題への解決策として、さまざまな取り組みが行われています。林業を成長産業化するためには、どのような対策が必要となるのでしょうか。今回は、林業が抱える課題とその解決策や取り組みについて、紹介します。
林業の果たす役割
林業は、「豊かな森林を次の世代に引き継いでいく」という重要な役割を担っている産業です。豊かな森林を保全するため、木を切る「伐採」や、木を植えて育てる「植林」、伐採した木材の「加工・活用」などを行っています。
林業の主な仕事
また、「土砂災害防止・土壌保全機能」や「地球環境保全機能」「生物多様性保全機能」といった森林のさまざまな機能をより促進する産業であるとも言えるでしょう。
森林の機能
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日本の林業が抱える課題
現在、日本の林業は、どのような課題を抱えているのでしょうか。日本の林業の歴史を紐解きながら、林業が抱える課題について、紹介します。
日本の林業の歴史
日本では、戦後復興の一環として木材需要が急増しました。しかし、戦争中の乱伐による森林の荒廃や自然災害などを理由に供給が十分に追いつかず、一時は木材が不足し、価格高騰が続くという状況になりました。政府はこのような状況に対して、木材の生産力を飛躍的に伸ばし、木材を大量に確保するため「拡大造林政策」を推進。その一環として、建築用木材としての価値が高い、スギやヒノキなどの針葉樹の植林を進めます。一方で、木材の需要をまかなうべく「木材輸入の自由化」を段階的に進め始めました。安く、安定的に供給できる「外材」の需要が高まるにつれ、日本の林業は衰退してしまったのです。
このような歴史を持つ日本の林業が、現在どのような課題を抱えているのか、林野庁がHPで公開している資料をもとに見ていきましょう。
(参考:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題 2.林業の現状と課題」)
林業産出額が減少している
日本の林業産出額は、後の大量伐採に伴う国産材の生産量の減少や、木材価格の低下を主たる要因として、1980年の約1.2兆円をピークに減少しています。農林水産省が公表した「令和2年 林業産出額」によると、令和2年は、製材用素材等の生産量が減少したことにより、前年比142億円減の4,831億円(対前年増減率2.9%減少)となりました。
一時的な価格高騰があったものの、木材価格が長期的に下落傾向にある
昨今のコロナ禍において、アメリカでの新築住宅需要の急増に伴い、北米などから輸入される木材の価格高騰が続いています。この動きに引っ張られるかたちで、国内の丸太や製材価格も一時的に上昇しています。しかし、このように一時的な価格高騰はあるものの、長期的に見ると、木材価格は下落傾向にあります。
木材価格は、高度経済成長に伴う需要の増大などが影響し、1980年にピークを迎えます。しかしその後、木材需要の低迷や輸入材との競合により、下落傾向が続きました。2020年時点では、ヒノキ中丸太はピーク時の約4分の1、スギ中丸太はピーク時の約3分の1にまで価格が落ちています。国産材生産量の60%近くを占めるスギや、同じく15%近くを占めるヒノキの価格が長期的に下落していることから、林業に多大な影響が及んでいると言えるでしょう。
森林施業の集約化に多大な労力がかかっている
現在、森林整備を進めることを目的に、複数の所有者の森林を取りまとめ、施業を一括して実施する「施業集約化」が進められています。一方で、「森林の施業集約化に多大な労力がかかっている」というのが現状です。その要因としては、森林所有者の「世代交代」や森林の所有者が村外で居住するようになる「不在村化」などにより、「所有者の特定が困難な森林」が多数存在しているということが挙げられます。不在村者の中には、相続時に何も手続きをしていない人も少なくないことも、「所有者の特定が困難な森林」が増える一因になっていると言えるでしょう。
不在村者保有の森林面積の割合
(参考:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題 2.林業の現状と課題」)
事業地を確保するのが難しい
林業経営者(素材生産業者等)に対して「今後の規模拡大の意向」を尋ねたアンケート結果(2015年)によると、「規模拡大の意向がある」という回答が70%を占めるという結果が得られています。一方で、「事業地確保が困難」ということが、事業を行う上での課題として挙げられました。このことから、事業地の需要と共有のバランスが取れていないことが伺えます。
生産性が低い
林業の生産性が、諸外国に比べて、低いことも、日本の林業の課題の一つです。このことは、木材価格にも現れています。2008年は、スギ中丸太の価格が「12,200円/㎥」であったのに対し、同年の素材生産費・運材費の合計は、主伐で「7,699円/㎥」、間伐で「10,659円/㎥」です。これによる粗収入は、主伐で「約4,500円/㎥」、間伐で「約1,500円/㎥」にすぎません。さらに、伐採後は再植林費用や、その後の除伐・間伐費用などの経費も発生します。
日本の林業は、植林から伐採までの長期にわたる投資に見合った収入を得ることが困難な状況といえるでしょう。この結果、採算が合わないという経済的な理由から伐採が手控えられるのが現状です。
(参考:林野庁「第Ⅰ章 林業の再生に向けた生産性向上の取組」)
このように生産性が低いという状況もあってか、林業従事者の年間平均給与は、全産業の年間平均給与より約100万円ほど少ないと言われています。
林業従事者が高齢化している
第一次産業の多くがそうであるように、林業もまた高齢化が進み、後継者問題に直面しています。総務省の国勢調査によると、林業従事者の数は長期的に減少傾向で推移しており、2015年には約4万5千人となっています。林業の高齢化率(65歳以上の割合)を見ると、2015年は25%で、全産業平均の13%に比べても高い水準にあります。
(参考:林野庁「林業労働力の動向」)
森林資源を活かした産業育成が進んでいない
森林資源を活かした産業育成が進んでいないことも、日本の林業の課題と言えます。日本では林野面積の6割を山村が占め、それを全人口の3%で支えている状況です。また、過疎化・高齢化の進行により、就業人口も減少。山村における就業人口の約2割は第1次産業従事者であるため、地域の森林資源を活かした産業育成が重要と考えられています。
復興山村の面積と人口
(参考:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題 2.林業の現状と課題」)
林業の課題に対する解決策や政府の取り組み
ここからは、林業の課題に対する解決策や政府の取り組みについて、見ていきましょう。
国産木材の活用を図る
木材の利用を促進するためには、これまで木材が使われてこなかった分野で、新たに需要を拡大することが重要です。木材の需要拡大に向け、政府は「公共建築物などの木造化・木質化」「木質バイオマスのエネルギー利用」「木材輸出の促進」に取り組んでいます。
2010年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことにより、木材を使った公共建築物などが増加。また、2021年10月には、同法が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市の木造化推進法)」に改正されました。建築物における木材利用のより一層の推進により、CTL(直交集成板)を利用した中高層や中大規模の木造建築が増加しています。
また、未活用であった間伐材等を再生可能エネルギーである「木質バイオマス」として活用する取り組みも注目されています。木質バイオマスを活用することにより、「二酸化炭素の排出抑制と地球温暖化の防止」「廃棄物発生を抑制」「リスクの分散」などの効果が期待できます。
(参考:政府広報オンライン「木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!」)
サプライチェーンを再構築する
生産から加工といった、木材流通全体の効率化を図るため、事業者の連携によるサプライチェーンの構築も進められています。具体的には、「ICTを活用した情報共有」や「先端技術を活用したスマート林業の実践的取り組み」などです。こうした取り組みにより、木材流通コストの削減や木材需要の拡大が期待できます。
(参考:林野庁「平成29年度森林及び林業の動向 4.新たな森林管理システムの構築に向けた川上と川下の連携」)
管理されていない森林の所有者と林業経営者をつなぐ
「林業の成長産業化」と「森林資源の適切な管理」両立を目指し、所有者が経営・管理できない森林について市町村が仲介役となり、森林所有者と林業経営者をつなぐ「森林経営管理制度」が2019年4月に施行。これにより、林業経営に適しているものの、適切な経営管理が行われていない森林については林業経営者に、一方で、林業経営に適さない森林については、市町村に、それぞれ管理が委託されることになりました。このように、市町村が管理を仲介したり、自ら管理したりすることにより、未管理となっている森林の管理が進んでいくことが期待されています。
森林計画制度の概要
(参考:林野庁「森林経営管理制度(森林経営管理法)について」)
森林経営計画の作成促進により、施業集約化を推進する
施業集約化の推進に向け、「森林経営計画」の作成も促進されています。「森林経営計画」とは、自分で山を持っている「森林所有者」または「森林の経営の委託を受けた者」が、「自らが森林の経営を行う一体的なまとまりのある森林」を対象として、林業工程を含めた森林の施業及び森林の保護について作成する計画のこと。「5年を1期」として、作成します。
森林経営計画を立てることにより、税制上の特例措置を始めとした各種支援措置等を受けることができます。そのため、予算面でのメリットも大きいと考えられています。
森林経営計画の作成促進により施業集約化が進めば、効率的な路網整備や間伐材の搬出が可能となり、森林の保護もしやすくなると考えられます。
(参考:林野庁「森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者がたてる「森林経営計画」」)
施業集約化の取り組み
(参考:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題 2.林業の現状と課題」)
生産性を高める
木材輸送などに重要な幹線となる路網(森林内にある公道、林道、作業道の総称)を整備することで、作業現場へのアクセスや機械の導入が行いやすくなり、業務効率化や生産性の効の向上が図れます。
加えて、ICTの活用も進められています。ICTを活用することで、「入力作業の削減」や「情報のビジュアル化」「リアルタイム集計」などが可能となり、さらなる業務効率化・生産性向上が期待できます。
新規就業者を確保し、育成を進める
新規就業者を確保し、現場技能者として段階的・体系的に育成するため、林野庁が主体となり、「緑の雇用」事業を行っています。「緑の雇用」事業では、未経験者でも林業に就き必要な技術を学べるように、林業経営体に採用された人に対して講習や研修を実施。林業就業者のキャリアアップを支援しています。
このような取り組みにより、林業への就業者は着実に増加しています。実際に、「緑の雇用」事業を実施する以前の林業新規就労者数は、年間平均約2,000人でした。しかし、事業実施以降には年間平均約3,200人にまで増加しています。「緑の雇用」による新規就業者は累計で約2万人。2003年以降、林業新規就労者全体の約4割を、「緑の雇用」による新規就業者が占めているそうです。
林業の成長産業化や資源を活用した多様な産業創出を推進する
山村では過疎化・高齢化が進行し、就業人口の減少が課題となっています。一方で、都市住民の中には、地方での暮らしに自然の豊かさやワークライフバランスを求める層も存在。都市部に居住する人の地方への移住ニーズと林業資源の活用をマッチングさせることで、新たな価値が生み出され、林業の成長産業化につながります。実際に、若者を中心に変化を生み出す人材が移住したり、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手になったりするケースもあります。
また、山村経済の発展に向けて、「森林資源を活用した多様な産業の創出」も推進されています。具体的には、森林空間を活用する「森林サービス産業」、林業と他産業との「複合経営」や「林福連携」などへの取り組みが挙げられます。
今後も、林業の課題を解決するための取り組みが進められていく
日本の林業が抱える課題を解決するため、「国産木材の活用」「サプライチェーンの再構築」「施業集約化」などさまざまな取り組みが実施されています。この他、生産性を高めるためのICT活用や、新規就業者の確保・育成といった動きもあります。「緑の雇用」事業の実施以降は若年層の就業者も増えつつあり、今後も林業における多様な産業創出に向けた施策が進められていくでしょう。