SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)をわかりやすく解説。DXとの違いや企業事例

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)をわかりやすく解説。DXとの違いや企業事例

SX(サステナビリティ・フォーメーション)とは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、およびその実現に向けた変革のことを指します。DXなど他の用語とはどう違い、どのようなことに取り組んでいく必要があるのでしょうか。

今回は、SXの定義や企業として取り組むべき施策、SXを実践している企業の事例などをわかりやすく解説します。

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、社会のサステナビリティ(持続可能性)と企業のサステナビリティの「同期化」させること、および同期化の実現に向けた変革のこと。

「社会のサステナビリティ=将来的な社会の姿」、「企業の持続可能性=企業の稼ぐ力の持続性」であるとイメージするとわかりやすいでしょう。

経済産業省が2019年に設置した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の中間取りまとめとして2020年8月に発表された資料において、SXが提唱されました。

経済産業省が2022年8月に発表した『伊藤レポート3.0 (SX版伊藤レポート) 』では、SXの定義を以下の通り示しています。

「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。 

なお、ここでいう「同期化」とは、簡単に説明すると「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立を図ること」を指します。

すなわち、企業として社会の持続可能性の向上に取り組んでいくとともに、自社の長期的かつ持続的な成長や価値創出へとつなげていくことが、「同期化」といえます。

参考:経済産業省『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~

「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」の同期化

社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化するには、企業の稼ぐ力を持続化・強化するとともに、将来的な社会の姿の実現に向けてすべきことを考え、企業経営に反映させていく必要があります。

しかしながら、SXは一朝一夕に達成できるものではなく、企業努力のみでSXを実現するのは困難です。SXを成功させるには、企業と投資家、取引先などとの対話が必要となります。

社会のサステナビリティ実現に向けて企業に求められることを踏まえた上で、中長期的な企業経営のあり方について、建設的・実質的な対話を続けていきましょう。

なお、SX実現に向けた具体的な施策については、後ほど詳しく解説します。

参考:経済産業省『伊藤レポート3.0 (SX版伊藤レポート)

SXと類似する用語との違い・関係性

SXと類似する用語として、DX・GX・SDGsがあります。それぞれの用語との違いや関係性について、詳しく見ていきましょう。

SXとDXの違い

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIoTといったデジタル技術やビッグデータなどを活用し、業務改革を起こすこと

「企業競争力・企業価値の向上」や「新しい価値の創造」を目的としています。一方、SXは社会の持続可能性と企業の持続可能性を両立して実現することを目的としているため、SXとDXではその目的が異なります

しかし、SXとDXは、相反するものではありません。どちらか一方のみ取り組むのではなく、両者を組み合わせて、さまざまな視点から事業戦略を策定することが重要です。

例として、社会の持続可能性の実現を目的とした事業を進めるために最新のデジタル技術を活用するといったことが考えられるでしょう。

SXとGXの違い

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、地球温暖化への対応を「成長機会」と捉え、経済社会構造を変革していこうとする取り組みのこと。

2020年10月、菅内閣は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言しましたが、その早期実現に寄与するとされているものの一つがGXです。

SXとGXでは、「扱うテーマの範囲」が異なります。GXのテーマは、温室効果ガスの削減をはじめとした環境問題の解決です。一方、SXでは、環境問題の解決に加え、貧困や人権問題といった社会課題の解決もテーマとしています。

つまり、SXの方がGXよりも大きな概念であるといえるでしょう。

SXとSDGsの関係性

SDGsとは、「Sustainable Development Goals(サステナブル・ディベロプメント・ゴールズ)」の略語で、「持続可能な開発目標」のこと

2030年までに持続可能なよりよい世界を目指すことを目的に、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標です。

SXとSDGsには、「サステナブルな社会への移行を目指す」という共通点があります。また、SDGsでは、国や個人、企業が「目指すべき将来像」や「その達成に向けた具体的行動」が示されています。

そのため、SXはSDGsの実現に向けて企業に求められるものといえるでしょう。

SXが注目される背景

SXが注目される背景には、「世界情勢の変化」「投資家や消費者からの信頼獲得」「人的資本経営の推進」があります。詳しく見ていきましょう。

世界情勢の変化

近年、自然災害や食糧危機、新型コロナウイルス感染症の拡大、グローバルサプライチェーンの寸断、急激な技術革新、紛争の勃発といったニュースを見聞きする機会が増えました。このように世界情勢は大きく変化しており、社会の不確実性が高まっています。

社会全体が不安定な状態では、いずれ企業経営にも悪影響が及ぶでしょう。そのため、企業を存続させるためには、社会の不確実性に備えつつ、成長し続けていく必要があります。

企業には自社の利益追求だけでなく社会の持続性への貢献も求められることから、SXに取り組む企業が増加しているのです。

投資家や消費者からの信頼獲得

「投資家や消費者からの信頼を獲得できる」という理由からも、SXは注目されています。

近年、社会全体としてSDGsが推進されていることを受け、投資家の間で広がっているのが「ESG投資」です。ESG投資とは、Environment(環境)、Society(社会)、Governance(企業統治)に配慮した経営や事業活動である「ESG」に取り組んでいる企業への投資のこと。

SocietyやEnvironmentは社会の持続可能性と関連性が高いため、対応できていない企業は投資家からの評価・信頼を得るのが難しく、結果として事業活動の継続に影響が生じることも考えられます。こうした理由から、企業にはSXの推進が求められているのです。

また、SXに真剣に取り組む姿勢を示すことは、企業イメージの向上にも直結します。地球温暖化による自然災害を経験しながら成長してきた若い世代は、環境問題への関心が高いといわれています。

多くの企業にとって、若い世代は消費者としても労働者としても重要です。SXを推進し、それを社外にアピールすることは、「ビジネスチャンスの拡大」や「人材の確保」につながるため、SXに取り組む企業が増加しています。

人的資本経営の推進

人的資本経営とは、人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことにより、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。

2023年3月期決算から、有価証券報告書および有価証券届出書における人的資本情報の開示が義務付けられたことを受け、人的資本経営への関心が高まっています。

人的資本経営と深く関わってくるのが、SXです。SXは企業における「人材育成」や「多様性の推進」に寄与するとされています。SXによって、人材の能力・価値が高まれば、人的資本経営を推進でき、企業の競争力強化や持続的成長につながるでしょう。

参考:金融庁『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(令和5年1月31日)

SX実現のため、企業が取り組むべき3つの施策

ミーティング風景
image by Scott Graham on Unsplash

SXの実現に向け、企業はどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。経済産業省が発表した「伊藤レポート3.0 (SX版伊藤レポート)」に基づき、SX実現のために企業が取り組むべき3つの施策を紹介します。

参考:経済産業省『伊藤レポート3.0 (SX版伊藤レポート)

企業の目指す姿を明確化する

まずは、社会のサステナビリティを踏まえながら、自社が長期的に目指す姿を明確化しましょう。

社会に向けて長期的かつ持続的な価値を提供できるよう、判断軸となる価値観を明確化しつつ、自社の事業活動を通じて解決できる重要課題を定める必要があります。

その上で、「どのように社会に価値を提供していくか」「どのように重要課題の解決を図るか」などを設定することが重要です。

企業として目指す姿を設定する際は、短期的・中期的・長期的に想定される社会の変化や、今後の市場における自社のポジショニングなどを考えることから始めましょう。

その上で、「重要課題の解決に向け、どのような取り組みが必要か」「将来に向けて、自社の競争優位性や強みをどのように持続・強化していくか」などの観点から、目指す姿を定めていくことが大切です。

「目指す姿」を基に長期的な企業価値を創出する戦略を練る

次に、「目指す姿」を基に、企業全体の長期価値創造の在り方を示す「長期戦略」を構築し、その具体化に向けた戦略を対象期間別(短期的、中期的、長期的)に策定しましょう。

長期戦略の構築に際しては、長期的に目指す姿の設定に加え、「その実現に向けた基盤となるビジネスモデルの構築・変革」「視野に入れるべきリスクと機会の分析」を統合的に行うことが重要です。

長期戦略の具体化・実現に向けては、「いかに、目指す姿と現在の姿とのギャップを埋めるか」という観点から、必要な取り組みを検討・実施しましょう。

なお、ギャップの適切な把握のためには、現在の自社の事業状況や市場におけるポジショニングや財政状態および経営成績などを分析する必要があります。

ギャップを把握したら、対象期間(短期的、中期的、長期的)に応じた「事業ポートフォリオ戦略」や「DX推進戦略」「人的資本への投資・人材戦略」などを策定・推進していきましょう。

KPIの設定とガバナンス体制の整備を行う

SX実現に向けては、「KPI の設定」と「ガバナンス体制の整備」も重要です。KPIの設定に際しては、戦略のみならず、価値観や重要課題とも関連付けるとよいでしょう。

併せて、「KPIの達成に向けた長期的な見通し」や「KPIと長期的な価値創造との関連性」を示すことも重要です。なお、外部環境の変化などがあった際には、KPIを見直す必要があります。

ガバナンスについては、ただ体制を構築するだけでなく、「なぜ、そのような体制としたか」「その体制がどのように機能するか」などを自社の長期的な価値向上の観点から示すのが望ましいとされています。

その上で、「取締役会と経営陣の役割・機能分担の明確化」や「重要課題および戦略に関するKPIと連動した役員報酬などの設計」などをしていくとよいでしょう。

なお、紹介した3つの施策の具体的内容やそこに至った経緯・理由などについて投資家にわかりやすく説明し、建設的な対話を継続していくことも重要です。

SX推進に必要なダイナミック・ケイパビリティとは

社会の不確実性が増している中で企業のサステナビリティを高めていくためには、企業経営のレジリエンスを高める必要があります。具体的には、「ダイナミック・ケイパビリティ」を強化することが重要です。

「ものづくり白書2020年版」によると、ダイナミック・ケイパビリティとは、「環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力」のこと。「企業変革力」というとイメージしやすいかもしれません。

ダイナミック・ケイパビリティは、以下の3つの能力に分類されます。

能力定義
感知(センシング)脅威や危機を感知する能力
捕捉(シージング)機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
変容(トランスフォーミング)競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力

参考:経済産業省『製造基盤白書(ものづくり白書) 2020年版 第1部第1章第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化 2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化

なお、デジタル技術にはこれら3つの能力を増幅させる効果があるといわれています。積極的に新しいデジタル技術を取り入れ、社内に浸透させることによりダイナミック・ケイパビリティを高め、SX推進につなげましょう。

SXを実践している企業の事例

風力発電
image by Zbynek Burival on Unsplash

実際、各企業ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。SXを実践している企業の事例を紹介します。

ユニリーバ

ユニリーバは、継続的な成長・競争力ある成長・利益ある成長・責任ある成長を実現するための成長戦略「ユニリーバ・コンパス」を策定しています。「ユニリーバ・コンパス」は、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスの実現に向け、環境問題や社会課題に取り組むための目標・プランです。

例えば、「2025年までに、使用するプラスチックの25%を再生プラスチックにする」など具体的なアクションプランが明確に示されており、実現可能性が高いものとなっています。

また、ユニリーバは事業を通じて、社員やパートナーとともに、世界にもビジネスにも永続的な好影響をもたらしていくことを目指しています。こうした実践から、ユニリーバは日本におけるSXの先進的企業であるといえるでしょう。

参考:ユニリーバ『地域と社会』『The Unilever Compass

富士通

富士通は、顧客企業のビジネス成長と社会課題の解決に向けたソリューション「Fujitsu Uvance」を展開しています。富士通が長年培ってきたテクノロジーと、さまざまな業種の知見を融合させ、これまでにない解決策を導き出すのが、「Fujitsu Uvance」の特徴です。

特に、「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」という3つのテーマを重視。飲食業や不動産業といった企業だけでなく、気象庁などの公的な機関での活用実績もあります。

「Fujitsu Uvance」は、地球環境問題の解決やデジタル社会の発展、人々のウェルビーイングの向上という社会のサステナビリティ実現に寄与する実践的なソリューション(=企業のサステナビリティ実現に向けたもの)であるといえるでしょう。

参考:富士通『Fujitsu Uvance』『お客様事例

SMBCグループ

SMBCグループは、企業とサプライチェーン全体のCO2排出量の算定から削減施策の立案・実行までの一連の業務を管理できるクラウドサービス「Sustana(サスタナ)」を提供しています。

近年、カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素経営が各企業に求められるようになってきました。脱炭素経営の実現に向けた一歩といえるのが「自社や自社サプライチェーンのCO2排出量の見える化・把握」ですが、それには多くの労力がかかります。しかし、「Sustana」を活用すれば現状把握を簡単に行えるだけでなく、分析や削減計画の策定などを円滑に実施できます。

「Sustana」は、「脱炭素社会の実現」という社会のサステナビリティ実現に向けた有益なサービス(=企業のサステナビリティ実現に向けたもの)であるといえるでしょう。

参考:SMBC DX-link『Sustana サスタナ

なお、経済産業省と東京証券取引所(東証)は2024年度から、SXを推進している企業を選定・表彰する「SX銘柄」という事業を開始する予定です。「SX銘柄2024」の選定企業は2024年6月頃に公表される予定のため、今回紹介した企業以外の取り組みについても知りたい方はそちらも参考にしてみてはいかがでしょうか。

参考:経済産業省『「SX銘柄」を創設します』『SX銘柄

SXを推進し、さらなる企業価値価値を創出しよう

SXを推進することは、世界情勢の変化への対応や投資家・消費者からの信頼獲得、人的資本経営の推進に直結します。SXの実現に向け、「企業の目指す姿の明確化」「長期戦略の策定」「KPIの設定およびガバナンス体制の整備」に取り組みましょう。併せて、SX推進に必要なダイナミック・ケイパビリティの3つの能力を強化していくことも重要です。SXの推進により、さらなる企業価値の創出につなげましょう。