ネイチャーポジティブを詳しく解説。企業が取り組む意義と私たちにできること

ネイチャーポジティブを詳しく解説。企業が取り組む意義と私たちにできること

ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を抑え、回復傾向へ向かわせることを意味する言葉です。近年、自然環境への関心の高まりから、ネイチャーポジティブはカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに次ぐ世界の潮流となっています。今回は、ネイチャーポジティブの概要や取り組む必要性、国内外の動きに加え、企業の取り組み事例や個人でできることをご紹介します。

ネイチャーポジティブとは

ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を食い止め、回復させることを意味する言葉です。なお、生物多様性とは、地球上にいる動物や植物、微生物など多種多様な生きものが、互いに影響し合いバランスを保って生きていることを指します。

しかし現在、世界では森林破壊や気候変動などを原因に、生物多様性の損失が大きな課題となっています。生物多様性が失われると、水や食料の供給、水質浄化などあらゆる自然からの恩恵が失われると考えられています。

なおネイチャーポジティブは、経済活動によって生じる自然環境への悪影響を抑え「生物の多様性の損失を阻止する」という従来の発想から、さらに踏み込んだ考えとされています。生物多様性の損失を環境問題の枠に留めず、経済・社会にも大きな影響を与える問題として認識されているのが特徴です。

ネイチャーポジティブが広まった背景

ネイチャーポジティブという名称が誕生したきっかけは、2020年の国連生物多様性サミットまでさかのぼります。サミットで発足した「リーダーによる自然への誓約」で、「持続可能な開発の達成目的のため、団結して2030年までに生物多様性の損失を逆転させる」という考え方が示されました。

その後「2030年自然協約」にて、ネイチャーポジティブという名称が正式使用。世界各国においてネイチャーポジティブの実現に向けた抜本的な対策が展開されるようになりました。

ネイチャーポジティブに取り組む必要性

ネイチャーポジティブの実現は、生物多様性の保全だけでなくあらゆる効果をもたらすと期待されています。ここでは、ネイチャーポジティブに取り組む具体的な必要性をご紹介します。

SDGsの達成

ネイチャーポジティブの取り組みは、生物多様性保全につながります。これは、SDGsに掲げている目標14 「海の豊かさを守ろう」と 目標15「陸の豊かさも守ろう」に直接的に関連しており、SDGs目標達成にも貢献できる取り組みとして推進されています。

なお、SDGsとは「持続可能な開発目標」の略称で、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すため、国際サミットで採択された国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。

気候変動への適応

世界はこれまで、自然の性質を活かして災害を回避してきた歴史があります。そのため、ネイチャーポジティブに取り組むことで、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進めようと考えています。

自然を守り育み、生態系サービスを活かすことで、気候変動に適応し「防災・減災・資源循環・地域経済の活性化」など多様な社会課題の解決につなげられるのです。

ネイチャーポジティブに対する国内外の動き

ここからは、ネイチャーポジティブに対する国内外の動きを解説します。

国際的な動き

ネイチャーポジティブの国際的な動きとして、2022年12月に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(Conference of the Parties:COP15)において「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。

この会議では、具体的なビジョンとして「2050年までに、自然と共生する社会を実現する」を掲げました。そして、ビジョン達成に向け、2030年までのミッションに「生物多様性の損失を停止させ回復軌道に乗せるための緊急の行動をとる」ことが示されました。

参考:環境省『昆明・モントリオール生物多様性枠組 検討の流れ』

国内の動き

環境省では、先述したCOP15を受け、ネイチャーポジティブ実現には「社会経済全体の変革を目指していく必要がある」と認識し、2023年2月に「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」を発表。これは、ネイチャーポジティブを実現する社会経済活動の拡大を目指すものです。

さらに、生物多様性白書によると2023年3月には新国家戦略と呼ばれる「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定したと提示。この戦略では、生物多様性の損失という危機的な状況を回避し、環境・経済・社会の統合的向上につなげることを目標に掲げています。 

参考:環境省『J-GBFネイチャーポジティブ宣言』『令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』

企業がネイチャーポジティブに取り組む意義と事例

ネイチャーポジティブを詳しく解説。企業が取り組む意義と私たちにできること
image by Syahrin Seth on Unsplash

現在、自然を資本と捉える「自然資本」の概念が広まっています。自然資本とは、生物多様性だけでなく、大気や水、土壌、海洋などの領域を含むより広範囲な「自然」のこと。

企業は、自然資本なくして経営が成り立たないことから、ネイチャーポジティブは、特に企業において重要性が増しています。企業が、ネイチャーポジティブに取り組むことで、自然関連のリスクの軽減と機会の獲得を通して、経営基盤の強化につながると考えられているのです。

ここからは、ネイチャーポジティブの実現につながる日本企業の活動事例をご紹介します。

積水ハイム株式会社|「5本の樹」計画で植栽を行う

住宅メーカーの積水ハイム株式会社では、生物多様性保全への貢献として「5本の樹」計画を実施しています。5本の樹は「3本は鳥のため、2本は蝶のために、地域に在来樹種を」という思いを込めた植栽事業です。2001年から20年間で累計1,709本の植栽を達成し、生物多様性の定量評価も実施。在来種の樹種を平均50種類に増やす成果を上げています。

参考:積水ハイム株式会社『ネイチャー・ポジティブ方法論』

日本航空株式会社|自然に関するコミットメントを掲げる

航空会社である日本航空株式会社では、生物多様性と気候変動の包括的な解決に向け、2050年にCO2(二酸化炭素)排出量実質ゼロの実現を目指しています。具体的な活動として「省燃費機材への更新」「運航の工夫」「持続可能な航空燃料であるSAFの活用」を実施。事業を継続する上での重大なリスクにも着目し、リスク軽減に向けた対応を提示しリスク管理を徹底しています。

参考:日本航空株式会社『生物多様性の保全』

丸紅株式会社|グリーン戦略を掲げ「自然と共生する社会」を目指す

大手総合商社である丸紅株式会社では、中長期経営戦略のコア事業として「グリーン事業の強化」と「全事業のグリーン化推進」を掲げ、事業活動による環境への影響をポジティブに転換していくことを目指しています。具体的には、世界における再生可能エネルギー発電事業の積極的な推進と拡大を実施。日本各地においても、水力発電事業の他、風力・太陽光・バイオマス発電事業に取り組み、地域環境や生物多様性の保全に役立てています。他にも、ガンカモ類生息数調査や植林プログラムなどを通して、生物多様性の損失を軽減する取り組みに積極的に貢献しています。

参考:丸紅株式会社『生物多様性と生息環境の保全』

ネイチャーポジティブに向けて私たちにできること

ネイチャーポジティブの実現に向けては、身近な生活からもアクションを起こすことが可能です。ここからは、個人でできるネイチャーポジティブにつながる取り組みをご紹介します。

ゴミを減らす工夫をする

生物多様性へ与える影響を抑える取り組みとして、ゴミの削減を意識した生活が挙げられます。例えば、本来は食べられるはずの食品が廃棄されるフードロスの削減は、持続可能な消費の維持につながり、生物多様性の損失を抑えられます。

そのため、消費者は「必要な分だけを購入する」「皮を厚めに剥くなどの過剰除去をやめる」といった意識が大切です。そのほか、余剰食品と利用者をマッチングするサービスを活用するなど、ゴミを減らすためにできることを考えてみましょう。

参考:農林水産省『農林水産業による生物多様性への貢献』

リサイクル素材を活用した商品を選ぶ

限られた資源を大切に活用するために、服や日用品などは、リサイクル素材や環境に配慮された商品を選択するのもおすすめです。例えば、ペットボトルや不要になった服から作られるリサイクルポリエステルを使用し、新たな製品を生み出している企業があります。

環境に配慮された商品を選択する際に参考となるのが「認証マーク」(環境ラベル)です。認証マークは、環境負荷の軽減に役立つ商品やサービスであることを示すマークや目印のこと。価格や品質だけでなく、環境やリサイクルのしやすさなどを考慮して、消費活動からネイチャーポジティブに貢献しましょう。

参考:環境省『環境ラベル等データベース』

ネイチャーポジティブに取り組む企業を知り応援する

ネイチャーポジティブの実現に向け取り組む企業を知り、消費活動などで応援するのも一つの方法です。ネイチャーポジティブ宣言を表明する企業では、「持続可能な原料の調達」や「エシカル消費に対応した商品を開発・普及させる」など、さまざまな事業を通じて生物多様性保全に取り組んでいます。

一方で、企業の環境保全に対する取り組みは、私たち消費者の意識が変化しないと実現困難なものも多いです。企業努力によって生物多様性に配慮した商品を生み出しても、その商品を消費者が選ばなければその事業活動は存続できません。ネイチャーポジティブ経済の構築は、個人が消費者という役割を通じて貢献することが大切です。

環境省が呼びかける「ネイチャーポジティブ宣言」に参加を表明している企業は以下の一覧を参照してください。

参考:環境省J-GBFネイチャーポジティブ宣言事務局『参加団体一覧』

ネイチャーポジティブを知って身近な消費活動から行動を

ネイチャーポジティブとは、自然生態系の損失を食い止め、回復させることを意味する言葉。生物多様性をはじめとする水や大気、土壌などの自然資本が喪失し続けると、社会や経済に大きな悪影響を及ぼすと予想されており、世界各国や企業はネイチャーポジティブに向けさまざまな取り組みを実施しています。

一方で、ネイチャーポジティブ経済の構築には私たち一人ひとりの意識の変化が不可欠です。少しでも多くの自然環境を回復し、将来の世代が自然の恩恵を受け続けるためにも、本記事の内容を参考に、身近な消費活動から見直しをしてみてはいかがでしょうか。